「若い人たちの“うねり”創れた」 中部経済連合会・水野明久会長

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インタビューに答える中部経済連合会の水野明久会長=東京都千代田区で2025年6月10日、小林努撮影 中部経済連合会の水野明久会長(72)=中部電力相談役=は18日の退任を前に毎日新聞の取材に応じ、5年間の任期中の成果について「若い人たちの、新しいものを生みだそうという“うねり”を創り出せた」と語った。 ――2月に「中部圏ビジョン2050」を策定した狙いは。 ◆ウクライナや中東情勢、トランプ米政権の動向などを受けて、世界は非常に不確実、不安定になっている。一方、国内では東京一極集中が解消せず、人口減少と少子化はなお根源的な問題だ。他方でAI(人工知能)の進歩は格段に早く、人間のような知能を持つAGI(汎用(はんよう)AI)の登場も見込まれる。Advertisement 世界が大きく変わる中、原点に戻って課題を整理するとともに、中経連としてどう先を見据えて活動していくか、会員企業を含む関係者のベクトルを合わせておきたかった。東京一極集中、交付金だけで解決せず ――国は地方創生に10年で1・3兆円を投じましたが、東京一極集中は改善しません。インタビューに答える中部経済連合会の水野明久会長=東京都千代田区で2025年6月10日、小林努撮影 ◆名古屋ですら、若い女性を中心に東京に吸い取られている。大学の数も圧倒的に東京が多い。一度東京へ出ると、経済的に多少は我慢してでも職場やエンターテインメントが充実した東京に残ろうという人が増える。 ――自治体側が交付金頼みになっているとの指摘もあります。 ◆自治体に交付金を配るだけではなかなか根本的な問題は解決せず、人口の奪い合いのような格好になっている。基礎自治体(市区町村)がもう少し頑張る必要があると思う。 ――石破茂政権は「地方創生2・0」を掲げ、関係人口拡大のため居住地以外の地域と継続的に関わる人に「第二の住民票」を交付する「ふるさと住民登録制度」の創設を打ち出しました。 ◆若者らの移住をサポートする施策として効果的かもしれない。登録した町を年に1度は必ず訪れることを条件にするなど、制度設計をよく詰めないと「絵に描いた餅」になる可能性はあるが、アイデアは面白い。ただ、効果が表れるまで10年、20年はかかる。やるなら継続する意思を示し、予見性を持たせないといけない。国の出先機関に権限と予算委譲を ――中経連として、あるべき地方創生の姿をどう考えますか。 ◆地域の機能強化に向け、国の地方支分部局(出先機関)にもっと権限を移してはどうか。というのも県は行政区分である県境にとらわれがちで、ゆえに広域連携が進まない。国は地方支分部局への権限委譲になかなか前向きにならないが、道州制を含む広域行政のあり方を巡る議論から逃げているように思えてならない。 県境にとらわれることなく基礎自治体が連携をより進めるべきだ。そのために国が地方支分部局に権限と予算を委譲すれば、県境に関係なく経済圏や生活圏など地域にマッチした施策が打てる。 ――具体的には。 ◆中部圏でいえば「三遠南信」がある。愛知、静岡、長野の3県にまたがる天竜川・豊川流域で経済圏が機能している。豊橋、浜松、飯田の3市がうまく広域連携しており、モデルになる。広がる産学連携 ――22年には中経連が主導して、中部5県の産官学による協議会を設立しました。インタビューに答える中部経済連合会の水野明久会長=東京都千代田区で2025年6月10日、小林努撮影 ◆九州や関西、東北などに比べて、中部はエリアの定義もはっきりせず、バラバラな面があった。そこで、さまざまな情報交換ができるようプラットフォームを作った。 これとは別に24年1月、東海4県の全8国立大学・機構による連携組織「C―FRONT」が設立された。後に信州大(長野県)や高専も加わり、連携が広がっている。博士人材の活用などさまざまなテーマで中経連も協力できる。 ――中部圏ビジョン2050では「中経連は地域や産学官金の“つなぎ役”になる」と宣言しています。 ◆地域間連携と産学官連携、それらを掛け合わせる。高度経済成長期には、企業は自らの業界でガンガン活動すればよかった。しかし、今は他の領域と融合していかなければ新しいものは生み出せない時代になった。 「官」も同じだ。行政区分にこだわっていては連携の効果は出せない。地域間や産官学を“つなぐ”ことこそ、広域経済団体である我々の役割だ。スタートアップ創出の下地づくりも ――中経連会長としての5年間を振り返って成果は。 ◆産業を支えるサプライチェーン(供給網)を維持するため企業の防災・減災対策を後押しする「国土強靱(きょうじん)化税制」の創設を要望するなど税制改正に注力した。中部国際空港の滑走路増設による完全24時間化にも道筋をつけた。 新ビジネスが次々に生まれるスタートアップ・エコシステム(生態系)の創出にも力を入れた。名古屋市とともに19年に開設した交流施設「ナゴヤイノベーターズガレージ」には延べ17万人が訪れていて、毎年400ほどのプログラムを展開している。 これらを経験し起業した例も複数ある。いつも活気があり、起業を目指す若い人たちの「たまり場」だ。新しいものを生みだそうという“うねり”を創り出せたのは5年間で一番の成果かなと思う。 ――一方で、積み残した課題は。 ◆「三遠南信」のような中部ならではの広域連携について、具体的に整理して自治体同士をつないでいく必要がある。スタートアップ・エコシステムも土台は作った。これらを「点」から「面」へと広げていかなければいけない。これらが今後の課題だろう。【聞き手・和田憲二】中部圏ビジョン2050↵ 2050年ごろを見据え、中部圏の将来像を描いたビジョン。19年3月の「中部圏の将来ビジョン」公表後に生じた新型コロナウイルス禍や地政学リスクの高まり、世界的な物価上昇などを踏まえて新たに策定した。「豊かで持続可能な社会」の実現に向けた日本全体の課題と対応の方向性を10項目に整理。その解決に中部圏として貢献するため、目指す姿を、産業の進化と多様化▽人材・働き方の高度化▽魅力と活力ある地域社会の形成――の観点でまとめた。製造業のスマート化を起点にデータ活用やデジタル人材育成で産業を進化させ、人への投資も拡大して高度人材や女性らの活躍を推進。リニア中央新幹線の中間駅を核とする都市圏の形成も盛り込んだ。水野明久(みずの・あきひさ)氏1953年生まれ。東大院工学系研究科修士課程修了。1978年中部電入社、同社長、会長を歴任し、2020年6月から相談役、中経連会長。名古屋市出身。