みんなの高校野球:「弱小チームなら…」東大野球部監督が感じる7回制のデメリット

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取材に応じる東京大・大久保裕監督=東京都文京区で2026年8月24日午前10時54分、高橋広之撮影 気候変動や少子化など社会の変化とともに、高校野球も大きな転換点を迎えている。 諸課題の解決策として、日本高校野球連盟は7イニング制の導入を検討する。 ただ、高校野球を終えた後も大学や社会人、プロの舞台で競技を続ける選手は少なくない。7イニング制の議論について、高校生を受け入れる側はどのように見ているのか。東京六大学に所属し、日本野球の歴史と関わりのある東大野球部を率いる大久保裕監督に聞いた。【聞き手・高橋広之】「9回なら本物」 野球は本来、9回のスポーツだ。序盤の3回、中盤の3回、終盤の3回で野球というゲームが成り立つ。それは伝統であり、変えてはいけないことだ。Advertisement 終盤のドラマには経験がある。1980年の春季リーグの早大との試合。序盤にリードを許したが、五回の満塁のピンチでダブルプレーに打ち取り流れが変わった。七回に追いつき、九回2死一、三塁で重盗を仕掛け、サヨナラ勝ちした。7回制ではこれから流れを変えようというときに終わってしまう。 ただ、我々のような弱小チームであれば、もしかしたら7回制であれば、勝てたかもしれない試合はある。6月の(下級生が出場する)フレッシュトーナメント1回戦の慶大戦は八回まで5点をリードしていた。しかし、九回表に7失点し、大逆転を許した。 弱いチームにとっての7回制は、勝ったまま逃げ切れてしまう確率が上がる。強豪のチームが調子が出ないうちに試合が終わるからだ。取材に応じる東大・大久保裕監督=東京都文京区で2026年8月24日午前10時57分、高橋広之撮影 果たしてそれは本当の力といえるだろうか。七回で打ち切りだから勝てたというのは偶然性が上がっただけで、「それで良かった」とはならない。九回までの残りの2回を守り抜いたことが本物の勝ちだ。 7回制だと残りのアウト6個を取る機会が失われる。これでは勝負勘など経験値の格差は広がってしまう。東大の硬式野球部に入部する選手の中では、基本ができていなくて苦労する選手も見てきた。特に進学校の中で、ある程度鍛えられている選手とそうでない選手がいる。大学に入ってから本格的に競技に入り込んでも追いつかない。高校の頃にもう少し練習してほしいと指導者としては感じるので、(7回制でイニングが少なくなるため)高校の練習時間がさらに少なくなったら、東大野球部としてはデメリットとなるだろう。東大が勝つのは… エース級の投手の数が少ない東大がリーグ戦で勝つのは、好投手が完投するときだ。「赤門旋風」と呼ばれた81年のエースだった大山雄司さんのような、打者がタイミングを合わせにくく打ちにくい投手が完投すること。そうした投手が出てくると勝てるチャンスも広がる。だからこそ高校でも九回まで投げてもらい、完投した経験を積んでほしい。 東大の野球部に入るのは、やはり甲子園に出た同世代の選手たちと神宮で戦い、勝利を目指すことをモチベーションとしているからだ。高校が7回制で達成感のないスポーツになってしまうと、大学で違う競技を選ぶ選手も出てくるだろう。(大学以降の)競技の継続性も全く異なる。 7回制なら先発投手はエースと2番手が中心となる。今の東大のエースの松本慎之介投手(3年)は国学院久我山高3年春のセンバツに出場している。当時はエース格が3人いて、その中の1人でリリーバーとして試合の終盤に登板機会があった。投手が少なくてすむとなれば、松本投手のように甲子園を経験した選手が東大を選ぶ機会も少なくなるかもしれない。 投手は、投球過多にならないことで大学で大化けする可能性もある。ただ、せっかく高校野球を3年間頑張ったのに、出場機会を減らすことになってしまう。そうした機会喪失は、デメリット以外の何ものでもない。 今回の7回制の議論については、例えば甲子園をドーム球場に変えることや、既存のドーム球場で開催すること、あるいは開催時期を変更するなど、まずは開催方法の見直しを優先して検討すべきであり、そうしたことを抜きにして野球というスポーツの根幹を変えるような議論が先行していることに疑問を感じる。大久保裕(おおくぼ・ひろし)氏 神奈川・湘南高出身。1981年春に同一シーズンで史上初めて早慶両校から勝ち点を挙げ優勝争いに絡んだ「赤門旋風」のときの主将。卒業後は社会人野球の三菱自動車川崎でプレーした。助監督を経て2023年から指揮を執る。Google検索で「毎日新聞」の記事を優先的に表示できます。【前の記事】軟式で全国5連覇の中京高・総監督 7回制は「大反対」のワケ関連記事