加害の記憶:ネルソンさん映画に父を重ね…日本兵2世が体感した戦争のリアル

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「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA 戦争で人を殺すとはどういうことか――。 ベトナム戦争での加害行為で心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負った元米海兵隊員を描いた映画「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」が11日から全国公開される。 アフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソンさんの自伝が原作。第83回ベネチア国際映画祭コンペティション部門にも正式出品された話題作だ。Advertisement ネルソンさんは自身の体験を伝える講演活動を日本で1200回以上行った。映画ではその活動を支える日本人「黒井」役をリリー・フランキーさんが演じる。 役名の由来となったのが、元日本兵の戦争トラウマ2世らが語り合う「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会」代表の黒井秋夫さん(78)だ。映画をどう見たか、黒井さんに聞いた。生々しい戦闘シーン証言集会で父慶次郎さんの写真を手に語る黒井秋夫さん=東京都武蔵村山市で2022年8月7日、幾島健太郎撮影 「兵士たちはこうも無残に人を殺し、心を壊した。人間でいられないし、人間に戻れるはずがない。これが戦争なのだと思わされました」 ネルソンさんは貧困や差別から逃れるために18歳で米海兵隊に入隊。ベトナム戦争で苛烈な殺りく行為に加わり、帰還後はPTSDに苦しんだ。 今作の戦闘シーンは銃声や爆発音が鳴り響き、残酷そのものだ。撃たれたベトナム人、殺した米兵の表情も生々しく描き出される。 黒井さんが戦争トラウマの問題に取り組むきっかけになったのも、2015年12月に国際交流NGO「ピースボート」の船旅の途中で、実際のネルソンさんの証言映像を目にしたことだった。ネルソンさんがまいた種第83回ベネチア国際映画祭のレッドカーペットに登場した塚本晋也監督(右)ら=4日、イタリア・ベネチア(AP=共同) 父・慶次郎さんは20歳で徴兵され、旧満州(現中国東北部)でゲリラ化した中国人を意味する「匪賊(ひぞく)」の討伐に当たっていたとみられる。 34歳で帰還したが無気力でいつも悲しそうだったという。黒井さんは長年そんな父との不和に苦しんだ。 しかし証言映像を見て、すぐに合点がいった。父も戦争トラウマの影響を受けていたに違いない――。 18年、元兵士の2世が語り合う「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会」の前身となる団体を作った。 「ネルソンさんがまいた種が日本でも広まったということ。私の活動は、ネルソンさんの活動でもあると感じています」心壊した父を重ね「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA 試写を見た黒井さんは延々と続く戦闘シーンで「まるで自分がその場にいて、人を殺しているような感覚に陥った」と話す。 同時に、父から「息子よ、なぜ心を壊したか分かるだろう」と言われているようにも感じたという。 ベトナム戦争では多くの帰還兵がPTSDに苦しんだ。PTSDという言葉が広がるきっかけにもなった。 ネルソンさんも戦場の記憶のフラッシュバックに苦しんだが、退役軍人病院のある精神科医との出会いをきっかけに罪に向き合い始める。 「なぜ君は人を殺したんだ」 精神科医は治療の度にそう尋ねた。ネルソンさんはやがて一つの答えに行き着く――。「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA 米国には退役軍人省があり、兵士のPTSDやその家族のケアにあたっている。 日本でも戦時中、多くの兵士が戦闘で心を壊したが、国内に同様の組織はない。黒井さんは元兵士がアルコール依存や自傷行為、家庭内暴力などに走り、子や孫の世代にまで影響が及んでいる実態を訴えてきた。 「戦後、国は戦争の責任に向き合わず、元兵士の苦しみは放置されました。孤独に向き合うしかなく、抜け道を見いだせず、家族の中で抱えてしまった」自身が由来の「黒井」登場 映画にはリリー・フランキーさん演じる「黒井」も登場する。役名の由来となったのが黒井さんだ。「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA 今作のメガホンを取った塚本晋也監督は、黒井さんの会の学習会に参加したこともあるという。 映画への「出演」が決まったのは、3年ほど前だ。 「驚きましたが、活動を評価してくれたようでうれしかった。セリフが少なければ私が出たかったですが、とても無理でした」 「世界がキナ臭くなっている今だからこそ、必ず作らなければならない映画」(公式サイトより)であり、「戦争加害者の傷」というテーマに真っ向から挑んだ塚本監督に共感する。 「今作を見た人に、アメリカの戦争だけで起きたことと捉えられないように、ぜひ、元日本兵のPTSDの映画も作ってほしいと思っています」【田中理知】