訓練の極意は「褒めること」 全国を巡る警察犬のスペシャリスト

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警察犬の「広域技能指導官」を務める、神奈川県警鑑識課の赤坂一彦課長代理=横浜市栄区で2025年5月13日午前10時44分、矢野大輝撮影写真一覧 行方不明者の捜索や犯罪捜査に活躍する警察犬。その飼育や訓練を担い、警察内部で「犬のスペシャリスト」として知られるベテラン警察官がいる。全国で2人しかいない警察庁指定の「広域技能指導官」を務める、神奈川県警鑑識課の赤坂一彦課長代理(59)だ。 日夜厳しい指導を徹底していると思いきや、コツは意外にも「褒めること」という。警察犬の役割や独自の指導法とは、どんなものなのか。Advertisement 「伏せ。待て」「(おもちゃを)取ってこーい。OK、いいねー」。横浜市栄区にある神奈川県警の警察犬訓練所。5月中旬、ジャーマンシェパードの「ジゲン号(6歳、雄)」は、担当警察官の指示に元気よく反応し、楽しそうに敷地内を駆け回っていた。 ジゲン号は昨年6月、逗子市内で行方不明になった認知症の疑いがある高齢女性を捜索。山の中でハイキングコースから100メートル以上転落していた女性を発見し、命を救った。これまでに8件の行方不明者の発見に貢献しているという。足跡訓練を行う神奈川県警の警察犬=横浜市栄区で2025年5月13日午前9時18分、矢野大輝撮影写真一覧 こうした警察犬に日々訓練を積ませているのが、赤坂さんが所属する県警鑑識課の警察犬係だ。警察官が直接飼育・訓練する「直轄警察犬」の訓練所は全国で29都道府県にあり、県内では栄区の訓練所が唯一となる。15頭に日夜訓練を行い、応援に入る嘱託の犬も交えて24時間体制で現場に出動する。 訓練では命令通りに行動するよう促すのはもちろん、「嗅覚訓練」も重視される。犬は優れた嗅覚を持つものの、そのままでは捜査や捜索に役立たない。人の足跡の臭いをたどらせたり、遺留品の臭いを覚えさせたりと、訓練は多岐にわたる。赤坂さんは「マンネリ化しないよう、犬が探す場所を頻繁に変えている」と工夫を語る。 赤坂さんが重視しているのは「褒めること」だ。きっかけは20年前の出来事だった。 35歳で警察犬係に任命され、必死になって捜索や捜査に駆け回った。しかし仕事が軌道に乗り始めた頃、当時担当していた「ムート号(雄)」が現場で突然動かなくなった。服従訓練を行う神奈川県警の警察犬「ジゲン号」。行方不明者を発見した実績がある=横浜市栄区で2025年5月13日午前9時48分、矢野大輝撮影写真一覧 「厳しい訓練を続けたため、間違えた時に叱られることが怖くなっていたんだと思う」。指導に熱が入りすぎ、犬との信頼関係を築けていなかったことに気づいたという。訓練の仕方を180度変え「褒めて自信を持たせる」ことを心がけるようになった。 それ以降、犬の能力はより現場で発揮されるようになり、赤坂さんの指導方針は警察内部でも評判を呼んだ。2016年に卓越した技能を持つ広域技能指導官に任命され、今では全国を巡って自身の経験や技術を他の警察官に伝えている。 県警によると、県内では24年、捜査や捜索などで直轄警察犬が出動した数が682件に上った。今年3月にも、ラブラドルレトリバーの「アル号(8歳、雄)」が横須賀市内で家出をした少年(11)を自宅近くで発見するなど、活躍の場は多い。 赤坂さんは、定年まで残り1年を切った。「警察犬がこれからも捜査や捜索に貢献してほしい。後輩の警察官は『昨日よりは一歩でも半歩でも前に進む』という気持ちで訓練を頑張ってほしい」と願っている。【矢野大輝】