「DIGGER/ディガー」Ⓒ 2026 WBEI and Legendary アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督、トム・クルーズという映画界の2大ビッグネームが初めてタッグを組んだ「DIGGER/ディガー」(2026年)は、いろんな意味で今年最大の問題作となった。 まず興行面に目を向けると、1億2500万ドルから1億8000万ドルという巨額の製作費をつぎ込んだとされるこの映画は、北米での公開初週末の興収が約800万ドルにとどまり、莫大(ばくだい)な赤字を計上することが確実視されている。 ハリウッドきってのスーパースターであるクルーズのキャリア史上、前例のない“大爆死”の結果となった。 とはいえ、興行が大コケしたからといって駄作と認定されるわけではない。 大手批評サイト、ロッテントマトの集計(10月12日時点)では、批評家の支持率53%、観客の支持率74%。この数字だけで断定すべきではないが、批評家の評価はまさに賛否が真っ二つに分かれ、観客の評価は思いのほかポジティブと読み取れる。 ちなみに初見時における筆者の率直な印象は、「よくもこんな実験的な大作を大手スタジオが作らせたな」というものだ。トランプ思わせるブラックコメディー そもそも「DIGGER/ディガー」は、配給サイドにとって売り方が極めて難しい作品であり、公開前の情報をかなり限定した“謎映画”だった。 トム・クルーズがふんするのは石油会社のCEOで、傲慢な大金持ちのディガーという権力者。そんなディガーが地球滅亡の大ピンチに、世界を救うべく立ち上がるが……というのが、事前に知ることができる粗筋だった。 実際にフタを開けてみると、本作は驚くほど政治色の濃いブラックコメディーだった。クルーズが老けメークを施して演じたディガーは、彼がこれまで体現してきた正義のヒーローのイメージを根底から覆す、エゴイスティックな悪漢というべき主人公だ。 ディガーと親しい関係にある大統領コンプソン(ジョン・グッドマン)は、情緒不安定で何かにつけてわめきちらし、野卑な振る舞いを連発する。 取り巻きの政治家や軍人も含め、明らかにトランプ政権下の今のアメリカを投影したキャラクターがずらりと並ぶ。気候変動問題への軽視、ヨーロッパとの分断、安易な軍事力の駆使といった風刺がぎっしり詰め込まれている。 ディガーと大統領が対処すべきは、グリーンランドからヨーロッパに向かって流れ出した巨大な氷塊がもたらす大惨事を阻止すること。ところが彼らは緊急対策会議の場で、人命被害よりも経済的損失や政治的責任を優先して珍妙なやり取りを繰り広げる。石油依存の世界を痛烈風刺 人類存亡の瞬間が刻一刻と迫っているのに、支配層の権力者たちは愚かな判断を重ね、事態をますます悪化させていく。 スタンリー・キューブリック監督が核戦争の危機を描いた「博士の異常な愛情」(1964年)、巨大彗星(すいせい)が地球に衝突する可能性を信じようとしない政治家やメディアを笑い飛ばしたアダム・マッケイ監督作品「ドント・ルック・アップ」(2021年)を想起させる内容だ。 さらにイニャリトゥ監督は、ヨーロッパ議会に乗り込んだディガーの演説シーンを長大な長回しショットで映像化した。「私が石油を掘り続けるのは、皆さんが石油をほしいと思っているからだ」。狂気じみたディガーが発するこの数少ない“正論”も、世界の現状を痛烈に風刺している。 (ここから先は、映画の秘密を明かしています。ネタバレ覚悟の方のみお読みください)“仕掛け”が求めた物量と人員 また、本作には「博士の異常な愛情」「ドント・ルック・アップ」には…Google検索で「毎日新聞」の記事を優先的に表示できます。【前の記事】東京国際映画祭が目指すもの 業界歴半世紀の久松猛朗ディレクターに聞く関連記事【最新記事】