憧れの「令和のイケオジ」三浦友和 百恵との黄金コンビから半世紀

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「一つ一つ手探りでやってきた」と語る三浦友和=新宮巳美撮影 三浦友和が今、熱い。1970年代、妻となる山口百恵との「ゴールデンコンビ」で少女たちをときめかせ、今で言う「正統派イケメン」の象徴だった。 あれから半世紀が過ぎ73歳となった今、そのときの少女たち――いや、世代や性別を超えて――「令和のイケオジ」として憧れのまなざしを向けられている。Advertisement「続・続・最後から二番目の恋」第7話の一場面。成瀬千次役の三浦友和。オレンジのセーターがよく似合う=フジテレビ提供映画、ドラマでベテランの存在感 長年、第一線で活躍を続けているが、近年の活躍は特にめざましい。 第77回毎日映画コンクールで日本映画大賞などに輝いた「ケイコ 目を澄ませて」(2022年、三宅唱監督)では、主人公で聴覚障害のある女性ボクサー、ケイコ(岸井ゆきの)を支えるジム会長役を好演。ジム閉鎖を決めて、ケイコと鏡の前でシャドーボクシングをする場面は、近年の日本映画屈指の名シーンだ。 24年11月からネットフリックスで配信された「さよならのつづき」では、登場シーンこそ少ないものの、これぞベテランという存在感を残した。シリーズの新キャラ スパイスに そして、話題の出演ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ系、月曜午後9時)。「さよならのつづき」で脚本を担当した岡田恵和の推薦で出演につながったという。 「続・続・最後から……」は、テレビ局プロデューサーの吉野千明(小泉今日子)と、鎌倉市役所職員の長倉和平(中井貴一)が主人公の人気シリーズ。古都・鎌倉を舞台に、二人の恋人未満の関係性が紡がれてきた。 三浦は今作から登場した新キャラクターの町医者、成瀬千次を演じる。インタビューで三浦は「作品全体のいいスパイスになれたら」と話した。 実際、主要キャストがほとんど変わらないシリーズ3作目において、三浦演じる成瀬は、時にピリッと、時に奥深い味わいをこのドラマにもたらしている。「一つ一つ手探りでやってきた」と語る三浦友和=新宮巳美撮影いい感じの三角関係 成瀬はずいぶん前に愛する妻に先立たれているが、なんと妻そっくりの千明が自分の病院に来院し、ドキドキした感情を抱く。その全てを打ち明けるが、千明の方もまんざらではなく二人はちょっと、いい感じだ。 一方、和平ともひょんなことから飲み仲間に。互いに男やもめ。通じるところがあるのか、還暦を過ぎてできた友人関係もこれまたいい感じ。 放送されているこの枠は、かつてトレンディードラマブームを生んだ伝統の「月9」。ともすれば、もつれた三角関係になりそうなものだが、令和の「月9」はひと味違う。中井貴一と熟練のアドリブ掛け合い 6月2日に放送された第8話では、3人で語らい、酔っ払い、なんだかすごく楽しそうな場面も。ドラマはいよいよ終盤にさしかかり、どんな着地を見せるのか楽しみだ。 往年の「友和ファン」はもちろん、記者の同僚である20代女性も「ダンディーですてき」と絶賛する。象徴的なのは4月28日の第3話で、三浦演じる成瀬と中井演じる和平が初めて出会い居酒屋で意気投合するシーン。 成瀬「年は? 年齢」 和平「63です」 成瀬「じゃあ俺の方が大分兄貴だ。73」 和平「73? お若いですねえ。こんなオレンジのセーター着れないですよ」 成瀬「これラッキーカラーってずっと言われてて」 視聴者はクスッと笑い、激しく同意した。番組関係者によると、ここは中井が仕掛けたアドリブに三浦が応じた、熟練の掛け合いだったという。「続・続・最後から二番目の恋」第7話の一場面。長倉和平(左、中井貴一)と成瀬千次(三浦友和)=フジテレビ提供音楽志望に「違うことやったら」 ここで改めて俳優、三浦友和のキャリアを振り返りたい。