映画の推し事:倉敷発 愛郷心が芸術に昇華した「蔵のある街」

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映画の推し事毎日新聞 2025/8/26 14:31(最終更新 8/26 14:31) 2816文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷 うれしくて仕方なかった。筆者が高崎映画祭のシニアプロデューサー時代に出合ったインディーズ映画専門の配給宣伝会社マジックアワーが、平松恵美子監督の新作「蔵のある街」の国内配給を担当することになったというニュース。 「わざわざ書くほどか」と聞かれたら、「もちろん」と答えたい。監督3作目だとは信じられないほどの作品だから。Advertisement大監督との経験積んだ平松恵美子監督 それはそうだろう。監督として3作目というだけで、彼女は大監督の山田洋次の共同脚本家として「武士の一分」「母べえ」「おとうと」「東京家族」などに参加し、「小さいおうち」と「母と暮せば」では助監督まで務めた。 そして2012年、45歳の時に監督から脚本まで担ったデビュー作「ひまわりと子犬の7日間」は、14年の韓国・スンチョン湾世界動物映画祭の開幕作品に選ばれ、満を持してデビューした新人の実力を見せつけた。 同作は観客にも愛され、当時すでに韓国に多くのファンがいた主演の堺雅人の代表作の一本として挙げられるだろう。「レインマン」思わせる役作り その平松監督の新作だから、ある程度のクオリティーが保証されていると予想はしていた。しかしいよいよ解禁された「蔵のある街」の予告編を見た時、筆者はもうひとつの「事件」に直面した。 ファーストカットで登場する俳優との遭遇である。どこかで見たことがあるような気がした。 彼が演じた白神恭介は、ストーリーをリードする難波蒼(山時聡真)と亀山祈一(桜井健人)が軽はずみに口にした、江戸時代からの建物が残り火の扱いに特にうるさい街で花火を打ち上げるという言葉を口約束にすることを許さず、実現のために奮闘させる、つまり映画の中心的な事件の動機を提供する人物である。 見覚えがあったのに、自閉症スペクトラムの役作りがあまりに堅固で、誰なのか思い出せなかったのだ。 1988年に公開され、米アカデミー賞でダスティン・ホフマンへの主演男優賞の栄光だけでなく、作品、監督、脚本の各賞をもたらし、興行面では世界市場で3億5482万5435ドルという莫大(ばくだい)な収益を上げた、「レインマン」のレイモンドを連想させる姿。誰もが納得 堀家一希の演技力 しばらくして、この一言とともに思い出した。「フィリピン人じゃなかった!」 第22回プチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)での「世界は僕らに気づかない」上映後のQ&Aで、客席の誰かが感嘆詞付きで叫んだ言葉と一緒に浮かび上がったのは、堀家一希という名前だ。 デビュー7年後に主演した同作で、彼は非常に難易度の高いキャラクターを演じた。 世間知らずのフィリピン人の母親との間に確執があり、同性パートナーとの関係でも危機を迎えている高校生、渡辺純悟。 BIFANはジャンル映画祭のため、成長物語が上映される機会は極めて少ない。にもかかわらず、筆者が選考委員会を説得できたのは、主演俳優の演技力に映画を見た皆が魅了されたためだった。 「蔵のある街」でも、彼の役作りは徹底している。何か違うことに注意が向いているようでいて実は周りをしっかり見ていて、頭の中に「お世辞」「社交辞令」という概念自体が存在しない、一度口にした言葉は何でも守ってほしい恭介。 妹の紅子(中島瑠菜)とのケミストリー、蒼と祈一、それに彼らをサポートする学芸員の古城緑郎(高橋大輔)らとのアクションとリアクションを通じて観客の視線を集め、同時にシークエンスの超目標を提示して物語をリードする。優れた俳優生かした優れた演出 その姿に感動したが、「世界は僕らに気づかない」のQ&Aで披露した彼の演技観を思い出すと、あれを継承発展したのが今の姿だと納得できる。 「他の登場人物について撮影準備段階ではあまり考えず、むしろある程度距離を置くようにしています。まずは心理的な負担を減らすことが目的ですが、相手との葛藤からストーリーが始まる時、そのギャップが大きな役割を果たします。私は現実ではなく、作品が提示する世界の中にいるのですが、どのような世界でも自分が経験する葛藤について、あらかじめ知っている人はいませんから」 非常に説得力があり、「蔵のある街」でも有効だったに違いないアプローチ。もちろん、優れた俳優を十分に生かすのは、監督の優れた演出力であろう。豪華な俳優陣、集めた縁 ファンタジーを含め、興趣豊かで多様なドラマ的装置を随所に配し、「地方都市の花火」という小さな題材に持たれがちな先入観を払拭(ふっしょく)してしまう。交響楽団の指揮者を連想させる彼女の才能は、自由自在の強弱調節を通じて観客を魅了し、川の上に絵に描いたような花火が打ち上げられ驚くほど美しいテーマ曲が流れる時、感動の涙を流させる。 堀家の他にも、韓国のフィギュアスケートファンからアイドル並みの人気があった国際的スーパースターの高橋大輔、最近では主に国際映画祭の出品作を通して世界の舞台で活躍しているMEGUMI、筆者が全州国際映画祭に招待した「ハケンアニメ!」にも出演した前野朋哉、筆者の友人らが多く製作に参加した「福田村事件」のミズモトカナコら、豪華でありながら、一方ではどんな縁で集まったのかという人々を結集させた力。「ばらずし」のごとき調和 それ以外にも、「蔵のある街」が筆者にとって決して忘れられない大切な作品となった極めて日本的な理由がある。 愛郷心。廃藩置県以前は「国」として存在していた地域に対する、日本人特有の特別な誇り。そして本作の愛郷心は他地域の人々を拒否するのではなく、むしろ温かく歓待する。ニューヨークの「メルティングポット」、バンクーバーの「サラダボウル」のような比喩的表現を用いるなら、魚以外にもあらゆる材料が調和する「ばらずし」か。 ロケ地もそうだが、監督やスタッフ、出演者(高橋、MEGUMI、前野、ミズモト)ら製作に参加した人たちの多くが、文字通り「蔵のある街」の岡山県倉敷市の出身だ。そのせいか、美しく特徴的な風景への愛情と誇りが、終始感じられる。 それは「敵とよぶものはなくなりました。/醜とよんだものも友でした。/私らは語りましょう語りましょう手をとりあって/そしてよい事で心をみたしましょう」とうたった地元出身の詩人・永瀬清子の「美しい国」のようだ。 郷土への愛情と誇りが偉大な芸術性へと昇華され、一館でも多くの劇場で上映しなくてはと焦るほどの成功。2000円で行ける極上の旅 コロナ禍を経て、穏やかな日常の大切さについてもう一度考えるようになった観客に、感情移入させたままスクリーンの前に座らせて、103分の上映時間をまるで10分のように感じるに違いない、究極のウェルメード。 この驚くべき力に身を任せ、蔵と川辺への神秘的な街へ旅に出てみよう。その費用は、たったの2000円なのだ。(洪相鉉)【時系列で見る】【前の記事】「あんぱん」でも注目 津田健次郎って? アニメも実写も引っ張りだこ 低音の安心感と真摯な演技関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載現在昨日SNSスポニチのアクセスランキング現在昨日1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>