チッコカタメタノの歴史や魅力を語った日暮晃一さん=鴨川市で2025年6月6日、林帆南撮影 千葉県鴨川市や南房総市などで伝わる、牛乳を固めた「チッコカタメタノ」。一般家庭であまり食べることはなくなった一方、自ら手作りする移住者もいるという。食文化の伝承活動をする「プロジェクト鴨川味の方舟」代表の日暮晃一さん(70)にチッコカタメタノの歴史や魅力を聞いた。 ――チッコカタメタノはどんな料理ですか。 ◆本来のチッコカタメタノは、子牛を産んで数日間で搾乳される「初乳」を、酢と一緒に温めるなどして固めたものですが、一般的に売られている牛乳から作ることもできます。Advertisementチッコカタメタノを使ったそぼろご飯=日暮晃一さん提供 江戸時代に八代将軍徳川吉宗の指示で始まった日本の酪農の発祥地「嶺岡牧(みねおかまき)」の食文化で、「チッコ」は房州弁で「乳」を意味します。地域内でも「チッコ」「チッコカタメタァンガ」と呼び方はさまざまです。 ――なぜ安房地域で広まったのですか。 ◆安房地域は嶺岡牧があったことから製乳業が盛んになりました。しかし初乳は色が悪く、製乳工場に売れません。大正期には「捨てるのはもったいない」と、固めて食べられていました。チッコカタメタノ=鴨川市で2025年6月6日、林帆南撮影 鴨川市や南房総市の酪農家は1960年代に5000戸を超え、ほとんどの家庭で食べていたと伝えられています。地域では料理教室も行われていました。 ――チッコカタメタノは安房以外の地域でも食べられているのですか。 ◆他の酪農が盛んな地域でも初乳を固めた「牛乳豆腐」が食べられていますが、安房地域のチッコカタメタノの食文化は作り方や食べ方のバリエーションが多く、酪農家だけでなく一般家庭で食べられていた点でも異なります。チッコカタメタノを使った「筍詰めフライ」(日暮晃一さん提供) ――おいしい食べ方を教えてください。 ◆おすすめは、できたての温かいうちに七味としょうゆをかける食べ方です。砂糖、しょうゆ、ネギで煮るのも良いし、生魚と一緒に食べるのもおいしいです。砂糖をかけてスイーツとして食べる人もいます。 くせがなく、どんな料理でも合います。アレンジはそぼろご飯や揚げ物、田楽などさまざまあります。 ――今も家庭料理として食べられているのでしょうか。 ◆一般家庭ではほとんど食べられなくなってしまいました。地域の農家や乳牛は年々減り、初乳の量も少なくなったためです。 しかし最近は、移住者がチッコカタメタノに注目し、自分で作ったという話も聞きます。「もったいない」から始まった料理は「食べたい料理」になってくると思います。ひぐらし・こういち 千葉市中央区出身、鴨川市在住。1986年に日本大学大学院博士課程単位取得済み中退(農学博士)。元東京大大学院教授。2011年から千葉県酪農のさと(南房総市)で嶺岡牧調査員。