人に触られない距離は何センチ? 夏休み、子どもを危険から守るには

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夏休みは、子どもだけで留守番をする機会が増えがちだ(写真はイメージ)=ゲッティ写真一覧 夏休みは、子どもたちだけで、出かけたり家で留守番したりして過ごす時間が増える季節だ。最近は、教員による盗撮事件が起きるなど、信頼できるはずの大人から被害を受けるケースも目立つ。保護者の不安は尽きない。子どもを守るには、どうすればいいのか。「10歳までに身につけたい 身近な危険から自分を守る方法」(青春出版社)を6月に出した市民防犯インストラクターの武田信彦さん(48)に聞いた。子どもだけになる瞬間が「危ない」 ――夏休み中の子どもの安全を守るには、どんな点に気をつけたらいいでしょうか。 ◆犯罪の被害は、周囲に親などがいない子どもだけの瞬間に集中しています。夏休み中は、友達と約束をして出かけたり、自転車デビューしたりするお子さんも多いのではないかと思います。自転車に乗ると、広範囲を一人で移動できるようになります。Advertisement 特定の場所が危ないということではなく、子どもだけになる瞬間はいかなる時も防犯対策が必要になるということを、まずは知っていただきたいと思います。 ――どんな対策が必要ですか。 ◆子どもの場合、自分だけでリスクを防いで危険から逃れるのは難しい。行き慣れているお店の人など、地域の中で助けてくれる人を親子で見つけておくことが大切です。 人との接し方を教えずに、「知らない人に気をつけろ」「不審者に気をつけろ」と言うと、子どもは周囲に助けを求められない非常に危険な状況に置かれることになります。 まずは、「何かあったら、人に助けを求めてもいいんだ」と伝える必要があります。 最近は、地域の人とあいさつを交わさず、知らない人とは関わらないようにしている人が多くなっているようです。人と触れ合わないことが良しとされたコロナ禍の後、こうした風潮が急加速したように感じます。言動に違和感を覚えたら警戒を ――なぜ人と関わらない方がいいと考えてしまうのでしょうか。 ◆防犯について講演した際、「子どもに知らない人が声をかけてほしくないので、『あいさつをして』と言わないでほしい」と参加した保護者から言われたことがあります。 お話を聞いてみると、犯罪への不安感が非常に強いことが分かりました。子どもに悪意を持つ人に触れてほしくないという気持ちから、人との接触を避けるのが一番という結論を導き出してしまう。 そうした不安は理解できますが、子どもだけになりやすい状況がある以上、人とのコミュニケーションを絶つ方が危険性がより高まるということを知るべきです。夏休みは、子どもたちだけで遊びに行く機会も多くなる(写真はイメージ)=ゲッティ写真一覧 ――とはいえ、最近は女子児童の盗撮画像を教員らが交流サイト(SNS)のグループチャットで共有したとされる事件など、信頼できるはずの大人からも被害を受けています。 ◆「悪意や犯罪の気持ちを持っている人はこういう人」というバイアスをかけたり、「こういう人たちではない」という聖域を設けたりするのはやめた方がいい。 特に子どもを狙うタイプの悪意や犯意を持つ者は、実行しようとする目的を達成するまでは心を隠すケースが多い。見た目や職業では区別できませんし、性別も年代も幅広い。いかなる相手であっても、言動に違和感を覚えるのなら、警戒心を持つべきです。 「あれ、おかしい」という感覚を親子で練習してほしいと思います。 例えば、公園で大人が「一緒に遊ぼう」と声をかけてきて体に触ってきたとしたら……。想像力を働かせて、どんな場面で違和感を覚えるか、お子さんと考えてみてください。 「あいさつするのはどう? それはいいよね」と、健全なコミュニケーションの例も織り交ぜながら、行うといいですね。 悪意や犯意は簡単に見抜けるものではありません。コミュニケーション力や想像力、断る力や逃げる力など、あらゆるものを駆使することが防犯力を高めることにつながります。自分一人にならない環境を選ぶ ――著書では、子どもが自分を守る力を身につける方法も具体的に紹介しています。 ◆まず最も重要なのは、できるだけ一人にはならないという意識を持つことです。店の前を歩くなど、なるべく自分を一人にしない環境を選ぶ。 次に、観察力です。「だるまさんが転んだ」の遊びで、周りに意識を向ける練習をすることができます。前を歩いている子どもがしょっちゅう振り返ると、悪意がある人に近づきにくいと思わせる力になる。 マンションの敷地内に入るときや玄関でカギを開ける前には、必ず周りを観察して安全を確認する。大人と一緒に練習して、習慣化するのが良いと思います。どうしたら防犯力を高めることができるか。普段から親子で考えることが大切だ(写真はイメージ)=ゲッティ写真一覧 また、「(相手に)触られない距離」を親子で確認してほしいですね。新聞紙を使うと分かりやすい。新聞紙を広げて長い方を丸めた棒を2人で持った長さ(約100センチ)は、ちょうど相手の声は聞こえるけれど、触られることはない最低限の距離です。どんなに優しそうに見える相手でも、あいさつや会話はできるけれど、触られない距離を保つ必要があります。自分を守る力を引き出す ――日ごろから保護者の方々と話していて、防犯面でこうした感覚はアップデートした方がいいと感じることはありますか。 ◆一番まずいなと思うのは、「誰かが子どもを見ていてくれる」という感覚でしょうね。昔は街中で子どもに声をかけて関心を向けてくれる大人が多かったけれど、最近はコミュニケーションが希薄になっています。 保護者の側も人とのコミュニケーションを遮断することが増えている一方で、いまだに「誰かが守ってくれるはず」という感覚の人が多くて驚いています。 例えば、ショッピングモールなどのお出かけ先で、大きな声で子どもに「トイレに行ってきなさい」と言って、一人で行かせてしまうケースもあります。 また、子どもの位置情報を知らせる防犯アプリなどのサービスに頼る傾向もみられます。大人が子どもを守るという強い気持ちを持っていただくと同時に、一緒にいられないのであれば、子どもが自分自身を守る力を引き出してあげなくてはなりません。 防犯対策は学校でも教えていますが、身近な大人が繰り返し伝えていかないと定着しないのです。【聞き手・川上珠実】たけだ・のぶひこ市民防犯インストラクターの武田信彦さん=東京都千代田区で2025年7月4日午前10時35分、川上珠実撮影写真一覧 1977年生まれ。慶応義塾大学在学中に国際的な犯罪防止NPOの活動に参加。卒業後の2006年からフリーのインストラクターとして活動を開始し、08年に一般市民による「市民防犯」を広めるためのプロジェクト「うさぎママのパトロール教室」(現Go!Go!!市民防犯推進プロジェクト)を開設した。