オンラインの森毎日新聞 2026/5/21 22:00(最終更新 5/21 22:00) 3431文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷ドキュメンタリー「BTS:THE RETURN」=Netflixで独占配信 朝もやが少し晴れた。人魚が描かれたカップを置いて店を出ると、祖江(チョガン)の対岸に北朝鮮の集落がうっすらと姿を現している。 韓国・金浦市の愛妓峰(エギボン)にあるスターバックスは、北朝鮮を最も近くで眺望できるカフェだ。各国からの観光客が双眼鏡をのぞく。晴れた日は農作業をする人の姿も見え、南北分断で離れ離れの肉親を思いに訪れる韓国人もいるという。Advertisement愛妓峰平和エコパーク内にあるスターバックス。店の外はフェンス越しに北朝鮮を最も近くで眺望できる展望台だ=韓国・金浦で2026年4月11日、磯崎由美撮影 一帯は朝鮮戦争の激戦地で、民間人統制区域のためライフルを携行した軍人に検問を受ける。海兵隊員とすれ違うたびに、この夜ステージで目にする7人の軍服姿を思い出した。今や押しも押されもせぬワールドスター、BTSだ。 全員の除隊から10カ月。新アルバムをひっさげた世界34都市を巡る約4年ぶりのツアーが4月上旬、韓国で幕を開けた。世界中のARMY(BTSファン)がネット上で激しいチケット争奪戦を繰り広げた。コロナ下で彼らを知り完全体のライブを生で見たことのなかった私は、同僚ARMYたちの指南でネットカフェにこもり、2日目のチケットを奇跡的に入手できた。BTSワールドツアーの皮切りになった韓国・高陽総合運動場=読者提供 兵役を終えた彼らに会う前に、肌で感じたいことがあった。それは絶頂期のアーティストにもマイクを銃に持ち替える日が来る分断国家の現実だ。 除隊後のスターは大きな不安を募らせる。世間はまだ、自分たちを待ってくれているのか――。 世界に巨大ファンダムを持つBTSでさえ、その不安はとてつもなく大きなものだった。見失い、探し求めた「BTSらしさ」 「朝が来るのがつらい時もある。軍隊ではよくそう感じていました。世の中の動きは速く、流行は毎シーズン変わり、新しい顔が現れる。立ち止まれない」ドキュメンタリー「BTS:THE RETURN」=Netflixで独占配信 ツアー目前に公開されたネットフリックスのドキュメンタリー「BTS:THE RETURN」で、リーダーのRMはそんな思いを吐露していた。 兵役によるグループ活動の空白期間は3年9カ月。世界が注目する復帰第1作のアルバム制作現場に、カメラは密着した。「器以上に有名になってしまった」(JIN)。「僕自身はすごい人間じゃない」(JUNG KOOK)。入隊前のソロ活動が高い評価を受けたメンバーたちも、「完全体」での復活には重圧を隠さない。 世界市場を目指し、迷いながらも「Dynamite」などの英語曲をリリースした彼らは入隊前、「BTSらしさ」を見失ったと明かしていた。復帰では「らしさ」を再発見するとともに、時代の変化やキャリアの成熟にふさわしい「2.0」へ踏み出さねばならない。 米ロサンゼルスのスタジオには世界的なプロデューサーが結集した。だがタイムリミットが迫る中、重要な曲の仕上げで7人は迷走する。BTSワールドツアーの会場周辺にはメンバーの広告も登場し、お祭りムード=韓国・高陽市で2026年4月11日、磯崎由美撮影 そこで事務所側から提案されたのが、アルバムタイトルとなった「ARIRANG(アリラン)」のコンセプトだった。これを知って驚いたのは、私だけではなかったはずだ。「国家代表」を背負う激論 「民族アイデンティティーの表明だ」「いや、グループとしての原点回帰だ」 植民地時代や戦争、分断の歴史を経て民族の中で歌い継がれ、韓国第2の国歌ともいわれる「アリラン」。その名が復帰作のタイトルと発表されるや否や、彼らが込めた意味の解釈が各国で飛び交った。 だがこのドキュメンタリーで、これは彼ら自身の発案ではなかったことが明かされる。ドキュメンタリー「BTS:THE RETURN」=Netflixで独占配信 レーベル幹部はメンバーに対し、アリランにある「愛する人を恋しく思う感情」との解釈が「ARMYや音楽への情熱と考えれば、BTSにもあてはまる」と説明する。メンバーはその重さに戸惑いつつも、今回の新譜が自分たちにとっての「アリラン」であると意味づけ、納得する。 だがLA滞在最終日、1曲目の「Body to Body」の中にアリランをサンプリングする方針が伝えられる。HYBE会長でプロデューサーも務めるパン・シヒョク氏の意向だった。 デモ曲を聞いたメンバーの意見は真っ二つに割れた。ダンサブルな曲の終盤に民謡の旋律が現れる。J-HOPEとJIMINは「感動した」と踊りだす。一方、RMはSUGAと目を合わせて首を横に振り、「パンととんかつとキムチを一緒に食べている感じ」と違和感を口にする。 