そこに山があるから 「ブラックモンブラン」と孫娘がつなぐ夢

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「スペシャルブラックモンブラン」=梅田麻衣子撮影写真一覧 数年前、九州出身の同僚から「いつか『ブラックモンブラン』を取材してくださいよ」との提案があった。聞けば、バニラアイスにチョコレートとクッキークランチがかかっている、九州では広く愛されているアイスバーらしい。彼女は異動で九州に帰ったけれど「ブラックモンブラン」のことは、ずっと心にひっかかっていた。そういえば最近、近くのスーパーでも見かけたような……。よし、九州の人々の心にそびえたつ「ブラックモンブラン」に挑んでみよう!雪山にチョコをかけたらさぞ… 兵庫県内のスーパーで発見したのは「スペシャルブラックモンブラン」。アルプス山脈の最高峰モンブランの写真とともに、九州のシルエットと「九州発」の言葉が書かれている。ヨーロッパの名峰と九州の「共演」が面白い。Advertisement アイスバーは、想像していたより少し大きめ。ほろ苦いチョコレートとクッキークランチのザックザク食感、さっぱりしたバニラアイスのハーモニーで1本ペロッと食べてしまう。なるほど。人気があるのも分かる! 製造・販売しているのは佐賀県小城市の竹下製菓。5代目にあたる、社長の竹下真由さん(44)に聞いた。竹下真由社長=竹下製菓提供写真一覧 竹下製菓は1894年、竹下佐七さんが創業した。当初はカステラやボーロなどを作っていた。「西洋菓子だけでなく、小豆も炊いていましたし、お菓子全般いろいろ作っていたようです」と竹下さんは話す。お菓子の売り上げが落ちてしまう夏向けに、六十数年前から氷菓の製造を始めた。 「ブラックモンブラン」の誕生は1969年。竹下さんの祖父で、3代目社長だった小太郎さんが、ヨーロッパを訪れたことがきっかけだった。モンブランを見た小太郎さんは「この真っ白い雪山にチョコレートをかけて食べたらさぞおいしいだろう」と考え、帰国後に「ブラックモンブラン」を作り上げた。発売当初は、一本一本手作業でチョコレートとクッキークランチをつけていた。 それにしても、名峰を見て「おいしそう」とは! 「我が祖父ながら、よくそんなことを思うなと。でも、着想って、そんなものかもしれませんね」と竹下さんは笑う。商品名には「アイスクリーム界の最高峰を目指す」という意気込みも込められている。九州人のソウルフードに 当時のアイスバーといえば、着色料と甘味料を入れた水を凍らせたものが主流だったという。「ブラックモンブラン」のような洋菓子風の商品は珍しく、高級感と味のバランスの良さで、子どもたちのハートをわしづかみにした。でも、どうして九州以外で販売されていなかったんですか? 「昔は冷凍や輸送の技術が発達していなかったので、地元で発展していったんでしょうね」と竹下さんは話す。そうして、九州の人たちの「ソウルフード」になったんですね。最近では、関西や関東にも出荷している。 レギュラーは「ブラックモンブラン」「スペシャルブラックモンブラン」「ブラックモンブラン チョコレート」の3種類。発売50周年を機にリニューアルしたパッケージには、竹下さんが撮影したモンブラン(本物)の写真を使っている。ちなみに通常と「スペシャル」の違いは、「当たり」の内容とパッケージデザイン、アイスの大きさ。スペシャルの方が大きい。 この他、期間限定の商品を年に数種類販売している。今年は不二家の「ミルキー」とのコラボも。「ブラックモンブラン チョコミント」は、ファッションブランドの「WIND AND SEA」とのコラボで、何だかおしゃれだ。竹下製菓の個性的なアイスバー=梅田麻衣子撮影写真一覧「スペースモンブランプロジェクト」 竹下さんは、東京工業大大学院を卒業後、大手コンサルタント会社に就職。「いずれは竹下製菓に戻るつもりだったのですが、社会経験がないままでは『井の中の蛙(かわず)』になってしまうと思ったんです」。あえて激務の会社を就職先に選び、「5年以内」と決めて、寝る間を惜しんで働いた。 会社の同期だった雅崇さんとの結婚を機に、佐賀に戻り、3人の子どもにも恵まれた。2016年、父で4代目の敏昭さんの後を継ぎ、竹下さんが社長に就任。雅崇さんが副社長として支えた。アイス製造の「スカイフーズ」(埼玉県幸手市)を子会社化し、関東での製造拠点を確保するなど、着々と経営基盤を強化した。 しかし24年1月、雅崇さんが急逝する。単身赴任先の埼玉県から佐賀に帰省中、くも膜下出血で倒れた。41歳の若さだった。「前日は出社して、夜はみんなでご飯を食べて……本当に突然でした」。3カ月後には、闘病中だった敏昭さんも亡くなってしまう。 雅崇さんが担っていた仕事も引き受けるようになり、竹下さんはいっそう多忙になった。先代に助言を求めることもできない。「立ち止まっている暇はありませんでした。お客様に迷惑はかけられないし、仕事が忙しくて気が紛れたというのもありますね」。そして「2年もたったんだなと、信じられないくらい」とぽつり。 雅崇さんが残した商品もある。バニラアイスをチョコレートでコーティングした「くろしろ君」は、雅崇さんが企画に携わった。パッケージに描かれているパンダは「のそっとしていて、副社長(雅崇さん)に似ている」(竹下さん)という。 会社としての夢は「『ブラックモンブラン』を超える商品を作ること」。では、竹下さん自身の夢は? 「地球を見ながら『ブラックモンブラン』を食べることなんです」と目を輝かせる。竹下製菓のホームページには「スペースモンブランプロジェクト」の説明が記載されている。夢はモンブランの山を越え、宇宙まで! 九州だけでなく全国から、そして空の上からも、「ブラックモンブラン」を愛してやまない応援団が、竹下さんの挑戦を見守り続けてくれる気がします。「おゴリまっせ」(左)と「しっとるケ」=梅田麻衣子撮影写真一覧実は氷菓以外も人気 「ブラックモンブラン」のほかにも、竹下製菓には多彩な人気商品がある。 ミルクセーキ氷のアイスバー「ミルクック」は、中から練乳ソースがとろり。阪神タイガースの大ファンだったという敏昭さんが発案した「トラキチ君」はバナナアイスとガナッシュのしま模様で、パッケージに描かれた「トラキチ君」は関西人として何だか親しみを覚える見た目だ。 「しっとるケ」「おゴリまっせ」は、もともと「チロルチョコ」を製造している「松尾製菓」(福岡県田川市)の商品だった。松尾製菓がアイス事業から撤退する際にブランドを譲り受けた。アイスバーのバトン、つながりましたね。 カリッとして口溶けが良くどこか懐かしい「フローレット」や、あん入りのマシュマロ「鶴の里」など、氷菓以外も製造している。「ブラックモンブラン」のクランチチョコは九州のお土産にも良さそうだ。【水津聡子】