24色のペン:「女性の社会進出で少子化が進んだ」の的外れ=町野幸

Wait 5 sec.

「女性の社会進出が進むと少子化が加速する」という誤解が広まっている(写真はイメージ) 「女性の社会進出が進むと、少子化が加速する」「専業主婦世帯の方が子どもが多い」――。 こうした誤解は、日本社会に今も根強くはびこっているようだ。 そして、社会的地位の高いとされる職業に就いている人、一定程度の学識がある人たちの一部にも「なんとなく」そう考えている人がいると聞く。「女性活躍に意見すると叱られるので公に口にはできない。でも、実際問題はさ……」という具合に。さらには、働く女性自身さえも同じことを考え、後ろめたさや諦めを感じている場合がある。 しかし数字は、これを否定する。共働き世帯の方が子どもが多い傾向ニッセイ基礎研究所人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子さん=本人提供 データ解析のプロである、天野馨南子(かなこ)ニッセイ基礎研究所人口動態シニアリサーチャーに聞いた。天野さんは「統計的に見て大いなる誤解です」とはっきり指摘する。Advertisement 5年に1度実施される国勢調査の結果から天野さんが分析したところ、そもそも共働き世帯の方が子どもの数が多い傾向にあった。 最新にあたる2020年調査では、共働き世帯は1321万世帯、妻が専業主婦の世帯は582万世帯。このうち、子どもがいない世帯は共働き世帯で34%、専業主婦世帯で39%で、専業主婦世帯の方がその割合が高い。 18歳未満の子どもがいる世帯について見ると、「子どもが1人」の世帯の割合は専業主婦世帯は39%で、共働き世帯より8ポイント高い。一方で、18歳未満の子どもが2人もしくは3人いる世帯の割合は、それぞれ共働き世帯が専業主婦世帯を5ポイント、3ポイント上回っている。「双方が経済的に安定している夫婦の方が子どもを持とうという考えになりやすい。そして、不本意な形ではなく理想の結婚形態ではお互いの幸福度が高くなり、結果として授かる子どもの数が多くなるのも必然です」(天野さん)との分析だ。「専業主婦こそ女性の幸せ」という決めつけ若い世代は共働きの希望が男女とも多い=東京都港区で2023年5月8日、渡部直樹撮影 ではなぜ、誤解は幅をきかせているのか。天野さんは「女性活躍を妨げようとする悪意ではなく、どちらかというと善意からくるアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)によるものではないか」とみる。 男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年、育児休業法(現・育児介護休業法)の施行は92年。専業主婦世帯数と共働き世帯数の逆転が起きたのは90年代だ。現在50代以上の夫婦が若い頃は、専業主婦世帯が当たり前の環境下にあった。天野さんは「中高年世代が、自分たちの時代の生き方を押しつけているという見方もできる。これにより、若い世代が望む生き方を結果的に妨害し、未婚化、そして少子化を進めているリスクにもなっている」と指摘する。 今や、共働き世帯は7割を超えている。そして、国立社会保障・人口問題研究所が21年に実施した出生動向基本調査では、18~34歳の未婚者において、結婚相手やパートナーに専業主婦を望む男性は6・8%、希望する女性は13・8%。女性だけでなく、若い男性にとっても「妻が専業主婦」は、希望する人が非常に少ないライフコースになっているのが現実だ。 さらなる誤解に「女性は本当は働きたくない。家計を支えるために働かざるをえないだけだ」というものがある。しかし、女性が仕事をする理由がそれだけではないことは、各種民間調査などからも分かる。働くことで得られる社会とのつながり、自己実現、スキルアップ、自分の能力を生かした社会貢献など、その理由は多様で、決めつけは全くよくない。子育てと働くことは二者択一ではない参院選候補者らの演説を聞く有権者たち=東京都江東区で2025年7月、新宮巳美撮影 地方から若者を引きつける東京における調査では、興味深いことが分かる。 東京商工会議所が、都内で働く18~34歳の男女に実施した24年の意識調査では、それぞれ約1000人の回答者のうち「妻が専業主婦コース」を希望したのは、男性は4・7%、女性は4・9%と、ともに5%に満たなかった。これは全国調査の平均よりさらに低く、女性の方がその差が顕著だ。「ここに、地元を去って東京に一極集中する若者が考えていることが垣間見えます」と天野さんは解説する。「女性登用などダイバーシティーが推奨されておらず、IT化やリモート勤務など柔軟な働き方への対応も遅れていることなどで、希望するライフコースの地元での実現性が低ければ、若者は東京に出ていく」ということだという。これが若い女性に限らず、男性も同じということも見落とせない。 もちろん、「結婚するか」「共働きするか、専業主婦になるか」「子どもを持つか、何人持つか」は全て個人の選択の話であり、「少子化解消を目的として国のために」望まない判断が強いられるべきではない。それを大前提とした上で、もし国が本気で少子化をなんとかしたいのであれば、「結婚や子育てを望んでいる」若い世代の本音に耳を傾けて、政策に落とし込む必要がある。 20日に投開票される参院選では、少子化対策をめぐり、若い女性が大学進学や就職よりも出産を選択することを是とするような主張もなされている。ではそれは一体、誰の声の代弁なのだろうか、と思う。 そもそも子育てと働くことは二者択一ではない。選挙ではぜひ、地に足のついた政策をとなえる候補者に票を投じたい。【経済部・町野幸】<※7月18日のコラムは外信部の鈴木玲子記者が執筆します>