V「韓国人だとこう感じない? “露骨な愛国心アピールで、あおっている”」 J-HOPE「他の文化圏の人たちは圧倒されると思う」BTSワールドツアーの会場周辺には、ファンたちが応援のために出した広告バスも登場=韓国・高陽市で2026年4月11日、磯崎由美撮影 議論が紛糾し、RMが言う。「アリランを掲げた段階で、国家代表だ。もう一度聞こう」 帰国後の作業で「アリラン」パートはさらに強調された。最初は賛同したメンバーも「長すぎる」と尻込みする。そこでパン氏が訴える。「6万人の観客の大半が外国人と想像してみよう。彼らがアリランを歌う。象徴的な瞬間だ。この機会を捨てていいのか?」 「判断は君たちに委ねる」と繰り返しつつもメンバーに険しい目を向けるパン氏の姿に、強引さを感じたファンもいたようだ。だが私は音楽業界の最前線で世界と戦うチームのすごみを垣間見た。そしてBTSが背負うものの重さに、ため息が出た。ドキュメンタリー「BTS:THE RETURN」=Netflixで独占配信 民族性の強調か、抑制か。葛藤のすえ、リーダーは決断する。「中途半端なことはせずに、突き詰めることにしました。これは僕たちにしか作れない」 その決断は正解だった。リリースされた「Body to Body」は王者BTSの帰還にふさわしいパワフルさで、世界のリスナーの心をつかんだ。「BTS生みの親」であるパン氏がこうしてブランディングしてきたのがBTSなのだと納得した。だがそれ以上に、国や民族のアイデンティティーと向き合い、ぎりぎりまで悩み続けた7人の真摯(しんし)さにこそ、「BTSらしさ」を見た思いがした。「アリラン」から「ARIRANG」へ高陽総合運動場の外では、チケットを入手できなかった日本人ARMYたちが、会場からの「音漏れ」を聞きながらスマホ配信を見て楽しんでいた=読者提供 戦争の史跡を巡り、私は高陽総合運動場に着いた。会場周辺は明るいうちからお祭りムードだ。チケットを取れぬまま渡韓した日本人ファンたちが、スマホを手に開幕直前までキャンセルチケットを狙っていた。彼女たちにも奇跡が起きることを願った。 客席は国際色豊かなファンで埋め尽くされ、男性もちらほら。近くに座る人同士で、お菓子や手作りのグッズを配り合う。ARMYたちはこうして一瞬で親しくなれるのがいい。 日が傾き、どこからか7人の名前を順番に呼ぶコールが始まった。コールが絶叫になり、大勢のダンサーがステージに上がった。その間から7人が現れた。BTSだ。ついに彼らの第2幕が上がった。韓国・高陽のBTSワールドツアーでは、会場の最寄り駅にもメンバーの広告が登場=2026年4月(読者提供) 4万4000人のペンライトが大海のようにうねりだし、私もその一滴と化した。ど真ん中にある360度のステージを、7人は全力で走り、歌い、叫ぶ。一糸乱れぬダンスやソロ曲は封印し、すべてのファンとつながろうとしている。 そして中盤、あの「Body to Body」が始まった。胸を突くビートが民謡の歌声に変わり、客席からアリランの大合唱が湧き起こった。難しい解釈など吹き飛ばし、音楽のパワーが世界中の人たちをつないだ瞬間だった。 夜空を彩る花火と熱狂の中で気付いた。幾多の苦難を乗り越え愛されてきたこの民謡は、BTSの歩みと重なっている。「(ハングルの)アリラン」はこの夜、「ARIRANG」になったのだ。泳ぎ続ける7人の先に 地方から上京した7人の少年が無名の小さな事務所からデビューして、13年。「韓国の田舎者」(RM)たちは多難な道を歩み続けてきた。欧米進出ではアジア人差別を受け、世界でブレークすると韓国経済への影響を懸念した兵役免除議論も起きた。国連やホワイトハウスに招かれて発信を求められた。等身大の自分たちとのギャップ。そんな苦悩や葛藤も、激しいラップに昇華しながら、前へ前へと進んできた。BTSがワールドツアーに先駆け無料カムバックライブを開催したソウル・光化門広場。新たな聖地となって各国のファンが訪れている=読者提供 「ARIRANG」のリリース後、韓国メディアは米ビルボードのランキングを一喜一憂で報じている。季節が変わればまた、国の威信を懸けたグラミー賞の話題になるだろう。 ドキュメンタリー終盤、RMはこんな告白をしている。「BTSの一員でいることは、王冠をかぶるようなものです。重さに負けそうな時もあります。怖い時もある」。そしてこう続ける。「僕らは一人じゃない。7人一緒なら、この道を歩んでいける。泳ぎ続けていける」 BTSを追い続けていると、現在進行形の壮大なドラマを見ているような感覚になる。7人はこの先も国境を越え、荒波の中を泳いでいく。その波間に一人一人の背中や呼吸が見えるからこそ、海原の先にある景色を一緒に見たいと思うのだ。【客員編集委員・磯崎由美】【時系列で見る】【前の記事】戸田恵梨香と制作陣が挑んだ“グレーな存在”細木数子「地獄に堕ちるわよ」関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載1時間24時間SNSスポニチのアクセスランキング1時間24時間1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>