毎日新聞 2025/8/14 08:45(最終更新 8/14 08:45) 1666文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷稲垣清二等兵曹と自身の名前を並べて紹介しながら、太平洋戦争の捕虜第1号となった父について語る酒巻潔さん=愛媛県伊方町で2025年7月28日午前10時48分、狩野樹理撮影写真一覧 刺すような日差しが照りつける今年7月28日、酒巻潔(きよし)さん(76)=愛知県豊田市=の姿は愛媛県の伊方町立瀬戸中学校にあった。研修で集まる社会科教諭らを前に切り出した。 「父から戦争の話は一切聞いていない。話そうともしなかった」 酒巻さんの言う「父」とは、旧日本海軍の酒巻和男少尉(1918~99年)。徳島県阿波市出身で、太平洋戦争の際に米軍の捕虜第1号となった人物だ。Advertisement 1941年12月8日未明、旧日本軍は陸軍が英領マレー半島に侵攻、海軍が米ハワイ真珠湾の米太平洋艦隊基地を攻撃し、太平洋戦争の火蓋(ひぶた)を切った。 真珠湾では空母から飛び立つ航空機のほか、母艦の潜水艦から発進した2人乗り小型潜水艇「特殊潜航艇(甲標的)」で敵艦に魚雷を撃ち込み撃滅を目指した。「奇襲」と表された攻撃で米戦艦アリゾナを沈没させるなど多大な戦果を挙げた。2021年に建立された「真珠湾特別攻撃隊の碑」には、酒巻和男少尉を含む10人の搭乗員の写真が埋め込まれている=愛媛県伊方町で2025年7月28日午前11時50分、狩野樹理撮影写真一覧 真珠湾に突入した潜航艇5隻のうち、4隻は沈没し1隻は座礁。搭乗員10人のうち戦死した9人は「九軍神」とたたえられ、戦意昂揚の象徴とされた。一方、唯一生き残った1人は米軍に捕らえられたが、日本国内ではその存在を秘された。それが酒巻少尉だった。 酒巻少尉は戦後、手記「捕虜第一号」で詳しい経緯をつづっている。潜航艇の搭乗員としてハワイへ向かったが、攻撃前日、搭乗予定の艇で方位を測定するジャイロコンパス(転輪羅針儀)の故障が判明。羅針儀なしでの作戦遂行は危険だったが、出撃の主張が認められ、稲垣清(きよし)・二等兵曹(特進で最終階級は兵曹長)と共に搭乗して母艦を離れる。だが、真珠湾内を進撃中に米駆逐艦から発見されて攻撃を受け、「湾内突入と輝かしい魚雷発射の成功を得られ」ることなく座礁。海岸に漂着した酒巻少尉は米軍に捕らえられ、稲垣二等兵曹は漂流中に行方不明となった――。 酒巻潔さんは、父が海軍にいたことや捕虜だったことは人づてに聞いただけで、「手記」を読んだのも70歳になってからだった。 だが、父の死後に気づいたことがあった。生前の父に自身の名前の由来を聞くと、「いさぎよしの『潔』」と教えられた。父亡き後、稲垣二等兵曹のおいから、2人とも名前が「きよし」だと指摘されてはっとした。「(稲垣二等兵曹を)『忘れないで』と付けたんじゃないか」――。何も語らなかった父の心の内に思いをはせる。 真珠湾攻撃の前、潜航艇の搭乗員たちは愛媛県三机(みつくえ)村(現伊方町)に滞在していた。周囲から隔離されたような漁村で人の出入りが限られ、湾内の船舶の航行量も少ない三机湾で、真珠湾攻撃に備えた潜航艇の極秘訓練を繰り返していたのだ。搭乗員らは、湾近くの岩宮旅館に投宿した。 今年7月に記者が宿を訪ねると、今も入り口には稲垣二等兵曹ら「軍神」とされた9人の写真が並んでいた。岩佐直治大尉(特進で最終階級は中佐)の英語や漢文の教科書、横山正治中尉(同少佐)が愛用したパイプ、三机で過ごした様子を撮影した写真などもあり、宿泊客を出迎える。九軍神慰霊碑の隣には、酒巻和男少尉も含む10人が紹介された真珠湾特別攻撃隊の碑が並ぶ=愛媛県伊方町で2025年7月28日午前11時45分、狩野樹理撮影写真一覧 伊方町内では65年、九軍神の遺族が三机を訪れたのを機に慰霊碑建立の機運が高まり、66年に浄財を募って須賀公園に慰霊碑が建てられた。以降毎年、慰霊祭が営まれており、2021年には潜航艇で出撃した10人を紹介する碑も建立された。 旅館のおかみの山本恵子さん(73)によると、かつては九軍神の遺族や9人をしのぶ人の来訪もあったが、最近はそうした人々もほとんど姿を見せなくなった。山本さんの伯父の著書「特潜勇士と軍神宿」は、1946年1月に復員した酒巻少尉が、同5月に旅館を再訪したと記載する。岩宮旅館に展示されている九軍神ゆかりの品を紹介する山本恵子さん=愛媛県伊方町で2025年7月17日午後3時24分、狩野樹理撮影写真一覧 軍神らの投宿当時、宿を切り盛りしていた祖母と2人の伯母は鬼籍に入った。「私は説明をするくらい。元気でいる間は頑張って続ける」。そう語る山本さんの傍らに飾られている九軍神の写真は色あせ、流れた月日の長さをにじませていた。 ◇ 終戦から80年目の夏。当時を知る人は減り、戦争の記憶が徐々に失われつつある中、四国の戦争にまつわる場所を記者が歩き、ゆかりの人たちを訪ねた。【時系列で見る】関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載現在昨日SNSスポニチのアクセスランキング現在昨日1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>