特権を問う:映画「東京上空300メートル」10月10日公開 米軍ヘリ実態追う

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東京都心にある高さ約270メートルのビルより低く飛ぶ米軍ヘリ「ブラックホーク」。この動画は映画「東京上空300メートル」でも用いられた=都内で2020年8月18日、加藤隆寛撮影(写真は動画から) 毎日新聞社と映画監督の大墻(おおがき)敦氏が共同製作した長編ドキュメンタリー映画「東京上空300メートル」が10月10日からポレポレ東中野(東京都)など全国で順次公開される。東京都心で日本のヘリであれば許されない飛行をしている米軍の実態などを追った毎日新聞の調査報道「特権を問う」をベースに、約2年にわたり新たな取材などを重ねて完成した。1960年の締結以来、一度も改定されていない日米地位協定が生み出している状況に光をあて、「日米同盟」の名の下、放置されてきた問題を問い直す。 「東京上空300メートル」公開直前企画オンライントークイベント「日米地位協定 司法と沖縄の現場から考える」が10月7日に開かれます。お申し込みはこちらから。 劇場公開を控えた9月7日、日本記者クラブ(東京都千代田区)で記者会見が行われた。登壇した大墻監督と取材班デスクでプロデューサーの銭場(せんば)裕司専門記者、取材班の大場弘行記者が映画に込めた思いを紹介する。Advertisement映画「東京上空300メートル」の試写会後に記者会見を行う(壇上左から)大場弘行記者、大墻敦監督、銭場裕司デスク=東京都千代田区で7日、藤井達也撮影日米地位協定の影響、考えるきっかけに ――映画を通してどんなことを伝えたいか。また、新聞社にとって映画製作に取り組む意義とは。 大墻監督 日米地位協定がさまざまな人権侵害を引き起こし、私たちの暮らしに大きな影響を与えていることを考えてもらうきっかけになればと願っています。地位協定の問題に関わる人たちの声を記録してきたので、スクリーンを通して多くの人に届けばいいなと思っています。 銭場記者 新聞社が調査報道を基に映画を作るとは想像もできませんでした。地位協定を巡る問題は難しいですが、ありのままのファクトを伝えているので、議論の材料にしてほしい。いろいろな立場や考えがあると思いますが、目を背けず「自分ごと」として考えてもらいたい。 大場記者 メディアが厳しい時代にあるのは確かです。それでも、一生懸命取材していく中で映画としてこういう成果が出せるということは、新聞社にとって大きな希望になるんじゃないかなと思っています。 ――新聞の調査報道がベースだが、どのように映画を作ったのか。 大墻監督 最初は「特権を問う」の取材に携わった記者のインタビューから始めて、どのようにこの調査報道ができあがっていったのかを聞きました。その上で、当事者の声をきちんと記録して届けるということに意味があるのではないかなと思ったので、横田基地周辺や沖縄にも足を運び、私が知らないこと、知りたいことを付け足していくというやり方で製作を進めていきました。 地位協定の改定を求めて運動を続けている人たち、在日米軍基地や米兵がもたらす事件・事故の被害に遭われた人たちの声が届くように編集作業を重ねて、最終的には「日本の空は誰のものなのか」「誰が犯人を逃がしているのか?」「米軍基地は誰のためにあるのか?」という3章立てにしました。地位協定って関心のある人と関心のない人がすごく離れていて、どちらの方にもご覧いただける映画にしたいと悩みながら作品を作りました。映画「東京上空300メートル」のポスター=(C)2026 大墻敦・毎日新聞社大事にした「一目見ておかしいファクト」 ――地位協定や米軍基地の問題はなかなか関心が広がらないが、なぜだと思うか。その中で映画を通して何を伝えたいか。 銭場記者 「特権を問う」の調査報道が始まったのは、沖縄で取材してきた記者たちが「なぜ日米地位協定の問題は東京や本土で関心を持たれないのだろうか」という歯がゆさを感じたのが原点です。取材班で話し合ったのは「最初の報道を、沖縄から始めちゃ駄目だよね」ということでした。東京などで起きている問題から伝えていかないと「自分ごと」として考えてもらえないのではないか、ということをスタート地点としてやってきました。 取材を続けて感じるのは、自分の生活の中で米軍や基地との関わりがないと人は関心を持たないということです。地位協定の問題は「沖縄問題」として片付けられてしまう。取材班に参加してくれた記者の思いとして伝えたいのは、安全保障とは本来、特定の人の犠牲の上に成り立つものではなく、この国で生きる人たち全員が向き合うべき課題だということです。やはりそこから目を背けてはいけないと強く思っています。 