全面結氷した屈斜路湖に出現した御神渡り=蜂谷衛さん提供 冬季に湖面全体が凍ることで知られる北海道弟子屈(てしかが)町の屈斜路(くっしゃろ)湖で異変が起きている。 20年ほど前から全面結氷しないシーズンが増え、湖面の氷が盛り上がる自然現象「御神渡(おみわた)り」も規模が小さくなった。 いずれ「凍らない湖」になる可能性も指摘されている。 湖の変化を追った。凍らなくなった湖 2025年3月2日。40年以上にわたって屈斜路湖を観察してきた雪氷研究家の蜂谷衛(はちやまもる)さん(69)は約1年ぶりに湖を訪れた。 湖の北西に位置する美幌峠(標高525メートル)から双眼鏡で見下ろすと、見渡す限り湖面は凍っていなかった。 「がくぜんとした」 例年、3月初旬は湖面全体が氷に覆われている。 しかし、結氷を確認できたのは南側の入り江付近だけ。 湖全体の1割に満たない面積だ。 屈斜路湖が全面結氷しなかったのは、蜂谷さんが観察を始めた1984年以降の42年間で4回目。 しかし、結氷面積が湖の1割に満たないのは初めてだった。 心待ちにしていた御神渡りは見当たらなかった。 蜂谷さんは屈斜路湖がある弟子屈町の出身。 御神渡りを紹介したテレビ番組に感動し、26歳だった84年1月、家族で経営する町内の雑貨店で働きながら湖の観察を始めた。 24年までの41年分、1月中旬~4月中旬のほぼ毎朝、湖に足を運んで氷の厚さや広がり方などを詳細に記録してきた。 88年には、屈斜路湖が位置する阿寒国立公園(現阿寒摩周国立公園)で、本業の傍ら自然公園指導員に就任。 23年に退任するまで、湖面観察会の講師などを務めてきた。 指導員のリタイアを機に、24年に弟子屈町から西に車で約300キロの栗山町に転居してからも、定期的に湖を訪ねている。全面結氷する最大の淡水湖 屈斜路湖の面積は国内6位の79・54平方キロ。湖面全域が凍結する淡水湖としては日本最大だ。 火山活動でできたくぼ地に水がたまったカルデラ湖で、平均水深28メートルと広さの割に浅い「お皿のような断面」(蜂谷さん)で、冷却が進みやすい特徴がある。 屈斜路湖は北海道の内陸に位置するため、周辺の気温は下がりやすい環境で、冬季は氷点下30度を下回る日もある。 60年代には、毎年100日以上にわたり氷に覆われたとされる。 蜂谷さんによると、全面結氷は御神渡りの出現に必須とされ、屈斜路湖が全面結氷するには複数の条件が必要となる。 氷点下20度を下回る日が数日続くこと▽湖面を波立たせて氷を壊してしまう強風が吹かないこと――などが必要で、全面結氷は、二十四節季で最も寒い「大寒」に当たる1月20日前後に確認されることが多い。 屈斜路湖の御神渡りは国内最大級で、最大で高さ2メートル、全長10キロに成長し、多い年には4本前後が観測される。 御神渡りは昼夜の寒暖差から生じる自然現象だ。 夜間の低温で氷が収縮して湖面の氷の亀裂が広がり、すき間に薄氷が張る。 日中、氷が太陽の光で暖められて熱膨張し、周囲の陸地に圧迫される。 この力を逃がすため、厚い氷が亀裂に張った薄氷を両側から押し、せり上がる。 このとき「ドーン」という雷鳴のような大音響が聞こえるという。 屈斜路湖で大きな御神渡りができるのは、周辺一帯で積雪が少ない点も好条件の一つとされる。 雪は凍結した湖面に積もることで、氷の収縮と膨張に必要な低温の外気や太陽光を遮断してしまう。 蜂谷さんは屈斜路湖について「(御神渡りが出現する)条件がそろった湖」と説明する。 御神渡りは長野県中部の諏訪湖が有名で、道内では阿寒湖(釧路市)や倶多楽(くったら)湖(白老町)でもまれに現れる。 アイヌ民族は御神渡りを「カムイ・パイカイ・ノカ」(神が歩いた跡)と呼ぶ。海外ではロシア東部のバイカル湖などでも見られる。 近年は、報道などを通じて知名度が上がり、厳冬期の屈斜路湖の御神渡りは数少ない観光資源となっている。 <記事後半の内容> ・湖に起きた異変 ・将来的には不凍湖に? ・40年以上の貴重な観察データはどうなるいずれ見られなくなる? 蜂谷さんは90年代に入って、屈斜路湖の異変を感じるようになった。 80年代は1月中に確認…Google検索で「毎日新聞」の記事を優先的に表示できます。【前の記事】なぜ北海道だけ?繰り返す、ガの大発生 対策「諦める」前に関連記事