映画の推し事:恋愛だけじゃない「汝、星のごとく」 櫂の「守ってあげる」は優しさか

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「汝、星のごとく」Ⓒ2026「汝、星のごとく」製作委員会 Ⓒ凪良ゆう/講談社 「汝、星のごとく」は、凪良ゆうの同名小説が原作。私は、個人的に凪良の著書の大ファンで、その中でも特にこの原作は、人生で一番泣いた小説だと断言できる。読書中は泣きすぎて、電子レンジの中の料理の存在を忘れ、爆発させた。 映画「汝、星のごとく」は“恋愛映画”として宣伝されている。 うん、確かに恋愛映画だ。でも、この作品は恋愛だけでは語りきれないの……!と、熱意を持ってお伝えしたい。Advertisement厳しい現実 もどかしさに共感 物語では、「凪良先生、なんでこんな目に遭わせるんですか……(泣)」と思うほど、登場人物たちは、現代社会が抱えるさまざまな問題に翻弄(ほんろう)される。「汝、星のごとく」Ⓒ2026「汝、星のごとく」製作委員会 Ⓒ凪良ゆう/講談社 しかし、そんな息苦しい現実とは対照的に、スクリーンに広がるのは、瀬戸内の雄大な自然風景。このどこまでも広い世界の中で、私たちはなんと狭い価値観に縛られながら生きているのだろう。 私を物語の中へ強くひき込んだのは、ヒロイン、暁海の存在。家族というしがらみ、地方の閉鎖的な価値観、いまだに根強く残る男尊女卑。暁海が自分の人生を生きようとするたびに、さまざまな壁が彼女の前に立ちはだかる。 経済的にも精神的にも自立して生きる。いつか好きな仕事をして、自分の足で立ちたい。そんな夢を抱きながらも、現実はそう簡単にはうまくいかない。 私は、そんな暁海のもどかしさが痛いほどよく分かる。自立した強い女性になりたい。でも、家族や社会から求められる役割が、それを許してくれない。そうやって、ひとりで闘っているうちに疲れてしまって、どうしようもなく誰かに甘えたくなる時だってある。「汝、星のごとく」Ⓒ2026「汝、星のごとく」製作委員会 Ⓒ凪良ゆう/講談社 だからこそ、彼女が何度現実に押し戻されても立ちあがろうとする姿に、心を打たれるとともに、たまには人を頼ってもよいのに!と、もどかしい気持ちにもなる。 そんな暁海のりんとした強さと、ふとした瞬間にのぞく不安やもろさを、広瀬すずが繊細に演じている。見覚えある! 無自覚な傲慢さ この映画では、まあ皆さん大体クライマックスにかけて号泣することだろう。 しかし、私がラストシーンより泣いたのは、暁海と恋人の櫂が衝突する場面だ。もう、この恋人間でのけんかのシーンで、何度私の苦しい記憶がよみがえったことか……。「汝、星のごとく」Ⓒ2026「汝、星のごとく」製作委員会 Ⓒ凪良ゆう/講談社 櫂は、東京で夢をつかみ、どんどん忙しくなっていく。そうして、暁海と向き合う時間も、少しずつおざなりになっていく。彼女のことが大切なくせに、大切にしていると表現する努力をせずに「分かってくれよ」と言わんばかりの態度。 強くありたいと踏ん張る彼女に対して、優しさのつもりで「そんなに気張らなくていい」と言ってしまう。 こんな彼氏、とーーーーーーーーーーっても身に覚えがある!!! 櫂を演じる横浜流星の表情、一つ一つに見覚えがある! 相手がなぜ傷ついているのか分からない。そんな戸惑いや無自覚な傲慢さが、表情からにじみ出ているようだった。「汝、星のごとく」Ⓒ2026「汝、星のごとく」製作委員会 Ⓒ凪良ゆう/講談社 暁海が望んでいるのは、ただ対等な関係でいること。それだけだ。それなのに、その願いは「頑固」「可愛げがない」という言葉にすり替えられ、非難される(「可愛げがない」という言葉は、この世で一番不要だと思う)。「正しさ」とは何か 「守ってあげるから」「面倒を見てあげるから」。それは、最高の愛情表現なのかもしれない。 ただ、「守る」という言葉が、相手の意思よりも自分の正しさを優先するものになった時、その愛情は、外へ羽ばたこうとする相手の翼を知らず知らずのうちに折ってしまう。 相手の人生を自分の庇護(ひご)のもとに置くことと、その人が自分の翼で飛べるように隣に立つこと。果たして、本当の意味で「守る」とは、どちらなのだろう。 この映画は、私たちを縛り付ける「正しさ」とは何かを問いかけている。「汝、星のごとく」Ⓒ2026「汝、星のごとく」製作委員会 Ⓒ凪良ゆう/講談社 櫂と暁海の学校の教師である北原先生(長谷川博己が演じている。私の推し)の言葉で、「正しさなんて、誰にも分からない。だから君ももう捨ててしまいなさい」というセリフがある。すてき。メロい。 男らしく。女らしく。家族らしく。恋人らしく。さまざまな「正しさ」に押し込められて、自分の首を絞める暁海と櫂。社会と自分の「理想」から自由に そんな2人の苦しみなど知る由もなく、瀬戸内の海はどこまでも雄大で、美しい。その果てしない広がりが、彼らを縛り付ける世界の窮屈さを、かえって浮き彫りにしているようだった。 彼らを苦しめているのは、社会から押し付けられた「正しさ」だけではない。暁海は、誰にも頼らず自分の足で立つことにこだわり、櫂は、愛する人を自分の力で守ろうとする。「汝、星のごとく」Ⓒ2026「汝、星のごとく」製作委員会 Ⓒ凪良ゆう/講談社 彼らが信じてきた「正しさ」もまた、ときに彼ら自身を追い詰めていた。社会から押し付けられた「こうあるべき」という理想。そして、自分自身が信じてきた「こうありたい」という理想。そのどちらからも、自由になっていい。 私だって、自立した強い女性でありたいと願うばかり、誰かに甘えることを、自分自身に許せなくなる時がある。でも、誰かに頼ることと、自分の人生を自分で生きることは、決して矛盾しないはずだ。 少なくとも私は、誰かを愛する時も、誰かに愛される時も、自分の翼を失わずにいたい。そして、愛する人の翼も折らずにいられる人間でありたい。(青山波月)