図解あり 久野洋毎日新聞 2025/7/13 11:00(最終更新 7/13 11:00) 3171文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷日産自動車九州苅田工場に隣接する港湾エリアに並ぶ自動車。手前は輸出車の運搬船=福岡県苅田町で2025年4月10日午前10時46分、本社ヘリから上入来尚撮影写真一覧 トランプ米政権の関税強化策が地方のものづくりを揺さぶっている。自動車産業が集積する九州では、トランプ大統領に翻弄(ほんろう)される関税交渉の状況に、経営者らが不安やいらだちを募らせる。 「カーアイランド」と称される九州北部の金属加工会社では、先行きが見えないため採用活動の中断を余儀なくされた。専務の米村勝利さん(仮名、50代)は「日本の産業を守るという強い姿勢を国や政治家から感じられない」と不満を隠さない。Advertisement 米国の製造業を守ろうとなりふり構わないトランプ氏に対し、参院選の中で対応に追われる日本政府や政治家の姿勢に厳しい視線が注がれている。今は受注好調も、先行き見えず金属加工会社で溶接作業をする従業員=福岡県内で2025年7月、久野洋撮影写真一覧 福岡県内のある田園地帯の一角に自動車関連の四角い敷地の工場が点在する。その一つの金属加工会社で7月上旬、十数人の従業員が自動車の部品を手に黙々と仕事をしていた。溶接ロボットのアームが規則的に動き、時折バチ、バチッと火花が舞う。気温が30度を超える中、工場の入り口から巨大な扇風機が中に空気を送り込んでいた。 経営を取り仕切る米村さんは「追加関税が発動されても不思議と影響はないんですよ」と話す。しかし、「この状況がいつまで続くのか……」と眉間(みけん)にしわを寄せた。 会社は、自動車メーカーに車体パーツを納める部品会社から溶接の仕事を請け負う。社員数は約70人。生産量の半分ほどが米国向けの車種に使われる。 4月3日に自動車への25%の追加関税が発動され、3割ほどの受注減を覚悟した。しかし、もともとの予定通りの受注が続き、「ほどよい残業で忙しくしている」(米村さん)。関税の影響による減産や自動車各社からの部品の値下げ圧力は全く感じないという。逆に人件費などのコスト上昇分を単価の上昇で支えている状況だという。 米村さんは「自動車各社が影響を吸収しているかもしれない。ただただ感謝だ」と述べる一方、「心配なのはこの先。関税交渉が失敗して生産移管が起きれば、我々は厳しい」と気が気でない。自動車の対米輸出額増減率の推移写真一覧 自動車大手は25%の追加関税が課された後も、米国での大幅な価格転嫁や大規模な生産体制の移管を進める動きはない。しかし、ホンダは4月中旬、一部車種の生産を米国に移す方針を明らかにした。トヨタ自動車は7月から米国内で売る一部車両の値上げに踏み切るなど、影響はじわじわ広がり始めている。 財務省の貿易統計によると、5月の自動車の対米輸出額が前年同月比24・7%減となった。市場関係者は「経済指標にも徐々に影響が表れ始めた」(国内エコノミスト)と指摘する。採用中断でリスク回避も金属加工会社専務の米村勝利さん(仮名)は「日本の政治家からは自動車産業を守る決意が感じられない」と語気を強める=福岡県内で2025年7月、久野洋撮影写真一覧 将来が見えない中、米村さんが決めざるを得なかったのが採用活動の中断だ。今年度は今後の増産を見据えて10人ほど増員する計画だった。それをこの春、関税強化策を理由に見合わせた。もし生産が減れば、経費が増える増員が経営上のリスクとなるためだ。 米村さんは「いつまでも悩み続けるわけにはいかないが、1年先の状況なんて分からない」と苦心している。 今の従業員も不安にさせたくない思いがある。米村さんはニュースサイトや交流サイト(SNS)を見て関連する報道に神経をとがらせる。会社の朝礼では時折、関税交渉の状況などを丁寧に従業員に説明し、「受注はたくさんある。皆さんも頑張ってください」と安心させるように心掛けている。商議所会頭「灯消したくない」苅田商工会議所の三原茂会頭=福岡県苅田町で2025年6月23日午前、久野洋撮影写真一覧 自社だけでなく地域経済にも目配りする経営者も怒りを隠せないでいる。 「関税を武器にするトランプ大統領のやり方は完全に間違いだ」。そう声を荒らげるのは、日産自動車の工場のお膝元、苅田商工会議所(福岡県苅田町)の会頭で自動車部品メーカー社長の三原茂さん(63)だ。 