オンラインの森:「過激描写変えぬ」日本上陸ホッケー選手の同性愛ドラマ 大ヒットの舞台裏

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「ヒーテッド・ライバルリー」Ⓒ2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. Ⓒ 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All rights reserved 世界で大ヒットしたアイスホッケー選手同士の同性愛ラブストーリーを描くドラマ「ヒーテッド・ライバルリー」が、ついに日本上陸。8月28日からU-NEXTで独占配信される。 ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの発表によれば、配信開始から約2カ月後の2026年2月時点で、米国における1話平均の累計視聴者数が1060万人に達したが、この成功の背景には米国の大手スタジオの要求を拒み、原作を守り抜いた製作陣の決断があった。Advertisementキャリアと愛情の間で揺れる天才選手 本作は、カナダの作家レイチェル・リードの同名小説とそのシリーズ作をドラマ化したもの。2人の若き天才アイスホッケー選手、シェーン・ホランダーとイリヤ・ロザノフは、同い年のライバル。氷上では敵同士の2人だが、実は10代のころからお互いを意識し、強烈に引かれ合う関係だった。「ヒーテッド・ライバルリー」Ⓒ2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. Ⓒ 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All rights reserved カナダ人の父親と日系人の母親を持ち、アジア系の選手として周囲の期待に応えるシェーンは、カミングアウトしたり2人の関係を公にしたりすれば、すべてを失うと考えている。奔放に見えるイリヤもまた、母国ロシアではLGBTQ+(性的少数者)の取り締まりが厳しく、危険と隣り合わせの苦悩や家族との問題を抱える。 物語の軸となるのは、対照的な2人がプロとしてのキャリアと互いへの愛情の間で揺れ動き、誰にも知られてはいけないという恐れを抱えながら、激しく求め合う関係性。2人きりになった瞬間に爆発する過激な性愛描写も本作の大きな見どころだ。しかし、これこそがドラマ化における最大の障壁であった。原作改変しない 方針堅持 本作のクリエーターのジェイコブ・ティアニーは、原作に魅了されドラマ化しようと米国やカナダのバイヤーに企画を持ち込んだ。バイヤーたちは興味を示すものの、前例のないアイスホッケー選手同士の恋愛、しかも刺激的な性描写を含む同性愛作品の映像化には慎重な姿勢を崩さなかったという。「ヒーテッド・ライバルリー」Ⓒ2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. Ⓒ 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All rights reserved さらに、米大手ストリーミングサービスは、ジェイコブら製作陣に「5話までキスシーンはナシ」と、もはや原作の影もないような要望を示したと、本作のキャストであるフランソワ・アルノーがEntertainment Weeklyなどのインタビューで明かしている。 ジェイコブらは、それらの要求をのまず、予算が減っても原作の魅力を変えないまま製作することを決意。そして、原作を尊重した方針に賛同したカナダの配信サービス「Crave」(カナダ最大のメディア企業ベル・メディア傘下)が配信先に決定した。 製作は決まったものの、十分な資金が確保できず、共同出資者を探す必要があった。しかし、出資候補先からは原作にない新しいキャラクターの追加、視聴者を呼び込むために原作とは異なるアプローチなどの改変を迫られた。製作陣はこうした改変案を拒否。「ヒーテッド・ライバルリー」Ⓒ2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. Ⓒ 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All rights reserved その後、Craveやベル・メディアに加え、海外配給を担うSphere Abacusなどから資金を確保し、原作の核を守る形で映像化を実現した。女性視聴者の口コミで人気拡大 その結果、完成したドラマは、HBO Maxが米国とオーストラリアなど複数地域の配信権を獲得。各国での配信拡大によって、一気に世界的なヒット作となった。 