箱わなの状況を確認する富里市鳥獣被害対策実施隊部隊長の石井和昭さん(中央)、小峰弘さん(右)=千葉県山武市で2025年6月24日午後5時1分、合田月美撮影 県内各地でイノシシによる農作物の被害が深刻化する中、富里市では徹底した「水際対策」でイノシシの定着を食い止めてきた。その実動部隊が20~80代の農家ら77人で構成する「富里市鳥獣被害対策実施隊」だ。この夏、ついに特産のスイカがイノシシに食い荒らされる被害が発生。痕跡をたどってイノシシを追跡する隊員に同行した。 「味をしめて毎日山からあのビニールハウスに通っていたようだ。足跡が見えるでしょう」。市役所から南東に約8キロの市境近くで、部隊長で小松菜農家の石井和昭さん(50)が指さす畑を見ると、縦横無尽に足跡が何本も残っていた。通り道の斜面は土が崩れている。足跡の大きさから100キロ超の成獣とみられ、同隊はすぐに電気柵を設置した。Advertisement 隊員や市によると、市内でイノシシの痕跡が見つかったのは2017年春。それまでイノシシを見かけることはなかったという。 市に通報したのは、スイカ農家で猟師でもある小峰弘さん(80)だ。かねて「いずれ富里にもイノシシが来る。繁殖力が旺盛なイノシシが一度すみ着いてからでは手遅れになる」と唱え続けていた。市とJAはただちに対策協議会を発足。2年後に結成されたのが同隊だ。 隊員らの話では、市内に出没するイノシシは隣接市から越境してくるという。その痕跡が見つかると、隊員らが無料通信アプリ「LINE」で「足跡発見」「タケノコが食い荒らされた」などと情報を共有する。 すると、そのエリアを担当する隊員や市、JAの担当者らが現場に急行。何キロも足跡を追跡して出所を調べ、通り道に箱わなを仕掛けるなど防除に取り組んできた。隊員の狩猟免許取得も後押しし、現在は全隊員のほか市やJAの担当者も所持する。6月にイノシシに食い荒らされたスイカ。特産のスイカが被害にあったのは富里市では初めてという=同市提供 とはいえ、イノシシは用心深く極めて学習能力が高い。箱わなの餌に大好物の米ぬかを仕掛ける際にも、あえてわなの周囲で数日新鮮な米ぬかをたらふく食べさせておびきよせるなど、神経戦を展開する。 わなを設置した場合、見回りは毎日欠かせない。かかっていたら、すぐに情報共有して隊員らが集まり、一緒に仕留める。わなにかかったイノシシは人に襲いかかるため、危険だからだ。 こうした取り組みは一定の成果を上げている。イノシシの捕獲数は19年度の13頭から24年度46頭に増加した。アライグマの捕獲も増え、農作物の被害額は19年度約980万円から24年度63万円へと減った。 市は、わなの状況を確認するため山中まで毎日往復する隊員の負担を軽減しようと、獲物がかかると画像で通知する送信機能付きのセンサーカメラなどを設置した。県内初の試みだ。 石井さんは「師匠」と慕う小峰さんからイノシシの追跡の仕方からわなの設置のコツまですべて教わってきた。現在はこうした手法を生かし、隣接する山武市の農家とも連携して対策を進めている。「イノシシが着実に増えていると実感する。農家が協力し合って定着を食い止め、自分たちの畑を守っていきたい」と話す。 県によると、イノシシは00年度は県南にとどまっていたが、07年度ごろに印西市、10年度ごろに東金市でも確認されるなど県北部にも拡大している。県内全体の農作物被害額は約1億4000万円(23年度)に上る。【合田月美】