映画の推し事:「マイケル」で思わずステップした人に贈る “真実”を知るための2、3の事柄

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「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. 各国で公開初日興行記録を塗り替えている伝記映画「Michael/マイケル」は、大変よくできた音楽映画である。 巷間(こうかん)指摘されているような欠点もなくはないが、見どころも多く、マイケルを知らない世代をも魅了する力を持った健全な映画である。Advertisement ただし、その本質は「ミュージックビデオ」である。言ってみれば、「スターウォーズ」シリーズの「エピソード4」だけを見たかのような、物足りなさ感にさいなまれる。エンドクレジットに「物語は続く」と明記されてはいるものの、空腹感は収まらない。 そこで、「ご一緒にいかが?」と提案したいのが、Netflixの新旧のドキュメンタリーである。前菜とサラダを付けたミニコースとまではいかないが、3作まとめて紹介しよう。「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.満足いくが、モヤモヤ感 まずは映画「Michael/マイケル」から。「キング・オブ・ポップ」たるマイケルの幼少期から絶頂期までの半生を、珠玉の名曲・名ダンスにまぶして描いた伝記&音楽映画。 ファンはおなじみの、知らない人にもそれなりに興味深いエピソードや見事なパフォーマンスがぎっしり詰まっていて、2時間があっという間に過ぎる。映像も凝っているし、マイケルを演じた、本人のおいっ子であるジャファー・ジャクソン、父親役のコールマン・ドミンゴら役者もうまい。音楽やダンスも一級品である。 チンパンジーのバブルス(フロリダで生きているそうだ)をCG合成したVFXや、マイケル本人とジャファーの歌声を混ぜた音声合成も実に自然。伝記映画なのにドキュメンタリーのようだ。音響も抜群だし、高い次元で満足いく出来栄えの映画である。「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. にもかかわらず、「だから何だ?」という根本的なモヤモヤが脳の奥底にへばりついて離れない。アントワーン・フークワ監督の真意は…… まず、マイケルの文字情報も本人映像もパフォーマンス記録も山のように残っているのに、「今なぜ屋上屋の映画を……」という疑問の回答が留保されているのだ。「次作を待て」ということなのか? はたまた「家庭内暴力を乗り越えて、繊細な天才少年が自己実現を果たした」という教科書的きれいごと物語では、ちいと訴求力が弱くないか? 「イコライザー」シリーズのアントワーン・フークア監督にしては、エッジが利いておらず、詰めが甘くないか?「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. そのモヤモヤの陰に潜むものを、指摘の多いマイケルの「児童性虐待」問題にだけ帰結させる気はない。「ここを描かないから、ダメな映画だ」とは全く的外れである。「その映画で描くべきものを、正しく描いて」いれば「映画としてはOK」なのだ。 ただ「イコライザー」で、人間が持つ根源的な“毒”“闇”“邪”“悪”などをうんざりするほど的確に描写したフークア監督が、なぜ「純水」のようなマイケルを描いたのか。まるで小骨がのどに刺さり、その周辺が熱を帯びてズキズキする感じである。 映画「Michael/マイケル」を映画館で見た帰りがけ、指を鳴らしステップを踏んでいる自分に気が付いたあなた。ファンならば、マイケルの伝記が1987年のアルバム「バッド」で終わりなわけがないことは、百も承知のはずである。「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. 映画のラストが88年のロンドンでのソロ公演。マイケルはその年にあの奇妙な遊園地邸宅「ネバーランド・ランチ」に居を移すのだ。まさに“そこから”が後半生のスタートになる。 「Michael/マイケル」が描く前半生が“光”なら、88年以降のマイケルは“闇”に包まれるのだ。豪華でボリューミーなメインディッシュの後に、“闇”を描いた二つのドキュメンタリーを紹介したい。ビターなチョコレート菓子とエスプレッソコーヒーである。「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.「ネバーランドにさよならを」の“闇” まず2019年に製作されたNetflixドキュメンタリー「ネバーランドにさよならを」(全2話)。