アルコール依存症の診断を受け、断酒した高山和人さん(左)。右は妻の佳恵さん=八街市で2025年6月24日午後8時8分、林帆南撮影写真一覧 千葉県八街市で2021年6月に下校中の児童5人がトラックにはねられて死傷した事故から28日で4年となる。この運転手は周りから注意されても飲酒運転をやめず、事故直前にも酒を飲んでいた。 「アルコール依存症と同じ飲み方だ」。八街市内で「断酒会」を運営する高山和人さん(54)には、酒に溺れて事故を繰り返したかつての自分と重なって見えた。【林帆南】Advertisement 1度目の大事故は28年前だった。 「独身最後の酒だな」。結婚式を1週間後に控え、地元の長野から上京してきた弟と酒を酌み交わした。上機嫌に店から店へとハシゴし、途中から記憶がぼんやりとして――。 翌日、目が覚めると、病院のベッドの上にいた。頭や足は縫われ包帯が巻かれている。 ワゴン車で帰宅する途中、電柱にぶつかった。同乗していた弟は、別の病院で治療を受けている。ワゴン車はフロントガラスが割れ、廃車。「シートベルトをしてなかったら死んでいた」と青ざめた。「事故を起こさなければいい」 高校卒業後に千葉県内で働き始め、職場の付き合いで酒の味を覚えた。そのうち人間関係や仕事のストレスを発散するため毎晩深酒し、そのまま運転して帰るように。飲酒運転を繰り返していた20代の頃の高山和人さん=本人提供写真一覧 「飲酒運転は良くないけど、酔うとどうでもよくなり、たがが外れてしまった」 検問で警察に捕まっても、「次は捕まらなければいい。事故を起こさなければいい」と意に介さなかった。 さすがに結婚直前の大事故で反省し、自分用の車を持たず、電車通勤に切り替えた。 それでも酒はやめられない。妻の佳恵さん(51)に「飲みすぎ」と言われるのが嫌で、繁華街で飲んだ後、帰宅しないこともしばしばだった。 そして、30歳で2回目の大事故を起こした。佳恵さんが長女を妊娠して里帰りした隙(すき)を突くように、佳恵さんの軽自動車で千葉市内の居酒屋に向かった。 「『これで車で飲みに行ける』みたいな感じだったんでしょう。とことん飲んで車で帰り、家に着く直前に寝てしまったのか電柱にぶつかった」。車は大破したが、幸いけがはなかった。家族に暴言 「3回目は死ぬ」と思い、これ以降は飲酒運転をしていない。佳恵さんも「夜中に飲酒した状態で酒を買いにいかれては困る」と、車の鍵を入れたバッグを枕元に置いて寝た。 ただ、飲酒量は増え続け、家族に暴言を吐くようになった。仕事にも支障を来し、たびたび休職した。 40歳で、佳恵さんに連れられて病院を受診し、アルコール依存症と診断された。「このままでは50歳までもたない」。医師の勧めで3カ月入院した。 その間、佳恵さんはアルコール依存症について学ぶ教室に。依存症患者が自助グループである断酒会に参加して回復する姿に希望を感じ、和人さんを断酒会に連れて行った。 13年に和人さんは、八街市で新たに断酒会を起こした。そこで自身の体験を伝えて恥をさらし、他人の話を聞いて「こうなりたくない」と戒めている。交通刑務所で断酒を14年間継続して表彰された高山和人さん=本人提供写真一覧 和人さんは21年の八街市の事故を機に、飲酒運転の深刻さを見つめ直した。「事故を起こした運転手は身近にいたのに、私たちにつながらなかった」 少しでも悲劇を減らしたい。そう考えて、24年から交通犯罪の受刑者を収容する市原刑務所で、自身の体験を話す活動をしている。「俺も一歩間違えたらここにいた」という気持ちを込めて、ありのままに伝えている。 和人さん自身、断酒を続けている。だけど緊張は緩めない。「一滴でも飲んだら元に戻り、飲酒運転もしてしまうだろう。時間がたとうが忘れてはいけない」八街市児童5人死傷事故 八街市で2021年6月28日、下校中の児童の列に大型トラックが突っ込み、児童2人が死亡、3人が大けがをした。運転手の男性は22年、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪で懲役14年の判決が確定。判決によると、男性は事故前に焼酎を飲みハンドル操作できない居眠り運転の状態になっていた。