議長辞職勧告決議案の採決前に議場を退出する福岡県議会の蔵内勇夫議長(左)と服部誠太郎知事(右端)=2026年8月17日、福岡市博多区、西日本新聞社提供 日本新聞協会は2日、真実に迫りジャーナリズムの存在感を示した優れた報道などに贈る2026年度の新聞協会賞を発表した。ニュース部門では、西日本新聞社の調査報道「歪(ゆが)んだ関係―福岡県政を追う」が選ばれた。 西日本新聞社の福岡県政取材班は、県議会で海外視察費が最大10倍に膨張していた実態を起点に、職員による組織的なパーティー券購入や取材規制の動き、質問案の横流しを特報した。議会と執行部との間で長年続いてきた不透明な慣行を明らかにし、ジャーナリズムの存在感を全国に示したとして評価された。 企画部門に選ばれたのは、旧優生保護法下の強制不妊手術の実相に迫る京都新聞社の情報公開訴訟の開示文書に基づく企画「隠れた刃 黒塗り記録」と、24年の兵庫県知事選を機に有権者への聞き取りを重ねた神戸新聞社の連載「あの熱狂の中で」などSNS選挙を検証する一連の報道の2作品。 写真・映像ニュース部門は、共同通信社による、ガザ戦闘から2年の一連の写真報道「終わらぬ悲しみの連鎖」が選ばれた。 写真・映像企画部門は、山陽新聞社の「島を渡る 瀬戸内シーカヤック紀行」と日本放送協会のNHKスペシャル「ヒグマ 異変の海に生きる」に贈られた。 このほか新聞技術賞には、読売新聞東京本社と宮崎日日新聞社の「次世代型標準輪転機の開発」が選ばれた。 10月16日に松江市である新聞大会で授賞式がある。西日本新聞「歪(ゆが)んだ関係―福岡県政を追う」 西日本新聞社は、福岡県議会の高額な海外視察に関する2025年12月22日付朝刊の特報を発端に、県職員による政治資金パーティー券購入や正副議長ポストをめぐる現金授受疑惑を次々にスクープした。一連の報道のさなかで立案された議会棟の取材規制の動きも明るみに出し、白紙撤回に追い込んだ。 丹念な取材と継続的な報道により、議会の不透明な慣行とともに、県による議会への過剰な忖度(そんたく)という構造的な問題を指摘し、正副議長の辞任とともに、支出適正化やパーティー券購入の禁止などの成果にもつなげた。地方政治を監視する報道機関の役割を果たし、ジャーナリズムの存在感を全国に示した調査報道として高く評価され、新聞協会賞に値する。京都新聞「隠れた刃 黒塗り記録」 京都新聞社は、旧優生保護法のもとで行われた強制不妊手術を巡り、情報公開請求・訴訟を行い、7年に及ぶ経緯を報じるとともに、訴訟により開示させた行政文書を基に、過酷な人権侵害の実相に迫る企画報道を2025年4月26日付朝刊から展開している。資料の分析を重ね、国家政策によって奪われた一人ひとりの人生と尊厳を掘り起こすとともに、障害者を取り巻く現代の課題も問い直した。文書開示を最高裁まで争い確定させたことで、非開示としてきた24都道府県を開示方針に転じさせた。情報公開訴訟の結果、黒塗りが外れた滋賀県の強制不妊手術関連文書=京都新聞社提供 文書開示に消極的な行政機関の姿勢を覆し、戦後社会の暗部を明らかにした一連の活動は高く評価され、新聞協会賞に値する。神戸新聞「あの熱狂の中で」 神戸新聞社は、SNS選挙の端緒となった2024年の兵庫県知事選の実像を掘り下げた連載企画を、25年2月28日付朝刊から1年4カ月にわたり掲載するとともに、多角的な連動企画を展開した。兵庫県知事選の最終盤、斎藤元彦氏の演説に集まった支持者。SNSを通じた情報拡散が斎藤氏の再選を後押しした=2024年11月16日、神戸新聞社提供 再選された知事への熱狂的支持がどのように生まれ、既存メディアへの不信がなぜ広がったのかを、有権者の生活や感情に耳を傾けて丹念に報じた。自社の選挙報道への批判にも正面から向き合って検証し、対話と信頼回復の可能性を探るとともに、連動企画での真偽検証やSNS分析により、現代の民主主義と選挙報道の在り方に問いを投げかけた。 SNSが選挙や地域社会の合意形成を変容させる中、時代性と記録性を備えた報道として高く評価され、新聞協会賞に値する。共同通信「終わらぬ悲しみの連鎖」 共同通信社は、ガザ戦闘から2年が経過したイスラエル、パレスチナで撮影した11枚の写真により、紛争に翻弄(ほんろう)される双方の市民の悲しみを報じた。イスラム組織ハマスが奇襲した野外音楽フェスティバルの会場を訪れ、犠牲者を思い涙する人たち=共同通信社提供 取材が制限される現地で、失われた命や故郷を思う人々の表情をストレートに切り取った。人質解放を訴えるイスラエル側のデモ参加者や、たき火を見つめるパレスチナ人自警団らの姿など双方を偏りなく捉えた構成により、長期化する紛争が人々に残した喪失と分断を描いた。 一連の写真は、戦禍のもとで生きる市民の現実を伝える国際的な報道として意義が大きく、写真の力を示す優れた作品として高く評価され、新聞協会賞に値する。山陽新聞「島を渡る 瀬戸内シーカヤック紀行」 山陽新聞社は、記者とカメラマンがシーカヤックで瀬戸内海の121島を巡り、島々の歴史や自然、そこに暮らす人々の営みを記録する連載企画を2024年10月から展開した。笠岡諸島の白石島から高島へ渡るシーカヤック。凪(なぎ)の海面に秋空がきれいに映り込んだ=山陽新聞社提供 海の上という視点からしか捉えられない離島の表情を臨場感ある美しい写真で伝える一方、島民の減少や産業廃棄物不法投棄事件の爪痕など社会問題も報じ、島の個性と現在を浮かび上がらせた。デジタル版では動画や取材の裏話を伝える漫画など多角的にコンテンツを展開し、読者の島々への親しみと関心を高めた。独創的な発想と行動力によって地域ジャーナリズムの新たな可能性を示した写真企画報道として高く評価され、新聞協会賞に値する。NHKスペシャル「ヒグマ 異変の海に生きる」 日本放送協会は、世界自然遺産・知床に生息するヒグマの生態にオホーツク海の温暖化が与えている影響を描いた番組を、2026年5月31日に放送した。NHKスペシャル「ヒグマ 異変の海に生きる」から。じゃれ合う子グマ=日本放送協会提供 24年からプロジェクトを立ち上げ、高精細カメラやドローン、水中撮影などを駆使して生態系の頂点に立つヒグマが生きる環境と行動を記録し、雄大な自然で起きている異変を伝えた。食料の減少で追いつめられたヒグマが岩山に登り、カモメの卵やヒナを捕食する映像は衝撃を与えた。周到な準備のもと圧倒的な映像により視聴者を引きつけ、環境異変への警鐘を鳴らしたドキュメンタリー作品として高く評価され、新聞協会賞に値する。