不登校の長女を育てる児童精神科医の河合佐和さん=本人提供 「安心できる場所で過ごすことが大事」「無理して学校に行かなくてもいい」――。 子どもの自殺への懸念が高まるとされる夏休み明けを含め、こうした考えは近年浸透してきた。 ただ、子どもに寄り添うため働き方を制限せざるを得ない保護者も少なくない。 長女が不登校を継続中という精神科医、河合佐和さん(42)はこう訴える。 「親だって助けを求めていい。一人で抱え込まないで」【聞き手・斎藤文太郎】 ――お子さんが不登校だと聞きました。 ◆長女は幼いころから、ところ構わず泣き叫ぶようなときがありました。「定型発達ではないかも」と思ったこともありましたが、幼稚園の先生が丁寧に寄り添ってくれ、集団にはなじめるようになりました。 小学校入学後は普通学級に通いましたが、1年生の6、7月ごろから「学校が怖い」と言い出し、登校を嫌がるようになりました。4、5月は気を張っていたのかもしれません。Advertisement 中学2年になった今も学校には通っていません。学校の何が怖かったのか、正解はいまだに分からないです。 ――当時はどのように対応したのでしょうか。 ◆校門や教室まで連れて行くけど、私から全然離れられない。諦めて勤務先に連れて行くこともありました。「今日学校に行ったらかき氷食べに行こう、でも、行けなかったら食べないからね」と、物で釣ったこともあります。 思い出すと涙が出てしまうんですが、娘に「学校に行ってくれないとママ働けないじゃん」「ママが働かないとお金なくなっちゃうんだよ」と言ったこともあります。必死でした。 ――つらいですね。 ◆私がシングルマザーということもあり、両親はいろいろな面で助けようとしてくれました。 ただ、学校に行けない原因を何度も尋ねられたり、私が持ち物を確認してあげたら行けるんじゃないか、といったことを言われたりもしました。不登校離職を防ぐための介護休業活用を促すための記者会見で、長女とのエピソードを語る精神科医の河合佐和さん。涙ぐみ声を詰まらせる場面もあった=東京都中央区で2026年8月26日午後1時20分、斎藤文太郎撮影 学校でも、教室の前まで行って長女と離れられず困って泣いていると、先生から「あなたが泣いているからこの子も離れられないのよ」と言われたことがあります。学校にたまに行けた日も、「きょうは全員そろったってすごいね」と。「ああ、普段はうちの子は来られないからダメなのか」と感じていました。 親も先生も、責める意図はなかったと思いますが、「親としてダメなのでは」と追い詰められたように感じていました。 でも、一つ分かったことがあったんです。私も学校に行きたくないという思いを抱いたことはありましたが、長女は学校に連れて行こうとすると体を震わせておびえていた。 私の幼少期の感覚と、娘の感覚は確実に違うのだろう。そう思い、やっぱり無理やり連れて行くのはおかしいんじゃないか、と徐々に考えるようになりました。 ――当時の仕事にはどんな影響がありましたか。 ◆勤務医だったので、毎日のように「遅れます」「休みます」「連れて行ってもいいですか」という連絡を病院に入れながらやりくりしていました。 長女を連れて出勤することも、同僚の多くは理解してくれましたが、中には目障りだと言う人もいました。一人前に働けていないな、という申し訳なさや罪悪感も強かった。 それで、勤務先を辞めることにしました。長女を連れて行ける場所を作ろうと、名古屋市でクリニックを開業することにしました。 ――収入は不安定になったのではないでしょうか。 ◆幸運にも以前から関係を築いていた患者さんが通ってくれ、従業員への給料は支払える状態になりました。 ただ、当初は自分が休んでしまえばクリニックとしての売り上げはなくなるわけで、リスクは大きかったです。 例えば、勤務医であれば出張として学会に参加することが可能でしたが、開業医になるとその日は休業しないといけない。勉強する時間は勤務医の方が確保しやすかったかもしれません。 ――子どもが不登校になった場合に介護休業を取得しやすくするツールを監修したそうですね。不登校離職を防ぐために介護休業の取得手続きを補助するサービスの画面=東京都中央区で2026年8月26日午後3時4分、斎藤文太郎撮影 ◆長女が学校に行くのを渋り始めた頃、介護休業制度を子どもの不登校でも使えるなんて知りませんでしたし、誰も「使えるよ」とは提案してくれなかった。知っていたら絶対に介護休業を取っていたと思います。 長女は市の教育支援センターに行ったこともありましたが、送迎が必要で、そうした場面でも介護休業が使えたかもしれません。 介護休業はなんとなく、親が高齢になって倒れたり認知症になったりしたときに使うものというイメージがあるじゃないですか。 そのイメージを変え、当たり前に子どものサポートができるようになれば、と思います。 ――子どもに寄り添うために仕事を休むと、収入の減少によって生活が行き詰まってしまう、というケースもあるのではないでしょうか。精神科医の河合佐和さん=東京都中央区で2026年8月26日午後2時8分、斎藤文太郎撮影 ◆介護休業給付は休業前の賃金の3分の2程度なので、それでは生活できない、という人もいると思います。 ただ、生活保護を含め、さまざまな社会保障があるのは日本の良いところではないでしょうか。 子どもの心理的安全性が重要だという認識は浸透してきましたが、同じように、親の心理的安全性もすごく大事です。 さまざまな社会保障を頼りつつ、子どもと親の安心を守りながら将来の選択肢を探すことは可能だと思います。 学校に行きたくないという気持ちの背景は十人十色なので一概には言えないですが、唯一言えるのは「一人で抱え込まないで」ということ。精神科医の河合佐和さん。「子どもと親、両方を支えられる社会に」と訴える=東京都中央区で2026年8月26日午後2時9分、斎藤文太郎撮影 子どものために仕事なんて辞めたらいい、と言われたこともあります。でも、職場から切り離され、子どもも親も不安にさいなまれてしまうケースも医師として見てきました。 社会から孤立してしまうことは防ぎたい。介護休業制度はそのための一つの手立てになります。親だからといって全ての答えを持っているわけではない。お母さんもお父さんも助けを求めていい。一人で泣かないで、と伝えたいです。 1984年、三重県生まれ。精神科専門医。病院勤務を経て現在は名古屋市の「塩釜口こころクリニック」院長。著書に「子どもが本当に思っていること」(日本実業出版社)など。「精神科医さわ」としてユーチューブなどで発信している。