モンハナシャコの3~5倍もあるトラフシャコの頭部。直径は約10センチ。正面にあるのがハードパンチを生み出す「捕脚」。上部が「複眼」=高知県大月町で、三村政司撮影 すしネタとして知られる「シャコ」。近年は漁獲量の減少で、口にする機会がすっかり減ってしまいました。今回の写真はシャコの中でも最大の「トラフシャコ」です。 高知県・柏島沖、深さ約20メートルの海に潜ると、ガレキの散らばる砂底の穴から大きな頭を出していました。まるで卵からふ化したエイリアンのようで、少しばかり不気味。一般的な食用のシャコが全長15センチ程度なのに、トラフシャコは40センチにもなり、頭部だけでヒトの拳ぐらいもあるためです。Advertisement 国内だと紀伊半島以南の海で暮らしているものの、ダイビングで見かけることはほとんどありません。 ◇ フィリピンやタヒチ(仏領ポリネシア)では、このトラフシャコも食用として水揚げされています。食べたことがあるヒトに聞くと、「通常のシャコと同じようにおいしい」とのこと。 その大きさと一般的な食用のシャコよりも南方性のため、「トラフ=海底のくぼ地」の名を冠するのだろうか、と私は想像していました。でも、実はトラのようなしま模様「虎斑(とらふ)」が和名の由来。写真では頭部しか見えていないものの、胸部や腹部にはしま模様があるのです。 シャコという名前は、ゆでるとシャクナゲの花の色のような紫色になることからついた、という説があります。江戸時代にはシャクナギ(シャクナゲ)と呼ばれ、シャクナゲの漢字表記「石楠花」や「石花」の「シャクカ」が変化して「シャコ」と呼ぶようになったのだとか。江戸前ずしや江戸っ子らしいエピソードですね。 ちなみにシャコ類の英名は「Mantis shrimp(カマキリエビ)」。しかし、エビではなく独立した「シャコ目」の甲殻類です。食感もエビよりむしろカニに近く、世界中で400種以上の仲間が暮らしています。 ◇ シャコは昆虫と同じように複眼を持ち、眼柄(がんぺい)と呼ばれる組織で頭部とつながっています。左右それぞれを動かすことで、360度の視野があるとされ、ハンターとしての能力の高さがうかがえます。 シャコ類は決して大きくないのに、「最強の水中生物」と称されることも少なくありません。特に「モンハナシャコ」のパンチは22口径の銃弾の威力に匹敵するともいわれ、貝殻を割ったり、飼育下で水槽のガラスを砕いたりしてしまうほど。ヒトがうっかり手を出そうものなら、骨折させられてしまいます。 普段は折りたたんでいる「捕脚」を、アッパーカットのように繰り出して攻撃するのです。ヒトのプロボクサーのパンチの速度は時速20~30キロですが、モンハナシャコは80キロ。その速さが泡を生み、泡がはじける時の衝撃波を加えて破壊するというメカニズムです。 ◇ トラフシャコはモンハナシャコと違い、パンチの破壊力よりむしろ突き刺す能力を武器にしているというものの、パンチで水槽を割ったという報告は多いようです。モンハナシャコと同等の力を持っているのでしょう。 そう思って写真を眺めると、ファイティングポーズを取っているようにも見えます。ますます恐ろしい「エイリアン」ですね。(高知県大月町で撮影)【三村政司】