“おやじの酒場情報”に熱視線 根強い人気の雑誌「オトン」 札幌

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「O.tone」197号=あるた出版提供写真一覧 “おやじの持つ確かな遊び情報を伝える、大人のための雑誌”――。そんなコンセプトで親しまれる札幌のタウン情報誌「O.tone(オトン)」が、6月15日発行号で通巻200号を迎えた。 創刊時から編集長を務める「あるた出版」(札幌市)の平野たまみ社長(67)は「無料で情報が手に入るインターネット時代に買ってもらっている、という責任をものすごく感じている。雑誌にしかできない表現で、信頼できる情報を丁寧に届け続けたい」と、決意を新たにしている。Advertisement 2006年創刊。キャッチフレーズは「札幌のおやぢたちがナビゲーター」。毎回、すし屋、焼き鳥、赤ちょうちん、昼酒、喫茶店、ラーメンなどの特集を組み、主に40~50代の男性が薦める飲食店を紹介している。 中年男性にフォーカスした理由について、平野編集長は「札幌にいる大人たちも捨てたもんじゃないと若者に伝えたかった」と振り返る。 さらに「たくさん失敗もしたであろう、少し上の世代からもらう情報の方が頼りになるし、おやじたちが行くような酒場を好む女の子が多い」という。 ちなみに平野編集長が親しみを込めて「おやぢ」と呼ぶのは、「脇は甘いが、背中は甘くない男たち」だ。 20~30代にかけて深夜まで働き、連日酒を飲んで息抜きしていたという平野さん。仕事でも酒場でも、こうしたおやじたちに人生を教わってきた。 「アクティブで魅力的な彼らが持つ情報を共有し、読者にも札幌生活を楽しんでもらいたい」。この思いがオトンの出発点になっている。節目の特集は「すし」 読み応えある内容は評判を呼び、当初季刊誌だったオトンは月刊誌となり、発行部数も3万部から5万部に伸びた。「私が飲みに行くのは人と仲良くなるため。ひとり飲みは普段しない」と話す、「O.tone」の平野たまみ編集長=札幌市中央区で2025年6月17日午前11時23分、伊藤遥撮影写真一覧 記念すべき最新号の特集は「ちょいとそこのすし屋まで」と題した。 創刊号でも100号でも、節目に扱ったのはすし屋だった。「カウンターで、ささっと格好良く飲めるのが理想だった」から。今回もオマージュとして特集したが、昨今の消費者の好みに合わせ、おいしい▽安い▽気軽に行ける――店を重視した。 創刊から19年。根強い人気に支えられてきた。しかし、出版不況に加え、近年は新型コロナウイルス禍にも見舞われた。「(会社は)倒れるかな」と思ったが、一度も休まず発行を続けた。 支えてくれたのは、情報提供者、取材協力者、そして読者。「載せてくれてありがとう」と、掲載店から丁寧な手紙が届くとうれしい。ベタなつながりに励まされている。 「時代に合わせて形は変えなきゃいけないかもしれないけれど、やっぱり私は紙が好き」と平野編集長。「活字、デザイン、写真。この三つで成り立つ雑誌だからこそできる表現を大切にしていきたい」。次なる300号に向け、札幌の街の良さを発信し続ける。書店員「保存の価値ある」 街の書店員に、オトンの魅力を聞いた。 「MARUZEN&ジュンク堂書店 札幌店」の雑誌担当、松本かおり副店長(59)は「オトンはずっと売れている雑誌」という。 松本さんによると、購入客は女性も多く、男女問わず年齢層が広い。スープカレーやジンギスカンに特化した本を求める観光客にオトンの特集号を薦めると、必ず喜ばれるという。 オトンの魅力は「まず写真がきれい」。紙質もコンテンツの取材もしっかりしていて、「保存の価値がある」。松本さん自身も、一杯飲みたい時のお店など、参考にすることが多いという。【伊藤遥】