大墻監督 「東京上空300メートル」というタイトルが全てを表していると思っています。日米地位協定に基づく規定だけ見れば、米軍機は300メートルより低く飛んでもいいのかもしれません。でも、本当はおかしい。日本人は、安全の面や騒音の被害などの問題がある現状を許容しがちなところがあると思います。おかしいことはおかしいって言ってもいい、ということも伝わればいいと思って映画を作りました。 日本人は自分の考えを明確に言葉にして、意見の違いを乗り越えることが苦手だと感じます。アメリカ人はもっとフランクで、何を言っても大丈夫な人たちです。だから日本政府も日本人も、きちんと言葉にして、地位協定のどこがどのように問題なのか伝えるということが大事だと思います。取材班の宮城裕也記者が「日米地位協定について取材を続けていると、まるで暗闇に石を投げているみたいだ」と言っていました。それに対して「そうだよね」と言うのではなく、やっぱり「そこを乗り越えていかなくちゃいけないね」と感じてほしいなと思います。 大場記者 私たちが大事にしてきたのは、一目見て「おかしいよね」と思えるファクトです。米軍ヘリが東京都心を低い高度で飛んでいくシーンがありますが、その下にたくさんの人たちが暮らしている。日本の自衛隊でもあんな飛行はしません。そんなことが自分たちの首都の上空で行われていることを受け止めて、考えてほしいなと思います。武田真一さん=提供写真 長年取材を続けてきましたが、日米関係って長い歴史の中で非常に巧みに隠されていて、国民の目には届かないようになっています。だからこそ、自分から知るような努力を多くの人にしてほしい。そう願っています。ナレーターは武田真一さん 動画配信に力を入れる新聞社は増えているものの、調査報道の内容を基にドキュメンタリー映画を劇場公開する取り組みは異例だ。 映画作りでタッグを組んだ大墻敦監督はNHKのプロデューサーやディレクターとして多くの映像作品に携わり、2019年から桜美林大教授を務める。退局後に映画監督として「春画と日本人」「スズさん 昭和の家事と家族の物語」「わたしたちの国立西洋美術館」の3作品を手がけてきた。 本作のきっかけは24年3月に大墻監督と「特権を問う」取材班の大場弘行記者が出会ったことだ。大墻監督が、公文書隠蔽(いんぺい)をテーマにした大場記者の取材に関して尋ねたいことがあり、2人が顔を合わせた。 「『特権を問う』をドキュメンタリー映画にできないだろうか」。大場記者からそう聞かれた大墻監督は、米軍ヘリが東京都心を低空飛行する実態を証拠動画とともに伝えた報道の内容を確認。すでに公開された映像を再構成するだけでは難しいが、新たな取材を進めて戦後の歴史を伝える毎日新聞のアーカイブを組み合わせることでドキュメンタリー映画を作れるのではないか――と考えた。 そうして大場記者とともに基地問題を巡るさまざまな現場の取材・撮影が始まった。東京都内で起きた米軍機墜落事故の遺族や基地問題と向き合う人たちの声に耳を傾け、性暴力事件の発生を沖縄県に通報する制度が機能しなかった問題などにカメラを向けた。 完成した本作は、東京・六本木の米軍施設「赤坂プレスセンター」と東京西部にある横田基地、そして基地が集中する沖縄を主な舞台として展開し、戦後81年を迎えても変わらぬこの国の姿をあぶり出す。カメラを手に米軍ヘリを追った加藤隆寛記者ら取材班へのインタビューにより、報道に至るまでの記者の心境や取材の動きを追体験できるような内容にもなっている。 映画のタイトルに用いた「上空300メートル」は、日本の航空機が人口密集地で守るべき最低安全高度のことだ。日米地位協定に基づく特例法により、米軍には適用されない。米軍が日本で「特権」を行使する実態を象徴するキーワードとして、表題にした。 110分。ナレーターは元NHKアナウンサーの武田真一氏が務めた。上映館情報北海道 シアターキノ青森  シネマディクト宮城  フォーラム仙台栃木  宇都宮ヒカリ座群馬  シネマテークたかさき埼玉  OttO千葉  キネマ旬報シアター東京  ポレポレ東中野    キノシネマ立川高島屋S.C.館神奈川 キノシネマ横浜みなとみらい    横浜シネマリン    あつぎのえいがかんkiki新潟  シネ・ウインド富山  ほとり座石川  金沢シネモンド長野  長野相生座・ロキシー静岡  静岡シネ・ギャラリー    シネマイーラ愛知  ナゴヤキネマ・ノイ京都  京都シネマ大阪  第七芸術劇場兵庫  元町映画館    シネ・ピピア岡山  シネマ・クレール広島  横川シネマ福岡  キノシネマ天神    小倉昭和館佐賀  シアター・シエマ大分  別府ブルーバード劇場    日田シネマテーク・リベルテ宮崎  宮崎キネマ館鹿島  ガーデンズシネマ沖縄  桜坂劇場 ※9月14日現在。上映日・時間は映画の公式ホームページや各館のホームページまで