大阪マラソンの完走記念メダルを見つめ笑みがこぼれる杉本広隆さん=大阪市中央区で2025年2月24日午後1時43分、大坪菜々美撮影 大阪市で24日に開催された大阪マラソン(大阪府、大阪市、大阪陸上競技協会主催、毎日新聞社など共催)で、約3万人が出走した。それぞれのランナーが目標や思いを抱きながら42・195キロを駆け抜けた。 大阪市の中学校の特別支援学級教諭、杉本広隆さん(43)もその一人。元自衛官で13年かけ教員採用試験に合格。普段から支えてもらっている妻や長男に感謝の気持ちを持って完走したい。Advertisement 走るのは得意だった。小学生のころはマラソンで常に上位。中学の陸上部では長距離専門だったが、部活で本格的に取り組んだのはその3年間だけだった。 大学では教師を目指し、教員免許を取得したが、教壇に立つには経験が足りないと思った。「未熟でまだまだ心が弱い」。全く分野の異なる陸上自衛隊に入隊した。 訓練は厳しかった。長距離走の能力を買われ持続走訓練隊に入るも、自分のことを「不器用」と語る。制限時間内に機械の解体や結合に取り組む練習では最下位。それでも同期は見捨てず、残って練習に付き合ってくれた。 「支えてもらった人生。今度は自分も支える側になりたい」。約3年務めた自衛隊を辞め、非常勤講師などで教壇に立った。 年に1度の教員採用試験を受け続けたが、届くのはいつも「不合格」の通知。そんな時に支えてくれたのが妻(47)や長男(15)だった。大阪マラソンを完走した杉本広隆さん=大阪市中央区で2025年2月24日午後1時31分、大坪菜々美撮影 長男は重度の知的障害があり、会話は難しい。ただ、散歩が大好きで杉本さんの手を引っ張って4~5キロを歩くと、とても良い顔になる。陸上部の指導などで家族との時間がとれない中、息子と歩く時間はほっとした。 なんとか家族のためにも合格したい。やっと13回目にして念願がかなった。「ほとんど息子のことを任せてしまった妻にも感謝しかない」 今回、大阪マラソンへの出場は4回目だが、9年ぶり。自身が懸命な姿を見せることで、家族に感謝の気持ちを示そうとした。テーマは「父ちゃん頑張る大作戦」だ。 走っている最中は時折、顔をゆがませながらも、最後は両手の握り拳を強く上げフィニッシュした。タイムは目標の3時間半を切った。 家族は大会を見に来られなかったが、杉本さんは「苦しいところで沿道の子どもたちの声援を聞くと、息子の顔が浮かび、なんとか完走できた」と話す。 「妻と息子に『ありがとう』と伝えたい」 42・195キロを走り切って完走記念メダルを見つめる「父ちゃん」は、ほほえんでいた。【大坪菜々美】