72年にTBS系ドラマ「シークレット部隊」でデビュー。ただ、元々はミュージシャン志望だった。 高校の同級生、故忌野清志郎がRCサクセションとしてデビューしたことをきっかけに「彼らの口利きでこの世界に入ったんです」。だが、RCのマネジャーから「お前(才能ないから)、なんか違うことやったら」と言われて俳優になったという。「俳優、いつでもやめられる」はずが 25年5月、毎日新聞のインタビューで三浦は「俳優になって最初の1、2年は面白さが分からなかった。舞台と違って、映像の仕事はお客さんが目の前にいるわけでもないので、いつでもやめられるなって、思っていた時期があった」と振り返る。 だが、山口百恵主演の映画「伊豆の踊子」に出演したことが意識を大きく変えた。一般の観客を交えた完成披露試写会での温かい反応を見たとき、「真面目にやらなくては」と強く感じたそうだ。「続・続・最後から二番目の恋」では新キャラを演じた=新宮巳美撮影正統派からダーティーな役まで その後、TBS系「赤い疑惑」などの「赤いシリーズ」や、「潮騒」「風立ちぬ」「ふりむけば愛」といった映画で山口百恵と共演。「ゴールデンコンビ」と言われ、ヒット作に恵まれた。 その頃にできあがった「品行方正な二枚目」というイメージに悩んだ時期もあったが、吉永小百合主演の「天国の駅 HEAVEN STATION」(84年、出目昌伸監督)での悪役や、故相米慎二監督による「台風クラブ」(85年)で無責任な中学教師を演じ話題に。次第に役柄を広げていく。一つ一つ手探りでやってきた 「続・続・最後から……」にも出演する渡辺真起子と恋人役で共演した「M/OTHER」(99年、諏訪敦彦監督)では、リアリティーある会話劇が高く評価され、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した。 三浦は言う。「不確かなことだけれど、清く正しく美しく、と世間的に見られている20代だったかな。ただ、そこから役が変わっていくのは自分で変えられるわけではなく、そういうお話をいただき、懸命にこなすというか。こなせないんですけれど……。自分ではイメージのことは、本当は分からない。一つ一つ手探りでやってきました」震災にコロナ禍……演じる意義を考え 謙虚にひたむきに映像俳優の仕事に取り組み、12年に紫綬褒章、23年に旭日小綬章を受章した。 長い俳優人生を歩む中で、大地震や豪雨災害にコロナ禍など、近年はその存在意義を考えさせられることが増えたといい、こう語った。 「自分たちの仕事ってなんなんだろうなと。現実があまりにも厳しい時って、『なくてもいいじゃないか』って思われがちですよね。有事の際には最初に排除されるものが表現する仕事なので、すごく考えます」。でも、「だからこそ必要なんだろうなってところに行き着く。大変すぎて、夢も希望も持てないよっていう時にこそ、役に立つ仕事なんだと思うようにしていますし、思わざるを得ないです」第78回カンヌ国際映画祭で「遠い山なみの光」の上映後、日本の報道陣の写真撮影に応じた(左から)石川慶監督、出演の三浦友和、松下洸平、広瀬すず、吉田羊、カミラ・アイコ、原作者のカズオ・イシグロ=フランス・カンヌで2025年5月15日、勝田友巳撮影「ホンが面白いか、役をできるか」 5月に開かれたカンヌ国際映画祭では、ノーベル賞作家、カズオ・イシグロの同名小説が原作の出演映画「遠い山なみの光」(石川慶監督、9月5日公開)でレッドカーペットを歩いた姿も、記憶に新しい。 カンヌといえば、2年前の同映画祭に出品され、主演の役所広司が最優秀男優賞を受賞した「PERFECT DAYS」(ビム・ベンダース監督)にも重要な役柄で出演している。 「いただいたホン(脚本)が自分にとって面白いか」と「自分にその役ができるか、その要素があるかないか」で出演を決めるという三浦。テレビやスクリーンで、まだまだいろんな顔を見せてほしい。【井上知大】