「うんちスポーツ」に使ううんち形の帽子を手に、ゆるスポーツの魅力を語る澤田智洋さん=東京都中央区で2026年9月24日午前11時14分、藤井達也撮影 年齢や性別、運動神経にかかわらず誰もが楽しめる多彩な競技「ゆるスポーツ」。点字の手紙で思いを伝える「ホワイトレター」。全盲の書家が筆を走らせる「ノールック書道」。世界ゆるスポーツ協会代表理事でコピーライターの澤田智洋さん(45)は、全盲で知的障害などもある長男の成長や将来を思い、これら数々のアイデアを生み出し実践してきた。「障害があっても夢や希望が広がっていることを、息子をはじめ多くの子どもたちに活動を通して伝えたい」と語る。気づいた福祉の魅力 ――長男の誕生後、約200人の障害当事者やその家族らに会い、話を聞いたそうですね。 ◆長男は僕が32歳の時に生まれました。生後3カ月ごろ、目の疾患が判明して手術を受け、先天的に全盲であることも分かりました。知的障害や自閉スペクトラム症もあると診断を受けたのは、小学校低学年のころです。Advertisement 目の手術の際は数カ月間入退院を繰り返し、忙殺されました。少し落ち着いたころ、息子の育て方のヒントを得ようと関連する本を読みましたが、音楽家など優れた能力のある全盲の人の生い立ちだったり、かなり以前の出版物だったりすることが多かった。時代に合った、視覚障害のある子どもの一般的な育て方を知るには、当事者から直接聞く方が良いのではと考え、知人の紹介などを通じて話を聞いて回りました。 その中で強く感じたのは、福祉の持つ魅力です。タイプライターは、イタリアの発明家が目の見えない友人が手紙を書けるようにと発明したといわれています。エレベーターが主要な駅に設置されているのは、車椅子利用者が強く要望してくれたおかげです。 僕は広告会社に入社し、広告費を支払える強い会社をより強くする仕事をしてきました。一方で福祉は、弱さを起点に社会をより良くしていくもの。僕がやりたいのは福祉の側だと気付きました。会社には今も在籍していますが、強いものをより強くするような仕事は断っています。「長男と楽しみたい」ゆるスポーツ誕生ゆるスポーツが誕生した経緯や魅力について語る澤田智洋さん=東京都中央区で2026年9月24日、藤井達也撮影 ――ゆるスポーツはどのように誕生したのですか。 ◆息子が1歳のころ。公園に連れて行くと、他の家族連れがキャッチボールなどを楽しんでいました。我が家は子どもが大きくなっても、そんなことはできない。息子とスポーツを楽しむにはどうすればいいか。僕も運動が苦手。そうだ、誰でも参加できる新しいスポーツを作ればいいんだと思い立ち、海外の事例を参考に考案したのがゆるスポーツです。 重要な要素は「勝ったらうれしい、負けても楽しい」と「笑顔より笑いを大事に」。笑い声が出るくらい楽しくないと、運動が苦手な人は近寄ってきません。2015年に「世界ゆるスポーツ協会」を設立し、崩れやすいうんち型の帽子をかぶってリレーなどを楽しむ「うんちスポーツ」や、芋虫の格好をしてゴロゴロ転がりながらプレーする「イモムシラグビー」など、新たに創作した競技が現在130以上あります。 週末に全国の商業施設などで家族向けのイベントとして実施しているほか、企業の社内運動会や研修にも活用され、これまでに30万人以上が体験しています。息子からの点字の手紙がヒントに「ホワイトレター」や「ノールック書道」について語る澤田智洋さん=東京都中央区で2026年9月24日、藤井達也撮影 ――「ホワイトレター」は昨年の大阪・関西万博の会場で展示もされました。 ◆きっかけは、息子が通う盲学校で3年前にあった進路相談会。視覚障害に加え知的障害などもある盲重複障害の子どもの保護者らが集められ、我が家も参加しました。その席で講師の先生が「盲重複障害のある子どもは将来働くのは難しい。今から現実を見てください」と述べたのです。 本当に働けないのか。