黒く焼けた地面の上で伝統舞踊を披露する女性=ジャガ・アピ提供写真一覧 きらびやかな伝統衣装に身を包んだ女性が、森の中で優雅に舞う。場面が変わると、黒焦げの木々が残る焼け野原に。女性はガスマスクを着け、再び踊り始める。 「煙害は私たちの文化になってしまったのか」 毎年のように森林火災が繰り返されるインドネシアで、煙に覆われる暮らしへの皮肉を込めた映像がSNSで話題を集めている。Advertisement本来は人々を歓迎する舞 作品名は「文化破壊の舞」。南スマトラ州の州都パレンバンを拠点とするアーティスト集団「ジャガ・アピ」が制作した。女性が披露するのは、客を迎える際に踊られる伝統舞踊「タリ・タンガイ」だ。地元に伝わる豪華な婚礼衣装を身にまとう。本来は人々を歓迎する舞が、環境破壊への抗議に変わった。 今年、インドネシアでは森林や農地、泥炭地などで火災が相次ぎ、近年では最悪レベルの被害が出ている。森林監視サイト「ヌサンタラ・アトラス」によると、1~9月に四国に匹敵する約1万9000平方キロが焼失したと推定される。農地を開くための火入れが火災の一因で、エルニーニョ現象に伴う乾燥も延焼に拍車をかけている。煙害はシンガポールやマレーシアなど周辺国にも広がっている。 作品を手がけた美術家ペブリ・ヤンシャ氏(33)は毎日新聞の取材に、森林や泥炭地は地域文化の一部だと語った。農園開発によって自然が失われれば、そこに根付いた文化まで損なわれるのではないか――。伝統衣装とガスマスクの組み合わせで、その危機感を表現した。南スマトラの伝統的な婚礼衣装にガスマスクを組み合わせた映像作品「文化破壊の舞」の一場面=ジャガ・アピ提供写真一覧解決策を生み出すきっかけに 映像は9月に撮影され、10月に公開された。SNSで数万件の「いいね」を集め、西カリマンタン州では作品に触発された若者たちが、焼けた泥炭地でガスマスクを着け、先住民族ダヤクの伝統舞踊を披露した。 ペブリ氏が最も印象深かったと振り返るのは、ほかの芸術家や研究者、学生たちも声を上げ始めたことだ。「ようやく、作品に込めた批判の核心が届いた」 ペブリ氏は2013年から森林火災や煙害を創作の題材にしてきた。地元住民も繰り返される被害に不満を抱いているものの、自分たちの思いを訴えることには慣れていないという。作品を通じて、そうした人々の声を届けようとしている。 「芸術そのものが解決策ではないかもしれない。でも、解決策を生み出すきっかけにはなれる」【バンコク小泉大士】Google検索で「毎日新聞」の記事を優先的に表示できます。関連記事