映画の推し事:子どもの笑顔を奪ったのは誰? 「トイ・ストーリー5」が問う おもちゃvsデジタル

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「トイ・ストーリー5」©2026 DisneyPixar. All Rights Reserved. 約7年ぶりのシリーズ最新作「トイ・ストーリー5」が、全米でシリーズ史上最大のオープニング興行収入を記録。6月22日時点で、全世界での興行収入は502億円を突破した。 1995年の第1作から31年。ウッディ&バズの冒険を描いてきた人気シリーズは、最新作で新たな転換点を迎えた。ディズニー&ピクサーは、デジタル時代のおもちゃの物語に何を描こうとしたのか。シリーズの歩みを振り返りつつ、考察したい(以下、本編の内容に触れています)。Advertisementアンディとの絆と別れ描く「3」まで 「トイ・ストーリー」は、個性豊かなおもちゃたちの友情と、子どもとの絆を描く大人気シリーズ。第1作では、少年アンディのおもちゃであるウッディと、新たにやってきたバズの間に、対立を経て友情が生まれた。「トイ・ストーリー5」©2026 DisneyPixar. All Rights Reserved. 99年公開の「2」では、コレクターに誘拐されたウッディの救出劇と、カウガール人形のジェシーら新しい仲間と出会ったウッディが、アンディのもとへ戻るか葛藤する。 2010年公開の「3」では、成長しておもちゃで遊ばなくなり大学進学を機に家を出るアンディと、おもちゃたちの別れの物語が中心となった。アンディは自分のおもちゃを少女ボニーに譲り、ウッディは自らボニーの元に残ることを選んだのだった。 19年公開の「4」は、大きな転換点だった。ウッディは、新たな持ち主であるボニーのもとで自身のしあわせを模索する。“アンディのおもちゃ”としての誇りを持っていたウッディは、ボニーがあまり遊んでくれないことに内心傷ついていた。「トイ・ストーリー5」©2026 DisneyPixar. All Rights Reserved. そして、仲間を見捨てないことが信条だったウッディは、最終的にボニーやバズたちと別れ、誰の持ち物にもならない道を選ぶ。「3」の完璧とも言えるラストを愛していたファンほど驚き、複雑な感情を抱く結果となった。最新作は子どもの心情にスポット そんな前作を受けての「5」は、ジェシーがボニーのために立ち上がる物語だ。内気なボニーは、周囲がおもちゃ遊びをやめてタブレットに夢中になるなかで孤独を感じ、友だちづくりに悩む。そんな彼女を見かねたボニーの両親は、“リリーパッド”という名前のタブレットをプレゼント。 喜ぶボニーはその日からタブレットに夢中になるが、今度はジェシーがおもちゃが見捨てられると危機を感じ、ウッディに助けを求める。さらに、ボニーのために立ち上がった旅の途中で、少女ブレイズの“ハイテクおもちゃ”のスマーティー・パンツたちと出会い、ボニーを巡る新たな出来事が動き出す。「トイ・ストーリー5」©2026 DisneyPixar. All Rights Reserved. 本作で最も印象的なのは、シリーズ史上もっとも深く子どもの心情にスポットが当てられていることだ。 主役はもちろんおもちゃたちだが、ボニーが友だちづくりで不安を抱えながら一歩を踏み出そうとする姿には、これまでにない人間側のドラマがある。タブレットが新たな脅威に 中でも、勇気を出して知らない子に声をかけようとするのにうまくいかないことを想像してしまったり、受け入れられないことが怖くて本当の気持ちが言えなかったりする描写は、とてもリアルだった。子どもの成長の機微を「インサイド・ヘッド」のように繊細に捉えていた。 子どもの内面を描く時間が明らかに増えた背景には、本作のテーマ「おもちゃvsデジタル(toys vs tech)」があるように感じた。「トイ・ストーリー5」©2026 DisneyPixar. All Rights Reserved. これまでのシリーズでは、子どもが成長して捨てられることや存在を忘れられてしまうことがおもちゃの悲しみと恐怖だったが、今作では子どもたちを夢中にさせるタブレットなどデジタルデバイスが、おもちゃにとってかつてない脅威に映る。 ジェシーは、リリーパッドやハイテクおもちゃがボニーの笑顔を奪い、自分たちを危機に陥れる存在だと恐れを抱く。 一方のリリーパッドは、おもちゃたちの意見を聞かず、友だちを作るためには自分が役立つと信じて疑わない。ボニーもまた、「友だちを作るには、みんなと同じタブレットで遊ばなければならない」と思い込み、その姿はどこか強迫観念に駆られているように見える。想像力の大切さを見つめ直す ここで思うのは、ディズニー&ピクサーが、キャラクター商品であるおもちゃ(toys)と、配信動画やデジタルデバイス向けコンテンツ(tech)の両方を売る企業であるということだ。 そんな彼らが描くのは、単純なデジタル批判ではありえない。むしろ、子どももデジタルデバイスを使うことが当たり前になった時代を認めつつ、その中でおもちゃや想像力が持つ価値を捉え直そうとしている。「トイ・ストーリー5」©2026 DisneyPixar. All Rights Reserved. また、おもちゃとデジタルの間で揺れるボニーのドラマに胸を打たれながら、「『トイ・ストーリー』とは何だろう」と疑問に思う瞬間があったのも事実だ。 人間の知らないところでおもちゃが活躍するワクワク感やファンタジー感こそ、本シリーズのキモだったのではないかと。 だが、永遠に同じ物語を繰り返すことはできない。ディズニー&ピクサーは、シリーズの重心をこれまでと違う場所へ移そうとしているように感じた。 ウッディとバズのバディー物語から、ボニーとジェシーを中心に、現代の子どもたちとおもちゃのリアルな関係に目を向ける。 デジタル時代における“おもちゃの価値”という、ディズニー自身も無関係ではいられないテーマを真正面から扱っている。その変化は単なる世代交代以上の意味を持つ。子どもを突き動かすパワー健在 もちろん、「トイ・ストーリー」らしい王道の魅力も健在だった。後半の大追跡は西部劇を思わせるスケールで高揚感にあふれ、おもちゃたちが知恵と勇気を振り絞って行動する姿には、シリーズならではの胸が熱くなる楽しさがあった。「トイ・ストーリー5」©2026 DisneyPixar. All Rights Reserved. 「トイ・ストーリー5」は、シリーズの始点から離れながらも、“子どもとおもちゃ”という原点に戻った作品なのかもしれない――。映画館である光景を目にしてそう思った。 筆者が本作を鑑賞したオーストラリアの映画館は、小さな子どもから50代くらいまでの幅広い世代の観客で客席が埋まっていた。 エンドロールが流れるなか、映画の興奮冷めやらぬ子どもたちがスクリーンの最前列まで駆け出し、側転やバク転をしてエキサイトし始めたのである。そんな元気な子どもたちに拍手を送る大人もいた。 この光景を見ると、長い年月をかけて形を変えながらも、シリーズの核の部分は確実に今の時代の子どもたちの心に受け継がれているように感じた。 デジタルの時代であっても、子どもの純粋な“遊び心と想像力”を大きく突き動かすパワーが、このシリーズには今なお健在なのだと、目の前の光景が証明していた。(梅山富美子)