経営者イノベーション委員会:危機感の欠如が最大のリスク 「IM Lab Open Days #2」開催

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「IM Lab Open Days #2 2025」では、元IDEOグローバルディレクターのデイブ・ブレイクリー氏による基調講演が行われた=東京都港区で2026年1月、AA creative works撮影 「世界は根本的に、かつ深く変化している」。「IM Lab Open Days 2025」の続編として2026年1月23日に開催された「IM Lab Open Days #2 2025」で、シリコンバレーで四半世紀にわたりイノベーションの最前線に立ってきた元IDEOグローバルディレクターのデイブ・ブレイクリー氏は、静かだが重い口調で語り始めた。東京都港区の会場に集まった37名のイノベーターたちが直面しているのは、単なる不況ではなく「既存のビジネスモデルの崩壊」である。本会議で提示された「ベンチャービルディング」の神髄と、日本企業が再生するための具体的な処方箋を詳述する。成長チャネルの再定義とベンチャービルディング 多くの日本企業は、成長のために「新製品開発」や「M&A(企業の合併・買収)」に頼ってきた。しかし、ブレイクリー氏はこれらを「伝統的チャネル」と呼び、それだけでは不十分だと断言する。彼が提唱するのは、自社の資産(ブランド、顧客、技術)を活用しながら、外部のスタートアップと変わらぬスピードで新事業を立ち上げる「コーポレート・ベンチャービルディング」である。これはスタートアップへの投資(CVC)とも、従来の新規事業とも異なる「第3の道」である。成功の要諦として、ブレイクリー氏は「Build(自社構築)」「Partner(エコシステム提携)」「Invest(少数株主投資)」の使い分けを説く。例えば、ホンダとLGエネルギーによるEVバッテリー合弁事業は、互いの補完的スキルを組み合わせた「Partner」の好例。一方で、自社のコアコンピタンス(中核事業)に基づき、市場を再定義する場合は「Build」を選択すべきである。Advertisement顧客開発の規律――「100回インタビュー」の衝撃 ベンチャービルディングの具体的プロセスにおいて、参加者に最も強い衝撃を与えたのは「顧客インタビュー」への徹底した規律であった。ブレイクリー氏は、インキュベーション(新規事業支援)段階で少なくとも100回以上の対面インタビューを行うべきだと主張する。日本の製造業にありがちな「スペック表に基づいた開発」は、もはや通用しない。重要なのは、顧客の「感情的な痛み(Emotional Pain)」に共感し、解決すべき課題に「恋に落ちる」ことである。ベンチャービルディングを成功させるエンジンは、テクノロジーではなく「顧客の痛み(Customer Pain)」である。顧客の「痛み」への徹底的な執着「IM Lab Open Days #2 2025」では、元LVMH最高デジタル責任者のヴァレリー・ヘッケ氏によるワークショップも行われた=東京都港区で2026年1月、AA creative works撮影元LVMH最高デジタル責任者、ヴァレリー・ヘッケ氏によるワークショップでは、Appleが日本の高齢者市場へ進出するという架空のシナリオを用い、高齢者、家族、介護職員のそれぞれの視点から「痛み」を抽出する訓練が行われた。議論の中で浮き彫りになったのは、テクノロジーによる解決以前に存在する、介護家族の「罪悪感(Guilt)」や、高齢者の「尊厳(Dignity)」といった極めて人間的な感情であった。イノベーションとは、こうした深い人間理解の上に、最新テクノロジーのAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を「後付け」することで初めて完成するのである。日本企業の多くは、わずかなリサーチでプロトタイピングに移行しがちだが、シリコンバレー流の規律は異なる。顧客が「何に困り、なぜ既存の解決策では不十分なのか」を、本質的に理解するまで問い続ける。このプロセスを外注せず、自社チームで行うことで「社内の筋肉(Internal Muscle)」が鍛えられ、持続的なイノベーション体質へと変貌するのである。組織の壁を越える「仕組み」としてのイノベーション 一般社団法人Japan Innovation Network(ジャパン・イノベーション・ネットワーク、以下JIN)のChairperson(チェアパーソン)理事である紺野登氏は、日本企業の新規事業が「ゾンビ事業(死んではいないが成長もしない事業)」化する現状を厳しく指摘した。その原因は、投資の意思決定が既存事業の延長線上で行われ、失敗を許容できない組織文化にある。 これに対する解決策が、ISO56000に準拠した「イノベーション・マネジメント・システム(IMS)」の構築である。IMSは、イノベーションを個人の才能に委ねるのではなく、組織の「仕組み」として定着させる。具体的には、以下の五つの成功要件が提示された。1、CEO(最高経営責任者)によるコミットメント2、専任のリーダー(アントレプレナー)の任命3、確保された資金源(マイルストーンベースの投資)4、多様なスキルを持つ専任チーム5、成功時に追加投資を行うガバナンス(新ベンチャーボードの設置) 特に議論を呼んだのが「暫定CEO(Interim CEO)」の概念である。事業の成長フェーズに合わせて、最適なリーダーを外部から招へいしたり、適切なインセンティブを設計したりする柔軟性が、日本の大企業には決定的に不足している。エコシステム戦略が未来を創る「IM Lab Open Days #2 2025」で行われたワークショップに参加する出席者たち=東京都港区で2026年1月、AA creative works撮影 JINの活動の核心には「1社だけで解決できない課題に立ち向かう」というエコシステム思考がある。過去30年間日本から新産業が生まれなかったのは、この「新しいつながり」を作る仕組みが不在だったからだと分析する。欧米では、大学、政府、産業界が「リビングラボ」のような形で共同実験を行い、社会実装を加速させている。日本がここから逆転するためには、特定の巨大企業に依存するのではなく、多様な課題に対して多様な主体が「共通言語(ISO56000など)」を持って連携する、フラットなエコシステムを構築しなければならない。未来を創るシステムビルダーへ 会議の締めくくりとして、東京科学大学教授の大嶋洋一氏は「ロジカルなシステム(ISO)」と「ヒューマンセントリックな共感(インタビュー)」の両立を説いた。日本企業が再び輝きを取り戻すためには、個々の社員が「システムビルダー」としての自覚を持ち、組織の枠を超えたエコシステムを構築していくことが不可欠である。今、我々に求められているのは、単なるアイデアではなく、それを事業へと昇華させる「規律ある仕組み」の導入である。