厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京・霞が関で、竹内紀臣撮影 厚生労働省は27日、人口動態統計の速報値を公表した。2024年の出生数は72万988人で、統計を取り始めた1899年以来過去最少となった。速報値は在日外国人や在外日本人を含むため、6月ごろに公表される国内の日本人に限った概数では、出生数が70万人を割る可能性が高い。 出生数は9年連続の減少で、23年の75万8631人から3万7643人減り、前年比5%の減少となった。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(中位推計)では出生数が72万人台となるのは39年で、推計よりおよそ15年早いペースで少子化が進んでいる。在日外国人らの出生数は毎年2万~3万人で、過去10年の平均的な減り幅で計算すると24年の国内の日本人に限った出生数は69万人台となる見通しだ。Advertisement 死者数は前年比2万8181人(前年比1・8%)増で過去最多の161万8684人。死者数の増加は4年連続となる。死者数が出生数を上回る「自然減」は18年連続で、減少幅も過去最大の89万7696人となった。工作をして遊ぶ親子=長崎市三芳町で 一方、婚姻件数は前年から1万718組(同2・2%)増加し、49万9999組となった。婚姻件数は20、21年に新型コロナウイルス禍で落ち込み、22年に一時回復したが、23年に戦後初めて50万組を割り、戦後最少の48万9281組となっていた。離婚件数は18万9952組で同1・1%増となった。婚姻件数の増加は出生数の減少に歯止めをかける兆しになる可能性もある。 厚労省の担当者は「若年人口や女性人口の減少、晩婚化や晩産化によって中期的に出生数は減少傾向となっている。近年は新型コロナの影響もある」と分析している。 こども家庭庁は少子化対策として、24年度から児童手当の拡充などを柱とする3・6兆円規模の「こども未来戦略」加速化プランを開始。26年度からは財源の一部となる「子ども・子育て支援金」の徴収も始まる。少子化に歯止めがかからない中、加速化プランの効果の検証も今後求められる。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミスト=本人提供 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が公表した将来推計(中位推計)で、在日外国人を含む出生数が72万人台となるのは2039年だ。15年も前倒しとなった格好だが、なぜこのような乖離(かいり)が生じてしまったのだろうか。 社人研は国勢調査を基に出生数や世帯数などを5年ごとに推計し、公表している。23年に公表された最新の将来推計人口は、20年の国勢調査を基準に70年までの人口や出生数、世帯数などの推移を明らかにしている。 推計は過去の実績を基に「高位」「中位」「低位」の三つの仮定を設けている。この中で中位推計は将来の値を最も現実的に予測した推計値とされ、報道で主に引用されるケースが多い。 中位推計の在日外国人を含む出生数は、24年が77万9000人。32年まで77万人台が続き、39年に72万人6000人、43年に70万人を割る見込みで、現状よりも高く推移しているようだ。 では、低位推計はどうか。在日外国人を含む出生数は22年に70万3000人、23年に67万8000人で70万人を割る。24年は69万人で、中位推計よりも現状に近い。 中位推計と現状が乖離しているのはなぜか。社人研が要因の一つに挙げるのが、20年に発生した新型コロナウイルスのパンデミックによる影響だ。推計では23年には婚姻件数がパンデミック以前の水準に戻ると想定し、24年に合計特殊出生率と出生数の回復を見込んでいた。ただ、実際にはコロナ以前の水準よりも低い。社人研の担当者は「コロナの影響は24年になっても続いている」と説明する。 少し異なる見方を示すのは、第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストだ。コロナ前後の出生数減少の要因を分析したところ、19年時点で出生数は前年と比べて減少幅が大きくなっていたという。 特に25~34歳の女性の出生率の低下が大きく、星野氏は「妊娠から出産までの時間差を踏まえれば、コロナが出生数に影響するのは主に21年以降になるが、実際には19年時点で出生数の減少や出産適齢期とされる年代の女性の出生率低下が加速していた」と指摘。「近年、少子化が加速した要因の一つにコロナの影響があるのは確かだが、それ以外の要因も強く働いてきたと見るべきではないか」との考えを示す。 星野氏はその上で「子どもを持てない、持ちたくないと考えるから結婚に至らないケースも増えているのではないか。子育てと両立できる働き方の浸透や将来不安の払拭(ふっしょく)に地道に取り組む政策が求められる」と提案する。【塩田彩】