子どもをだまして保護者のクレジットカードを不正利用するケースもある=ゲッティ(写真はイメージ) 詐欺の手口や「闇バイト」への勧誘が巧妙化するなか、発達上の課題を持つ子どもも、さまざまな犯罪に巻き込まれるリスクがある。放課後等デイサービスなど障害児通所支援事業を全国展開する「デコボコベース」(本社・東京都港区)には、そうした子どもの被害に関する相談が増えているという。実情と対策について聞いた。狙われる保護者のクレカ 一つは、注意欠如・多動症(ADHD)の傾向があり、認知力にも課題があった小学校6年生男児のケースだ。「レアカード」欲しさに不良グループの口車に乗せられ、親のクレジットカードの情報を渡してしまい8万円を不正利用された。Advertisement 問題の根を詳しく聞いた。 学校でレアカードが話題となっている際に男児は「僕、持っている」とウソをついてしまった。その背景には持っていないとクラスメートの会話に入れないという事情と、衝動性が強く手に入れたいという欲望を抑えるのが難しい男児自身の特性もあった。 「ウソを隠すために実際にレアカードを手に入れなければならなくなって、男児はカードショップに行ったんですね」と同社相談支援専門員の田中加奈子さんは分析する。 カードショップにはカードゲームができるフリー対戦スペースがあり、不良グループはそこで客を観察し、負けると悔しさで激高したり次々にカードを買ったりするような客を探す。 男児は「標的」に当てはまっていたようだ。 「強いレアカードが欲しくない?」 不良グループは、男児がトイレで席を立ったところで声をかけた。男児が興味を示したところ店舗の外へ連れ出し、「お金がなかったら家にあるクレジットカード両面の写真をスマホに送って。代わりにレアカードを買って送ってあげる」と指示した。 男児は言われるままに写真を送ったが、カードが送られてくることはなかった。 不良グループはカードを購入せず、男児から入手したカード情報を使って別の高額な商品を不正に購入していたらしい。 保護者はしばらく後に身に覚えのない高額な引き落としがあることに気付き、被害を知ったという。SNSでつけ込まれ 交流サイト(SNS)のチャットで闇バイトに誘われて、犯行の「見張り役」として知らぬ間に事件に加担させられたケースもあった。 「コミュニケーションに課題を持つ子は適切に周囲に相談したり助けを求めたりすることが苦手な子が多く、気付くと深刻な事態になっているということもあります」と田中さんは唇をかんだ。 知的な能力が高くても障害や特性などの理由で「誰にも相手にされていない」と日ごろ感じている子どもや、断ることが苦手な子どもは他者に依存しやすく、SNSでつながっただけの相手に入れ込んでしまうことがある。そして相手につけ込まれたり、利用されたりすることがあるのだという。子どもを犯罪から守るための対策を語る北川庄治さん(左)と田中加奈子さん=東京都港区のデコボコベースで2025年5月23日午前11時9分、山崎明子撮影 一方で、日常の不満をSNSに攻撃的な言葉で書き込んだために、捜査機関から犯行予告と見なされるケースもある。 「人を動かしている実感を得たいという心理から来る行動ですが、社会的には許されません」と語るのは、デコボコベースの最高品質責任者である北川庄治さんだ。 北川さんは「説教して終わりではなく、背景へのアプローチが大切です」と訴える。孤独を感じさせないために では、こうした子どもたちが直面するリスクに対してどう備えればいいのだろうか。 田中さんのアドバイスは、保護者が正しい知識を得ることに加えて、SNSのアプリを管理することを提案する。 一方、北川さんは子どもの「余暇」を充実させることも重視する。 「暇な時間は誰しも孤独を感じやすいものです。そんな時に他人とのつながりを試したくて誰かを攻撃したり性的な問題行動に走ったりすることがあります。保護者は子どもが小さいうちから放課後や週末の過ごし方を一緒に考えてあげてほしいですね」 さらに、医療や福祉を担う人たちとつながることもセーフティーネットになりうるという。 北川さんは「自治体の福祉窓口や私たちのような福祉の専門家を頼ってもいい。子どもにとって家族だけでなく『心配してくれる人』の存在は重要です」と話した。 デコボコベースは6月14日、子どもを犯罪から守るためにというテーマでオンラインセミナーを行う。参加は無料。申し込みはhttps://forms.gle/Bmdbmp5pLBGfioHp9から。【山崎明子】