報道陣に公開された陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイの内部=千葉県木更津市で2025年6月2日午後3時43分、西夏生撮影写真一覧 ヘリコプターのごとく、ふわっと宙に浮き、上昇しながら飛行機に「変身」すると、空中で急加速。主翼両端の巨大なローターとエンジンが発する独特なごう音が機内に響く。体に重力がのし掛かり、ごう音は防音具がなければとても耐えられそうになかった――。 陸上自衛隊の木更津駐屯地(千葉県)で6月2日、輸送機V22オスプレイが報道公開された。幾度となく間近で見てきた機体だが、約10分間のフライト体験は想像したものとは違った。Advertisement「ずんぐり」した見た目の割に狭い機内報道陣に公開された陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイ=千葉県木更津市で2025年6月2日午後3時46分、西夏生撮影写真一覧 東京湾を臨む滑走路。脇のエプロン(駐機場)に案内されると、長さ約17・5メートル、両翼幅25・8メートルの機体が待機していた。二つのローターを回転させ、周囲には強風が吹く。 ヘッドホンのような形の防音具(イヤーマフ)と救命胴衣を身につけ、後部ハッチから機内へ。軽量化のため、天井と側面は無数の配線やパイプ、機器がむき出しになっている。座席は両側面に横向きで計24席。「ずんぐりした胴体の割に狭い」印象だ。 後部ハッチそばの席に座り、両肩と腰にシートベルトを装着して離陸を待つ。機内には陸自の操縦士と機上整備員が2人ずつ乗り込んでいる。機体は滑走路の離陸ポイントまで移動して一旦静止後、ほぼ垂直に離陸。ふわっと宙に浮く感覚を覚えた。ハイテク機だが…一抹の不安もV22オスプレイの操縦席。天井部の「インテリム・パワー・スイッチ」には黄色の目印が付けられている。以前、押し忘れが事故につながった=千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地で2025年6月2日午後3時41分、松浦吉剛撮影写真一覧 米軍が海兵隊などの輸送用に開発したオスプレイは、回転翼機と固定翼機の「いいとこ取り」とされるハイテク機だ。垂直離着陸やホバリングといったヘリコプターの機能と、プロペラ機のように高速飛行や長距離飛行する能力を兼ね備える。 自衛隊の大型ヘリCH47と性能を比較すると、最高時速(連続)は約1・7倍の465キロ、最大飛行高度は約2・7倍の7・6キロ、航続距離は約3倍の2600キロ。陸自によると、自動操縦機能とは別に、機体を常に安定させる機能を備える。多数のセンサーで機体の状態を常時モニターし、操縦士が気づかないような不具合や振動も検知できるという。 一方、複雑な構造のせいか、米国では開発段階から墜落死亡事故が相次ぎ「ウィドーメーカー(未亡人製造機)」の異名も持つ。日本では2年前、米軍機が鹿児島県・屋久島沖で墜落したばかり。フライト体験に一抹の不安もなかったといえばうそになる。上昇しながらの「変身」報道陣を乗せて飛行するV22オスプレイ=千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地で2025年6月2日午後4時20分、松浦吉剛撮影写真一覧 離陸後まもなく、三つしかない小窓の一つから主翼に目を凝らすと、「ナセル」が傾き始めた。オスプレイ最大の特徴である「飛行モード」への転換だ。 ナセルは直径11・6メートルのローターと高性能エンジンが一体になった装置。主翼両端に1基ずつあり、角度を変えることで飛行モードが切り替わる。主翼に対して垂直の「ヘリモード」の場合、ローターの推進力は上へ、水平の「固定翼機モード」なら前へと向かう。 ヘリから飛行機への「変身」は、上昇しながら10秒ほどで完了。機体は安定を保ち、強い揺れは感じなかった。機内にいてもナセルを注視していなければ気づかないだろう。ごう音を響かせ急加速飛行中のV22オスプレイの機内。開いた後部ハッチから機上整備員が安全確認をしていた=東京湾上空で2025年6月2日午後4時、松浦吉剛撮影写真一覧 空中での加速は「強烈」だ。この日の最高時速は400キロに達した。 体が一気に重力を感じ、機体後方にぐいぐいと引っ張られる。座席が横向きで操縦席が見えない影響か、進行方向が分からなくなるような感覚に陥ることも。防音具をつけていても、ローターの回転音とエンジン音の混ざったごう音が機内に響いているのが分かる。 機上整備員は床に立て膝の姿勢で半開きの後部ハッチから外をのぞき、常に後方の安全確認をしていた。米軍では飛行中の転落事故も起きている。命綱があるとはいえ、見ているこちらがハラハラした。 次第に体への負荷が弱まり、減速に気づく。ナセルを見ると、すでにヘリモードに戻っていた。機体は高度を下げ、着陸時はまるで衝撃を感じなかった。移駐を前に安全性をアピール陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイと搭乗員=千葉県木更津市で2025年6月2日午後4時12分、西夏生撮影写真一覧 「隊員の生命、その家族の人生を預かる指揮官として、飛行の安全を最優先に任務を遂行していく」。オスプレイを運用する陸自輸送航空隊の隊長、青山佳史1佐(46)は報道陣の取材にこう強調した。 事故防止に向けて、違和感に気づく専門的知識や感覚を養う▽違和感を覚えたら即座に周囲と共有▽ミスをチームでカバーする――といった取り組みを徹底しているという。 陸自は現在、17機を木更津駐屯地に暫定配備し、日々訓練を重ねている。3月には初任務として、愛媛県今治市の山林火災に伴う物資輸送に従事した。7月9日以降、佐賀空港(佐賀市)に順次移駐する予定だ。 佐賀配備は、中国の脅威を念頭に南西諸島の防衛力を強化する自衛隊の「南西シフト」の一環で、主な任務は離島奪還の専門部隊「水陸機動団」(長崎県)の島しょ部への展開を想定している。滑走路が未整備でも離着陸が可能なうえ、例えば佐賀空港から日本最西端の与那国島(沖縄県)まで、CH47なら給油が必要で7時間かかるのに対し、オスプレイは給油をせずに約3時間半で飛行できる。 ただ、佐賀空港の周辺住民には事故や騒音への懸念も根強い。移駐が迫るタイミングで企画された今回の報道公開は、オスプレイの安全性、有用性を改めてアピールする狙いとみられる。【松浦吉剛】