年9000万袋販売、サクッと食感「ポテトフライ」 なぜ小袋のみ?

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「ポテトフライ」は4枚入り写真一覧 ビッグ、メガ、ギガ……大容量にはつい目がいくが、ずっと小袋のみで売られているスナック菓子も気になる。発売45年を迎えた東豊製菓(愛知県豊橋市)の「ポテトフライ」もその一つ。当初は駄菓子屋さん向けだったが、今ではコンビニエンスストアやスーパーマーケットでも見かけ、年9000万袋も販売される人気商品だ。売れそうだけど、なぜ大きな袋はないの? 小さな疑問を、鈴木憲一社長にぶつけてみた。【水津聡子】小袋に詰めた工夫と情熱 「ポテトフライ」は、縦14センチ、横10センチ程度の大きさの袋に、サクッと軽くて丸いスナック菓子が4枚入っている。パッケージには「小麦粉とじゃがいもの粉末を天ぷらのように衣にして油で揚げております」と説明が。脂っこくなく、1袋、ペロッと食べてしまう。もっといっぱい入っていても食べられそうだな……。Advertisement鈴木憲一社長=水津聡子撮影写真一覧 東豊製菓は、鈴木社長の父扶二雄さんが1948年に創業した。扶二雄さんは戦争中に朝鮮半島に渡り、肝油の工場長として働いた。戦後、1年間の抑留生活を経て、ほぼ着の身着のままで帰国。親戚の家を転々とした末、現在本社がある場所にあった長屋で、あめの製造を始めた。 その後、徐々に事業を拡大し、乾燥ゼリーやかりんとう、ポリジュースなども手がけていった。しかし、いずれのお菓子も競合メーカーが多く、結局は価格競争になってしまう。「会社独自の商品を作らなくては、と考えました」。「ポテトフライ」の開発にかかわった鈴木社長は話す。 目を付けたのが、かりんとうで培った油菓子の技術だった。他の駄菓子を参考に、薄くてサクッとした食感のお菓子を目指した。なかなか簡単にはいかなかった。生地が薄すぎると割れやすく、厚くすると食感が悪くなる。脂っこさを出さないため、酸化を食い止めることにも腐心した。試行錯誤の末、80年に「ポテトフライ」の発売にこぎ着けた。 最初は生産体制が整わず、多くの量を作ることができなかった。日持ちもしないため、油が酸化しやすい夏場は販売を休止していた。発売後も油の選定やフライヤーの手直し、包装資材に何を使うかなど改良を重ねた。駄菓子屋さんで人気を集め、発売からわずか数年で、大手コンビニチェーンからも注文が入るようになった。 しかし、喜んでばかりもいられなかった。生産ラインが限られているため、納品が間に合わない。徐々に生産ラインを増やしていったが、それでも追いつかないほど。工場を増築しようにも、会社の周囲は住宅街になっていた。そこで、工場の老朽化に合わせてゼリーなど他のお菓子の製造をやめて、「ポテトフライ」の生産ラインに切り替えていった。2021年以降は「ポテトフライ」一本に。鈴木社長は「うちにしかない商品に集中しました。『他にも柱があった方が良い』と言われることも多く、危機感はありますが、それをバネに頑張っていきたいです」と決意を述べる。 ならばなおさら、大きな袋で販売してみては? 「そういう声もいただきますが、薄いので割れてしまうんです」と鈴木社長は明かす。大きな袋だと、どうしても運搬中に割れやすくなる。「ポテトフライ」の小袋には割れにくいようにお菓子を入れており、その小袋を箱詰めにして出荷することで、割れを最小限に抑えているのだ。 そうそう、4枚入りの小袋なら、1人でも分け合っても、おいしくサクッと食べきれる利点もありますね。 子どもの手の届きやすい価格を維持するという意味でも、小袋での販売は欠かせない。実は発売当初は3枚入りで20円だった。92年に30円に値上げした時に4枚入りに変更した。まさか、途中で増やしたんですか? 鈴木社長は「子どもたちにとっては10円は大きい。値上げして『損した』と思われるのがいやだったんですよ」と笑う。材料費の高騰などで、2年前に1袋35円から40円(いずれも税抜き)に値上げしたが、十分、おこづかいで買える金額だ。 「ポテトフライ」の製造に絞ったことで、原料調達や包装資材などが効率化できた。さらに絶えず機械の改良に努め、生産ラインでのロスを昔に比べて10分の1に抑えている。たゆまぬ努力で、手ごろな価格を維持しているのだ。「いろんなものが高くなっていて、正直、きついんですけど……。でも、何とか値上げしないよう頑張っていきたい」と鈴木社長は話す。 ロングセラーだけに、「ポテトフライ」を食べていたかつての子どもたちが親になり、自分の子と一緒に食べている、という声も寄せられる。鈴木社長は「お父さんはビールのおつまみに、お母さんと子どもはおやつに……みたいな話を聞くと、うれしいですね」と優しく笑う。揺るがない工夫と熱い思いも、小袋にはギュッと詰まっている。公募で命名「ポッチくん」フライドチキン味のキャラクター「ポッチくん」写真一覧 「ポテトフライ」は1980年の発売当時、「カレー味」と「たこ焼味」の2種類だった。その後、「キムチ味」や「イタリアンピザ味」、「塩キャラメル味」などさまざまな味を売り出した。現在は「フライドチキン味」「カルビ焼の味」「じゃが塩バター味」の3種類を販売している。 定番の「フライドチキン味」は、スパイシーなガーリックとジンジャーでフライドチキンの味を再現。フライドチキンを持ったキャラクターの「ポッチくん」が目印になっている。パッケージに登場した92年には名前がなかったが、2001年に公募で命名された。「『ポ』テトフライの『チ』キン味なので『ポッチくん』と考えてくれたんですよ」と鈴木社長。年齢は「永遠の5歳」で、職業は「アイドル」とのこと。焼き肉のようなロースト感が味わえる「カルビ焼の味」には、骨付きカルビと筋トレが好きな「カル兄(にい)」というキャラクターがいる。 09年発売の「じゃが塩バター味」は、「フライドチキン味」と互角の人気。こちらはキャラクターがいないんですね。「『フライドチキン味』と『カルビ焼の味』のメインターゲットは子どもだったのですが、『じゃが塩バター味』は、より広い層に食べていただきたかったので写真にしました」と鈴木社長。老いも若いも、ですね。