「福祉と医療がテロを防ぐ」 専門家が語る日本警察の見落とし

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首相官邸前の警備用の柵に突っ込んだ車を調べる警察官=東京都千代田区で2024年10月19日午前9時12分、和田大典撮影 2024年10月に東京・永田町の自民党本部と首相官邸前で火炎瓶や発煙筒が投げ込まれた事件で、殺人未遂罪などで起訴された臼田敦伸被告(51)の裁判員裁判が2日、東京地裁で始まった。 被告は一貫して黙秘を続けてきたが、単独でテロに至ったとされ、警察庁は22年の安倍晋三元首相銃撃、23年の岸田文雄元首相襲撃に次ぐ、国内3例目の「ローンオフェンダー(LO)」による事件と認定。LO対策を重要課題に位置付けている。Advertisement 社会の片隅で人知れずテロを計画するLOにどう向き合うべきか。福岡大学の大上渉教授(犯罪心理学)は「日本の対策では不十分」と語る。【聞き手・最上和喜】LOの背景にあるもの岸田文雄首相(当時)が襲撃された現場の雑賀崎漁港を調べる警察官たち=和歌山市で2023年4月16日、山崎一輝撮影 LOは何の脈絡もなく突然テロを起こすわけではない。 例えば、岸田元首相の事件で懲役10年が確定した受刑者は、年齢制限などで選挙への立候補を諦めたことが、社会への不満を募らせる一因だったとされている。 臼田被告も、かつて選挙に出ようとしたが供託金が用意できずに断念したという報道がある。合法的な方法で理想を実現できないと思った時、「最後の手段」として暴力に訴える場合があり得るのではないか。 それから、テロに至る人物の背景として、仕事に恵まれないなど経済的に困窮したり、家庭や職場といった「居場所」を持たずに孤立したりするケースもある。日本警察の「不十分」なところ安倍晋三元首相が銃撃されたことを伝える毎日新聞の号外を受け取る人たち=東京都千代田区で2022年7月8日午後1時45分、渡部直樹撮影 そうした実態を踏まえると、日本のLO対策は、まだまだ不十分と言わざるを得ない。 警察は、爆発物や武器の材料調達に関する情報収集に力を入れている。しかし、テロは必ずしも銃や爆弾が使われるわけではない。 「アルカイダ」などの国際テロ組織は、「自動車やナイフ1本があればいい」と呼び掛け、同調する者たちにテロを促した。 SNS上の危険投稿に目を光らせる捜査も万能ではない。19年に川崎市多摩区で、登校中の小学生らを襲い20人を殺傷したとされる容疑者(事件直後に自殺)は、パソコンもスマホも持っていなかったと報道されている。 危険物やSNSの監視や取り締まりには限界がある。目を向けるべき「周囲への示唆」 LOになり得る人物には、過激化する過程で「行動の変化」がある。現場の下見や自作武器の試行もその一つだが、テロの意図や手段について示唆する「リーケージ(漏えい行動)」にも注目したい。 安倍元首相銃撃事件で言えば、山上徹也被告(1審で無期懲役判決を受け控訴中)は、以前からツイッター(現X)に旧統一教会への憤りをつづっていたことが知られている。 こうした「サイン」を見逃さずに把握する試みが必要だ。 「示唆」は、SNSを通じて発信される場合もあれば、もっと身近な人間に直接なされることもある。海外の研究では、テロを起こした人物のうち6割が、事前に家族や友人に犯行をほのめかしていたと報告されている。山上徹也被告=奈良市で2023年1月10日午後3時12分、大西岳彦撮影先進的なイギリスでは 1980年代後半からテロの脅威にさらされてきたイギリスでは、こうしたサインを覚知するための警察の取り組みがある。 誰かの過激な思想や言動に関する情報を24時間体制で受け付ける相談窓口だ。20年に始まった「アクトアーリー」というキャンペーンで、寄せられた情報は専門の警察官らが扱う。 特徴的なのが、相談内容によっては当事者を自治体や医療機関、福祉団体につなぐという点だ。専門家による治療や住居、就労に関する支援を行政が提供することもあるという。 テロを起こしかねない人物を早期にケアすることで、テロの計画や意図を持つ前に、過激な思想を持つに至った根本の理由を解消する。つまり、テロは「捜査」でなく「福祉」で防ぐという考え方だ。公安警察、「情報流用」も福岡大学の大上渉教授=本人提供 一方、日本の公安部門の捜査員からは「LOが疑われる相手に接触したものの、臨床心理学やカウンセリングの知識が十分でなく、対話に苦労した」と聞いたことがある。 ストーカー対策では、加害者を早期のカウンセリングにつなげて再犯を防ぐ試みがあるのに、LO対策では見当たらない。同じように不満や悩みを抱える人や家族が早い段階で相談できる機会をつくることは、テロの未然防止に有効だ。 もっとも、こうした取り組みが、個人のプライバシーを侵害するような結果につながってはならない。 神奈川県警では10月、運転免許の更新時に回収した失効免許証を、過激派や右翼関係者の情報収集に流用していた問題が発覚した。誰かの思想や行動に関する情報も同様に、扱いを間違えれば人権侵害にもなりかねない。そこは最大限、慎重であるべきだ。