HBO Maxの発表データによると、同サービスが開始して以来、他社から買い付けた非アニメ作品として過去最高のパフォーマンス(視聴実績)を記録。ストリーミング時代には珍しくSNSや口コミ、女性視聴者の支持によって週を追うごとに視聴数を増やし続けたことも特徴的だった。 このヒットについて、ジェイコブやベル・メディアのコンテンツ担当副社長であるジャスティン・ストックマンなどは、原作が女性の読者に受けていたものの、ここまでのヒットにつながったことに驚きを隠せなかったようだ。「ヒーテッド・ライバルリー」Ⓒ2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. Ⓒ 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All rights reserved 視聴者の反応は素直だ。過激な描写が視聴のフックになったことは間違いないが、それ以上に、物語の完成度が高かったことが大きい。主人公たちの純度の高い恋愛に加え、カミングアウトや交際を公表することへの恐れ、プロスポーツ選手としての立場との間で揺れ動く葛藤を繊細に描いている。 実際にプロのアイスホッケー界で現役中に同性愛を公表したのは21年のルーク・プロコップ選手が初めてで、いまなおプロスポーツ界ではカミングアウトへのハードルが高い現実を踏まえると、本作の選手たちの葛藤は決してフィクションではなく、より強い説得力を持って視聴者の胸に響く。主演の2人もブレーク 作品の魅力を語るうえで欠かせないのが主演2人の存在だ。シェーン役のハドソン・ウィリアムズ(役柄は日系だが、実際は母親が韓国出身)と、イリヤ役のコナー・ストーリーは、体当たりの演技で複雑な感情を表現し、作品の評価を大きく押し上げた。特に、米国人であるコナーは、ロシア人を演じるためにロシアなまりの英語を習得し、共演したロシア人にロシア人と勘違いされたというエピソードも。「ヒーテッド・ライバルリー」Ⓒ2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. Ⓒ 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All rights reserved ドラマの世界的ヒットを受け、2人はブランドアンバサダーへの起用(ハドソンはバレンシアガ、コナーはサンローランとティファニー)や、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックの聖火ランナーを務めるなど、一躍世界的な注目を集める俳優となった。 製作開始前から米国企業が共同製作に参加した作品ではないため、プライムタイム・エミー賞の応募資格を満たさなかったものの、その人気は賞レースの枠を超える勢いを見せている。シーズン2も「口出し」せず 本作のヒットを受け、すでにシーズン2が決定しており、27年にCraveとHBO Maxで配信予定。原作通りであれば、シェーンとイリヤの関係がさらに深まる物語となりそうだ。 なお、HBO Maxはシーズン2でも配信パートナーにとどまり、クリエーティブ面に関与しない方針だ。この判断もまた、シーズン1の成功あればこそだろうし、クリエーターのこだわりが功を奏した結果と言えるかもしれない。 「ヒーテッド・ライバルリー」の成功は、一つの人気ドラマが生まれたという話にとどまらない。クリエーターが物語の核を守り抜き、それを視聴者が支持したという事実は、ハリウッドや米大手ストリーミングサービスが取ってきたやり方や安全策に一石を投じている。カナダが単なるロケ地から脱却? 本作はカナダ製作作品であることも興味深い。近年、米国――特にハリウッド作品が製作費の高騰を背景にカナダで撮影されるケースが増えているが、その理由は“コストを抑えられる撮影地”だから。「ヒーテッド・ライバルリー」Ⓒ2025 Heated Rivalry Productions 1 (Ontario) Inc. Ⓒ 2025 Productions Heated Rivalry 1 (Québec) Inc. All rights reserved しかし、「ヒーテッド・ライバルリー」は、カナダが単なるロケ地ではなく、クリエーターの自由な創作を支える製作拠点として世界的ヒット作を生み出せる土地であることも証明した。 大手スタジオがリスクを避けることは、このご時世、仕方がないことなのかもしれない。だが、もし「5話までキスシーンはナシ」という要求が通っていたら、本作がここまで世界を熱狂させられただろうか。 もちろん、映像化に伴う改変が良い方向にいった例もあるのだろう。それでも、原作へのリスペクトを忘れ、商業主義に走り過ぎることは危険だ。原作、読者、製作サイドの3者にとってベストな方法を選びながら映像化されることを願うばかりだ。(梅山富美子)