Prime Original ドラマシリーズ「犯罪者」ⒸPROTX 高橋一生、斎藤工、水上恒司の3人が主演する、AmazonのPrime Videoのドラマシリーズ「犯罪者」が、全7話で完結した。大企業の不祥事を巡る巨大な犯罪を描くサスペンスは、大胆な構成で日本社会の病魔を浮き彫りにする。民放では不可能な社会派ドラマの挑戦と意義をひもといた。違和感だらけの通り魔事件 本作は、「相棒」や「ウルトラマン」シリーズなどの脚本を手がけてきた太田愛が、2012年に発表した小説デビュー作「犯罪者」の実写ドラマ化だ。26年の設定で映像化することで、日本社会を長年むしばんでいる病魔を浮き彫りにする。Advertisement 相馬亮介(高橋)は優秀な刑事だが、「あれ」を受け入れなかったことを理由に、組織での居場所を失っている。白昼の駅前で5人が襲われ、4人が死亡した通り魔事件でも、捜査本部から締め出される。 しかし、独自に事件に向き合う中で、被害者4人が刃物で急所を正確に刺されて死に至った点や、被害者が全員「平凡すぎる」点など、いくつもの違和感を抱き始める。Prime Original ドラマシリーズ「犯罪者」ⒸPROTX 通り魔事件でただ一人生き延びた繁藤修司(水上)は、搬送先の病院に現れた見ず知らずの男(ユースケ・サンタマリア)から、「すぐ逃げた方がいい。10日生き延びれば助かる。君が最後の1人なんだ」と不穏な宣告を受ける。 その言葉通り、自宅に戻った繁藤は何者かに殺されかけるが、間一髪で相馬に救われた。相馬は古い友人で元テレビマンのフリーライター、鑓水七雄(斎藤)に、繁藤の保護を依頼する。 この不可解な通り魔事件の糸をといていくうちに、3人は想像を絶する「巨悪の陰謀」を知ることになる――。主軸3人が登場しない第2話 3人のメインキャラクターの距離感も、演じる3人の俳優のアンサンブルも、なれ合わない緊張感が最終話まで持続する。 特筆すべきは第2話だ。ドラマの主軸となるこの3人が、1カットも出てこないのだ。大胆なエピソードの組み立て方は、民放ドラマでは不可能だろう。 この超重要な第2話では、物語が24年へとさかのぼり、タイタスフーズという大手食品メーカーでのある出来事が描かれる。 この年、厚生労働省が少子化対策として「スマイルキッズキャンペーン」の開始を発表した。子供向けの商品やサービス全般を対象に、国が認可したものに「スマイルキッズマーク」を交付する制度だ。 高齢者向けの食品を作ってきたタイタスフーズは、会長の鶴の一声で参入を決定。「マミーパレット」という乳幼児用栄養食の開発に乗り出す。組織への忠誠か自己の正義か 大企業において絶対に失敗できないプロジェクトが形になっていく過程が、淡々とした演出と映像の積み重ねで描かれる。Prime Original ドラマシリーズ「犯罪者」ⒸPROTX そこにさりげなくちりばめられているのは、我々が既視感を覚えざるを得ない、いくつもの理不尽と不条理だ。 上層部の判断基準は、消費者の利益や社会貢献ではなく、自己保身やメンツである。圧倒的多数の男性社員からなる組織は、無自覚に女性社員を軽く扱う。スマイルキッズマークの認可第1号という栄誉は、厚労族の与党議員への違法献金の結実だ。 本社のエリートたちに無謀なスケジュールを押し付けられても、真面目で働き者の現場がマンパワーでノルマをクリアしてしまう。これこそ、まさにやりがいの搾取だろう。 現場が汗水流して完成させた「マミーパレット」のサンプルが、残念ながら悲劇の引き金となってしまう。乳幼児の顔の一部が溶ける難病「メルトフェース症候群」の原因が、その原材料にあったのだ。 関連性に気づいたタイタスフーズは、ユースケ扮(ふん)する営業部長、中迫に、事実の隠蔽(いんぺい)と証拠の廃棄を命令した。会社と、便宜を図ってくれた政治家を守るために。 組織への忠誠と己の正義との間で揺れ動く中迫。ユースケは、その心の揺らぎを繊細な目の動きや声にならない息遣いで表現し、“ゲスト主役”の座を全うした。かすかな希望と組織の腐敗臭 お上が勝手に言った「黒」を「白」にするために、本来であれば不必要な労働を部下たちに強いる。こうしたタイタスフーズの光景は、私たちが日本のあちこちで隠蔽や改ざんを嫌というほど目撃した、この15年ほどの現実そのものだ。Prime Original ドラマシリーズ「犯罪者」ⒸPROTX トカゲのしっぽが切られるだけで、真の「犯罪者」たちが権力をさらに肥え太らせていく。もはやディストピアと化した日本社会で、必死に正気を保とうとしながら生きる人々に、最も重なるキャラクターがこの中迫だろう。 後に明らかになる、繁藤ら5人が命を狙われた理由もまた、「運が悪かった」という言葉では到底片付けられない理不尽さに満ちている。 中迫の協力者となる真崎省吾(内野聖陽)や、真崎からあるものを盗み出した青年(井上瑞稀)らは、たしかに罪を犯したかもしれない。だが、彼らを待ち受ける未来はあまりにも割に合わない。 勧善懲悪で一件落着、などというシンプルな着地はもちろんあり得ないし、作劇としても望まない。だが、中迫という人物が見せた勇気ある変化に、この社会の病を治すかすかな希望が見えた。 しかしそれと同時に、相馬が拒絶した「あれ」の全貌が明らかになったとき、警察を含む“組織”が放つどうしようもない腐敗臭に吐き気が込み上げた。 Prime Videoで世界独占配信中。(須永貴子)