日本最難関の国立大学である東京大学だが、合格者を地域別をみると「関東のローカル大学化」が進んでいる 日本を代表するような国公立の難関大学は東京都内に多い。これらの大学は志望者を首都圏に住む生徒に限っているわけではないが、結果として入学生の多くは首都圏出身者だ。加えて、女子の割合は大変低い。「地方」かつ「女性」。その二つの属性が、進路の幅を狭めやすいものにしているのだろうか。地方の女子生徒が大学受験において直面する「壁」とはどのようなものか、取材を進めた。【東京外国語大・江藤心晴(キャンパる編集部)】地方で根強い地元国公立信仰 東京大学の合格者は首都圏偏重が進んでいる。東大新聞オンラインによると、首都圏出身の新入生は2006年には5割未満だったが、その比率はこの20年で1割増えているという。こうした傾向は東大だけではない。東京都内の難関国立大学で地方出身者の比率が低い「ローカル大学化」が進んでいることは、広く共有された課題となっている。Advertisement東大入試に挑む受験生たち。合格者だけでなく、志願者の地域別割合も首都圏偏重の傾向が続いている 一方、国公立大学への進学を重視する傾向は、地方では性別にかかわらず、比較的強いと言われている。その背景にあるのは、地域社会や学校で根強い「国公立大進学こそ尊い」という風潮だ。中部地方の進学校出身で、現在は東京都内の大学院に在籍するAさん(女性、24歳)が通っていた高校では、同性の友人が難関私立大学を目指そうとしたが、教員から「うちは国立志望でないと応援できない」と言われたという。 ただ、地方でより重視される傾向があるのは遠い東京の大学ではなく、地元周辺の大学だ。広島県の私立高校出身で、現在は都内の大学に通うBさん(女性、20歳)は「出身地周辺では国公立大学信仰が強いが、特に地元に近い国立大学は神格化されているかのようだ」と話す。際立つ地方女子の堅実思考 こうした状況に加えて、特に、東京の国立難関大学における女子学生の割合は、男子と比べて圧倒的に低い。東京大学によると、26年度の東京大学の合格者のうち、女子の割合は20・3%で、近年横ばいの傾向が続いている。「旧帝大以上を志望するのは男子が中心で、女子で東大志望は私だけだった」。Aさんは、高校時代をそう振り返る。地域随一の進学校で、男女の明確な成績差がないにもかかわらず、女子がいわゆる難関校を目指すのは「肩身が狭かった」という。#YourChoiceProjectの高校生アンケート調査では、偏差値の高い大学に進むことを最も有利と感じていないのは、地方の女子生徒という傾向が表れた 東大の学生らが21年に創設(法人化は24年)したNPO法人「#YourChoiceProject」は、地方女子学生の進学の選択肢を広げるためのさまざまな取り組みを行っている。同団体は23年、地方と首都圏、女子生徒と男子生徒の間にどのような意識格差が存在するのか明らかにするべく、全国の進学校97校に在籍する高校2年生の男女約4000人にアンケート調査を行った。 「偏差値の高い大学に行くことは自分の目指す将来にとって有利だと思うか」という設問では、どの程度そう感じるかを1~5段階で評価した時、首都圏では女子と男子の回答にはほぼ差がなかったのに対し、地方では、男子に比べ女子が顕著に低いという結果になった。 また「偏差値の高い大学に行くこと」と「資格のある職業に就くこと」のどちらが自分の将来にとって重要かを比較したところ、高偏差値の大学への進学より資格取得を重視する割合は、男子は首都圏、地方とも1割台だったのに対し、地方女子は28・5%という高い結果となった。#YourChoiceProjectの高校生アンケート調査では、首都圏と地方の男子、女子生徒の中で、地方の女子生徒が最も浪人肯定度が低いという傾向が表れた 加えて「自分が志望する大学に行くためなら浪人したいと思うか」(浪人肯定度)の設問で、そう思う程度を5段階で評価してもらったところ、男子は首都圏も地方も同水準だったが、女子は首都圏、地方とも男子より低く、最も低いのは地方の女子だった。 偏差値の高い大学へいくことにメリットを感じておらず、資格取得を重視し、浪人を回避する――。地方の女子は、首都圏の男女、地方の男子と比べ、そんな傾向があることが調査によって示された。東京大学の入学式。女子の合格者は全体の2割にとどまり、会場を埋める入学生は圧倒的に男子が多数派だ親世代の願望が圧力に こうした意識格差をもたらす要因の一つには、女子生徒に強い影響を与える周囲の大人の意向があるようだ。宮崎県の進学校出身のCさん(女性、21歳)は、東京都内の国立大学文系学部に進学した。ただ、上京する際に親戚から「なぜ九州大学に行かなかったのか」「なぜ資格の取りやすい学部じゃないのか」との言葉をかけられたという。Cさんは「その言葉には、女の子だから実家の近くに残ってほしいという思いや、女の子だから地元で仕事先を見つけやすい資格をとっておいてほしいという親世代の願望があったのだと思う」と語る。 Aさんは高校時代を振り返り、「やはり女子学生の方が安定志向は強かったと思う」と話す。ある時には母親から「父親はあなたが近所の高校に行って、お嫁さんになっても全然構わないと思っているんだよ。でも、私は応援する」と聞かされた。地方の女子生徒が進学で直面するさまざまな問題について「潜在的に優秀な女性を取り逃してしまっている」と指摘する東京大学の瀬地山角教授 東京大学大学院の瀬地山角教授(社会学・ジェンダー論)は、担当した授業内で「浪人すると婚期を逃すと言われたことのある女子学生が毎年複数出てくる」と話す。大人の影響を受けやすい未成年の時期、こうした言葉を受けて進学の希望を変えてしまう学生も現に存在する。夢を応援できる社会に 「地元に残るか、地元を出るか」「国公立を目指すか、私立を目指すか」という進路選択では、家庭の経済的事情に左右される側面があるのは当然だ。ただ、「女の子だから地元やその近くに残ってほしい」や「女の子だから資格をとっておいた方がいい」「女の子は浪人すると婚期を逃す」など、生き方にかかわる大切な問題を、女性であるがゆえに一方的に方向づけられるのは仕方のないこととして片付けられるだろうか。「他者への想像力が大事なのでは」と口にする上野悠さん。#YourChoiceProjectでは、政策提言を行ったり、地方女子学生をサポートする事業を行ったりと、多様な角度からの変革を試みているという=東京都文京区で、日本大・小川陽香撮影 「#YourChoiceProject」副代表の東大4年、上野悠さん(22)は「誰かが何かをやりたいって言ったときに、それを応援できる社会が必要だと思う」と話した。また、瀬地山教授は、「潜在的に優秀な女性を取り逃してしまっているはずだ。東京に出てきたら終わり、ではない。地方からきて、故郷の高校や県庁に就職する人もいる。そうした人を含め、さまざまな手本となる存在が必要だ」と語る。 東京の難関大学を含む各地の大学では今、入学試験で「女子枠」の導入が次々と行われている。この女子枠については「逆差別」との批判も根強い。しかし、十分な学力がありながら、環境や他者の意向によって翼を折られている学生がいることもまた事実だ。真に公正で開かれた学びの場をどう構築するかが問われている。