マイケルから性的虐待を受けたとする2人の男性のインタビューを中心に、家族や関係者の証言で構成する。 被害を受けた本人が成長しても、なお心の傷が癒えず仕事を失い、父親は自殺し、母親が罪の意識にさいなまれ……という話が、これでもかとばかりに延々と続けられる。 最後は、すべてに決別するようにマイケル関係のグッズを焼き捨てる印象的なシーンで終わる。傷付いた家族を思いやると、悲しくて涙が出る。 と思いきやこれ、すべて登場人物の演技ではないかという疑惑のある作品なのだ。ワオー! 本作そのものが“闇”の真っただ中に存在するのだ。赤裸々に私生活暴く「ザ・バーディクト」「マイケル・ジャクソン:ザ・バーディクト」©2026 Netflix, Inc. もう1作は、26年のNetflixドキュメンタリー「マイケル・ジャクソン:ザ・バーディクト」(全3話)である。 「バーディクト(verdict)」とは、陪審員の「評決」の意味で、裁判官の「判決(ruling)」とは意味合いが異なる。「マイケル・ジャクソン:ザ・バーディクト」©2026 Netflix, Inc. マイケルの性虐待疑惑は、03年に検察が捜査に乗り出し、05年に無罪が確定するまで裁判が続く。このドキュメンタリーは、その裁判の関係者、検察官や弁護士、陪審員、熱狂的ファンなどの証言とニュース映像などで構成し、捜査から「評決」までを追う。 「ネバーランドにさよならを」の「ねつ造(創作?)疑惑」を知った後では、こちらも相応のリテラシーで臨まなければならないが、証言者の立場を考慮し、また「無罪」という誰もが知る結果に落ち着くので、ファンも安心して見られる。「マイケル・ジャクソン:ザ・バーディクト」© 2026 Netflix, Inc. 簡単に言えば「有名人の法廷モノ」であり、検察と弁護団の手に汗握る攻防と、その中でもパフォーマンスを忘れない大スターを堪能すればよい。 ただ、裁判で明かされるマイケルのプライバシーは、あまりにも世俗的通俗的であり、大衆の好奇の対象になってしまう。マイケルは裁判には勝ったが、この評決が人生の転換を決定づけたのだろうことは、想像できる。マイケルは裁判の4年後の09年6月に急死するのである。性虐待疑惑が描かれないのは マイケルの性虐待疑惑は、1993年に民事告発されて表面化した。刑事裁判が開かれる前にマイケル側が和解を選択して、「マイケル=性虐待」の印象が定着したとされる。それが後の逮捕、裁判にまで尾を引くことになるのだ。 2本のドキュメンタリーを見て、もう一度、映画「Michael/マイケル」を考察すると、フークア監督の「甘さ」に共感してしまう。「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. マイケルの“闇”とされる部分は、今でも強力な“毒”を持っているのだ。安易に手を出すと、自分の映画自体が、自ら描いた毒で中毒を起こしかねない危険が潜在することを、フークア監督は気が付いているに違いない。 1993年には、パソコンなどほとんど普及していなかっただろう。2003年でも、インターネットはあってもSNSはまだまだ。 ところが現代、マイケルの性虐待疑惑などを安易に描こうものなら、とんでもないネット地獄が待ち受けているかもしれない。「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. 「ネバーランドにさよならを」だけを見て、作品内容を信じた人にとっては、マイケルは「悪魔」なのである。 映像作品での正邪善悪の描き方は、フィクションと伝記では全く異なる。「Michael/マイケル」はもとより「Michael/マイケル 2」(があるならば)も、「ネバーランドにさよならを」と同レベルでは許されないはずだ。「Michael/マイケル」®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ということでなおさら「Michael/マイケル 2」への期待が膨らんだ次第である。きっと現代にマイケルを描く答えもあるに違いない。まだある“マイケルもの” ちなみに、最近の「マイケルブーム」で彼に興味を持った人のために、手が届きやすい映像作品のリストも挙げてみた。 「ポップスが最高に輝いた夜」は、歴史的楽曲「ウィ・アー・ザ・ワールド」制作の背景を描いたドキュメンタリー。 「THIS IS IT」(09年)はマイケルの遺作。「ムーンウォーカー」(88年)は子供を悪の手から救うおとぎ話。「ウィズ」(78年)は少年マイケルの最高のパフォーマンスが見られる名作ミュージカル。「ドリームガールズ」(06年)はマイケルは出演していないが、彼が飛び込むブラックミュージックの世界を的確に描写したミュージカルである。(川崎浩)