台湾積体電路製造(TSMC)進出を契機に半導体産業が活況を呈し、「シリコンアイランド」とも呼ばれる九州。かつて炭鉱が基幹産業だった九州北部は1960年代以降に閉山が相次ぎ、次世代の主要産業として福岡県などが車の工場の誘致に取り組んだ。 日産が先陣を切り、75年に苅田町に進出。トヨタやダイハツ工業も相次いで福岡県や大分県に工場を建てた。部品や工場のメンテナンスといった関連産業も育ち、「カーアイランド」の別称も定着した。金属加工会社で従業員に仕事を教える米村勝利さん(仮名、右)=福岡県内で2025年7月、久野洋撮影写真一覧 2017年から会頭を続ける三原さんは、父親で前会頭の晴正さん(故人)らが日産の工場誘致に県と尽力した経緯も知る。関税強化策の影響で米国への生産移管が進めば地域経済に大きな打撃を与えかねず、「この街から自動車産業の灯を消すわけにはいかない」と必死だ。 自社では日産との取引が多い三原さんだが、他の自動車会社を含む企業の幹部らと会った際は「これから受注減に苦しむ中小企業が出てくるかもしれない。そのときは取引を考えてほしい」と地元全体のために頭を下げる。 商工会議所も約200万円を用意し、地元工場で生産し、対米輸出の影響が心配される日産「エクストレイル(米国名はローグ)」の購入者に10万円の補助を出すことにした。 米国の関税強化策に反発する三原さん。だが、「トランプ大統領が米国の製造業を守ろうとする方向性は正しい」と理解を示す。翻って日本の政府や政治家を見ると、「どれほど日本の産業を真剣に考えているのか」と憤る。 関税問題では政府の姿が見えにくいとも感じている。「関税の打撃分を補助金で支援するとか、方法はいくらでもあるじゃないか。半導体産業に1兆円を超える補助金を出しているが、自動車だって日本の大切な産業だ」と力を込める。日米交渉は行き詰まりトランプ関税を巡る日米の動き写真一覧 米政権は4月、自動車への追加関税や「相互関税」を発動した。一律で10%が課され、上乗せ分(14%)は7月9日まで停止すると決定。4月中旬以降、赤沢亮正経済再生担当相がベッセント米財務長官らと交渉し、自動車への高関税などの見直しを主張してきた。 しかし、これまで7度にわたる閣僚協議にもかかわらず、両国が合意するめどは立っていない。相互関税の上乗せ分の適用は8月1日まで先延ばしとなったが、トランプ氏は最近も米国産のコメの輸入を拡大しない日本への不満を表明するなど、交渉は行き詰まっている。 米村さんの会社は08年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災、20年以降の新型コロナウイルス禍による生産減少も乗り越えてきた。 それだけに米村さんは「生産がゼロになっても天災なら諦めがつく。でも、今回は政治に左右される『人災』ですよ」と歯がゆい思いを抱える。「米国に対して切れるカードが少なく、苦しい状況なのは分かる。でも、日本の産業を守るという強い姿勢を日本の政府や政治家から感じられない。自動車は国を代表する産業でしょう」。焦る気持ちが拭えないでいる。長期化に備え「国内消費の下支えも」トランプ関税を巡る主な政党の政策写真一覧 トランプ関税を受けた政策を巡り、政府・与党では「緊急対応パッケージ」と称し、中小企業の資金繰りや雇用面などを支援する政策を示している。 一方の野党は、自由貿易を維持する各国との経済連携の枠組みの強化や、自動車需要を支える税制の見直しなどを提言している。 トランプ関税への対応策を考える上で重要なポイントは何か。ニッセイ基礎研究所経済調査部長の斎藤太郎氏=本人提供写真一覧 ニッセイ基礎研究所経済調査部長の斎藤太郎さんは「(追加関税後は)自動車産業が価格を下げて輸出台数の落ち込みを防いでいるが、そうすると収益は悪化する。価格の引き下げをやめると輸出台数が落ち込む。難しいかじ取りを迫られている」と指摘する。 また、「日米交渉を通じて税率を引き下げるのが一番だが、それができないなら、政府の取るべき政策は国内消費の下支えだ」と提言し、「自動車に限らず、消費の弱さが中長期的に問題となっており、国内の需要を支えることが大切だ」と述べ、日本経済全体への目配りの必要性を訴えている。【久野洋】【時系列で見る】関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載この記事の筆者すべて見る現在昨日SNSスポニチのアクセスランキング現在昨日1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>