2025.06.15深水千翔(海事ライター)tags: あかし, ミリタリー, 三菱重工, 海上自衛隊, 艦艇(軍艦), 防衛省自衛隊のなかでもあまり情報が公開されていない、秘密のベールに包まれた装備の一種といえるのが、海上自衛隊の海洋観測艦でしょう。非武装ながら、じつは潜水艦以上に秘匿性が高いのだとか。そのスペックや任務などに迫ります。 三菱重工業は2025年5月29日、下関造船所(山口県下関市)で海上自衛隊向けとなる新型の海洋観測艦を進水させました。同艦は「あかし」と命名され、艤装や公試が行われたのち、2026年3月ごろに海上自衛隊に引き渡される予定です。拡大画像2025年5月29日、山口県にある三菱重工下関造船所 江浦工場で進水した海洋観測艦「あかし」(深水千翔撮影)。 海洋観測艦はその名の通り海洋情報の収集を目的とする艦艇で、海上自衛隊が保有する「わかさ」「にちなん」「しょうなん」の3隻全て、神奈川県横須賀市を母港とする海洋業務・対潜支援群隷下の第1海洋観測隊に配備されています。 第1海洋観測隊が集めたデータは、潜水艦の行動や対潜水艦戦に活用されているといわれますが、任務の性格からその多くは秘密のベールに包まれています。そもそも、なぜ海洋のデータが必要なのでしょうか。 原油や鉄鉱石、そして麦や肥料まで経済活動と生活に欠かせない物資の多くを海外からの輸入に頼っている日本にとって、目に見えない海中で行動する潜水艦は大きな脅威です。実際、太平洋戦争では資源地帯であり主戦場となっている南方と日本本土を結ぶ海上交通路が、米英など連合軍の潜水艦に狙われ、多くの船舶と船員が犠牲になりました。 1982年に発生したフォークランド紛争ではアルゼンチンの巡洋艦「ヘネラル・ベルグラノ」が、イギリスの原子力潜水艦「コンカラー」によって沈められた結果、アルゼンチン海軍は水上部隊による積極的な行動がとれなくなっており、事実上港に封じ込められた形になりました。現代の戦いにおいて、海上で敵の侵攻を阻止するためには潜水艦の対策が必要不可欠です。 しかし海中ではレーダーを使うことはできません。そのため上空や海上から潜水艦を探す際は音波を利用して物体を感知するソナーを使用します。ただ、音波は海中で複雑に曲がる性質があるうえ、水温、地形、水深、塩分濃度、潮流といった海洋環境に大きく影響を受けます。潜水艦の位置を特定しようとしても、温度層が異なれば探知が難しくなるため、潜水艦を運用する側にとっても、水測状況を知る必要があります。【次ページ】海洋観測艦って普段なにやっているの?【形全然違う!】これが「あかし」と入れ替わりで退役予定のベテラン艦です(写真)