「白鳥とコウモリ」Ⓒ2026「白鳥とコウモリ」製作委員会 ベストセラー作家、東野圭吾が7月23日に68歳で亡くなった。著作の国内累計発行部数1億部を超え、映画やドラマ化作品も30本以上。国内ばかりでなく海外での人気も高い。最新の映画化作品「白鳥とコウモリ」は、松村北斗、今田美桜主演。ここで改めて、東野圭吾の軌跡をたどってみたい。「ガリレオ」成功でヒットメーカーに 東野が国民的作家となるまでの道のりは、一夜にしてならず、だった。1985年に「放課後」でデビューし、江戸川乱歩賞を受賞。その後作品が散発的にドラマ化されたりしたものの、小説家としてはヒット作に恵まれなかった。Advertisement東野圭吾 ブレークしたのは99年の「秘密」。日本推理作家協会賞を受賞し、滝田洋二郎監督、広末涼子主演で映画化された。妻の魂が娘の体に入りこみ、夫の前に現れるという感動ファンタジーは多くの涙を誘った。 以降、東野は小説と映像化作品の両方で、成功の階段を駆け上がっていく。 2005年公開の「レイクサイド マーダーケース」はお受験をテーマにしたミステリー。映画は青山真治監督で役所広司、薬師丸ひろ子が共演した。06年の「手紙」は毎日新聞の連載小説で、山田孝之、沢尻エリカらが出演して映画化された。犯罪加害者家族の心情を掘り下げたラブストーリーだった。 東野の作品は、00年代初めから盛んになったドラマ→映画化という流れにピッタリはまる。小説の魅力的なキャラクターをドラマで人気俳優が演じて躍動させ、スケール大きく映画で展開する。 その始まりが「ガリレオ」シリーズだ。07年10月、フジテレビ系の“月9”枠でドラマ化。福山雅治が演じる変人の天才物理学者、湯川学と柴咲コウ演じる刑事の内海薫が、一見超常現象に見える事件のトリックを科学的に解いていく。平均視聴率21.9%、「実に面白い」という湯川の決めゼリフが流行語のようになった。映画「手紙」の完成披露試写会で舞台あいさつをした(右から)東野圭吾、沢尻エリカ、山田孝之、玉山鉄二、生野慈朗監督=2006年10月5日、兵藤公治写す その勢いのまま08年、シリーズの映画版第1作「容疑者Xの献身」が公開されると、興行収入49億2000万円、この年の邦画興収ランキング3位の大ヒットとなった。13年、ドラマの第2シーズンも初回から4週連続で視聴率20%超え。同年6月公開の映画第2作「真夏の方程式」は興収33億1000万円、年間実写邦画の1位だった。 福山は湯川役で映画俳優として人気を確立、当たり役となる。22年には9年ぶりの映画3作目「沈黙のパレード」が興収30億円とやはり大ヒットした。「新参者」加賀は阿部寛 鋭い洞察力を持った刑事、加賀恭一郎の「新参者」シリーズもその一つ。10年のTBS系ドラマで阿部寛が演じ、12年に映画「麒麟の翼 劇場版・新参者」が公開された。興収16億8000万円と堂々たる成績だ。特別ドラマを挟んで18年にはシリーズ完結編「祈りの幕が下りる時」も公開された。阿部にとっても、代表作の一つだろう。ドラマ「白夜行」収録中のスタジオを訪ね、山田孝之(左端)、綾瀬はるか(右端)と写真に納まった東野圭吾=2006年 「白夜行」は、東野を語る上で欠かせない一作だ。殺人事件の容疑者の娘と被害者の息子の究極の愛と絶望を描いたミステリー。こちらもドラマ→映画化作品だが、06年のTBS系ドラマでは山田孝之と綾瀬はるかが主演、11年の映画版では高良健吾と堀北真希が主演している。 ドラマの反響で原作の部数は急速に伸び、200万部を超えるベストセラーになった。映像化作品ではドラマと映画でそれぞれの俳優が重厚な演技で挑み、作品に違った魅力を与えていた。 「マスカレード・ホテル」シリーズは木村拓哉主演で映画化された。19年公開の第1作が興収46億4000万円と大ヒット。ホテルの従業員たちが隠された真犯人を追う謎解きミステリーとして、ビジネスパーソンから広く支持を集めた。続く2作目「マスカレード・ナイト」も38億1000万円の興収をたたき出した。SF、ファンタジー、アニメ……多彩なジャンル ミステリー作家の印象が強い東野だが、著作のジャンルは幅広い。映像化作品もミステリーからコメディー、SF、ファンタジーと多様だ。第134回直木賞に決まり、芥川賞の絲山秋子(右)と並んだ東野圭吾=2006年1月、小出洋平写す 「ナミヤ雑貨店の奇蹟」は、時を超えて人々の悩みに答えてくれる雑貨店のお話。ファンタジー色の強い、温かい人情ものだ。17年に山田涼介主演で映画化された。 「プラチナデータ」は近未来が舞台のSF。検挙率100%近いDNA捜査システムで、連続殺人事件の容疑者にされた天才科学者の逃亡劇。13年の映画では、二宮和也と豊川悦司が主演した。19年に映画化された「パラレルワールド・ラブストーリー」では、主人公が眠るたびに異なる二つの世界を行き来する。設定はSFでも芯は人間ドラマというのも、東野らしい。国境越えて届く愛、憎しみ 東野の人気は国内にとどまらず、海外、特に東アジアでも高い。小説が翻訳され、各国で映画化されている。「白鳥とコウモリ」Ⓒ2026「白鳥とコウモリ」製作委員会 「白夜行」は09年に韓国で映画化され、ハン・ソッキュ、ソン・イェジン、コ・スという韓国の一流俳優たちが出演。原作の持つ暗さが、日本版より深く、生々しく表現されたことで話題となった。 「容疑者Xの献身」は12年に韓国、17年には中国でリメークされ、23年にはインドでも作られてNetflixで配信されている。 日本では09年に寺尾聰主演で映画化された「さまよう刃」も、韓国、中国で映画になった。最愛の娘を殺した少年に自ら手を下そうとする父親と、それを阻止する警察官との対決。韓国版は日本よりも重厚さを増し、社会の矛盾と人間の本質という普遍的なテーマがより強く浮かび上がった。17年には「ナミヤ雑貨店の奇蹟」も、中国版が作られた。「白鳥とコウモリ」©2026「白鳥とコウモリ」製作委員会 東野の物語が各国で愛され、映画化もされるのは、彼の小説のトリックの巧妙さももちろんだが、普遍的な人間関係と社会問題が背景に置かれているからだろう。法制度や社会の価値観が違っても、加害者家族の苦しみや法と報復感情の間で揺らぐ心、人を愛する気持ちなどのテーマは国や地域を問わず、読者や観客に届くのだ。 東野が亡くなった後も、作品の映像化は続く。「白鳥とコウモリ」は、容疑者の息子と被害者の娘という、相反する立場にありながら結ばれる2人の関係を描く。これまで東野が「白夜行」や「手紙」で追求してきた「家族」と「罪」というテーマが、ここでも繰り返されている。 「虚ろな十字架」はWOWOWでドラマ化され、9月6日に放送予定。27年2月には「殺人の門」が山崎賢人と松下洸平のダブル主演で実写映画化される。東野が残した物語は、これからも小説で映画で、ドラマで、人々に届き続けるのだ。(山田あゆみ)