働く場所がないというなら、作ればいいのではないか――。 息子は何ができるか考えていると、学校で習った点字で以前僕に手紙を書いてくれたことを思い出しました。点字の50音などが書かれた一覧表を見ながら一文字一文字ゆっくり読むことで、息子の気持ちが心の奥深くに伝わってきました。大切な人に送る手紙を視覚障害のある人が点字に翻訳して届ける、代筆サービスなんてどうだろう。同じ盲重複障害のある子どもを持つ保護者と一般社団法人「FULLWONDER(フルワンダー)」を昨年4月に設立し、事業をスタートさせました。 翻訳は、盲重複障害のある高校生らが担当。点字の手紙は印字がなく真っ白なことから、「ホワイトレター」と名付けました。昨年8月には大阪・関西万博の「ウーマンズパビリオン」に作品を展示。おなかの中で亡くなった天国にいる赤ちゃんへの手紙といった作品が並び、点字の50音表を使って読み進めるうちに涙を流す人も多くいました。 今年7月からは、視覚障害者が書家となり身体の感覚と内なるイメージで書を書く「ノールック書道」についても、作品販売などの事業を開始しました。現代アートのような作品で、フルワンダーのメンバーでもある書道家が監修しています。目の見える人が目隠しをして書道を体験するイベントも実施しており、見えないからこそ視覚に依存した既成概念から解放される自由を、ぜひ体験してほしいです。「盲B盲Gの多様な職業、伝えたい」「障害があっても夢や希望が広がっていることを、息子をはじめ多くの子どもたちに伝えたい」と話す澤田智洋さん=東京都中央区で2026年9月24日、藤井達也撮影 ――盲学校に通う子どもたちに、先輩たちがどんな職業に就いているか知ってもらおうと、OB、OGのインタビューをまとめたサイト「盲B盲G」を3月に開設しました。 ◆息子が通う盲学校のPTA会長を務めた際、生徒はみんな個性豊かで一人一人違うのに、授業などで子どもたちに伝える職業の選択肢が狭いような気がして、モヤモヤしていました。学校自体にも卒業生がどんな職業に就いているか、あまり情報がない。全国組織のPTAの会合で相談し、在校生に先輩という身近なロールモデルを伝えるため、全国にある盲学校の卒業生の今を取り上げるサイトを作ることにしました。 エンジニアや弁護士、国際機関の職員などさまざまな職業の卒業生に協力してもらい、現在約30人のインタビューを掲載。学校の授業でも活用していただいていると聞いています。今月24日に「見えない」を楽しむ視覚障害にかかわるイベント「NO LOOK PARK(ノールックパーク)」を東京都内で開催しますが、そういったイベントを通して視覚障害者の新たな可能性、新たな職業を見つけ出すことができればと考えています。【聞き手・桐野耕一】世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋さん=東京都中央区で2026年9月24日午前11時16分、藤井達也撮影さわだ・ともひろ 1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年に広告会社に入社し、映画「ダークナイト ライジング」などのコピーを手掛け、21年の東京パラリンピックでは閉会式のコンセプトや企画を担当した。著書に「マイノリティデザイン」「人生にコンセプトを」など。「ノールックパーク」は10月24日、東京都世田谷区池尻の「HOME/WORK VILLAGE(ホームワークビレッジ)」(旧区立池尻中学校)で開催。目隠しをして駄菓子を買ったり、ゲームや書道を楽しんだりしながら、「見えない」からこそ広がる面白さや可能性を体験できる約20種類のコンテンツを展開する。入場料は大人1000円、子ども(小学生~高校生)500円、同一世帯6人までのファミリーチケット2000円。未就学児は無料。詳細やチケット申し込みは公式ホームページ(https://www.nolookpark.com/)。