「現代詩の日」に紡ぐ言葉 中原中也などゆかりの「南予」の感性

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南予を言葉にした参加者全員の詩は大きな作品にまとまり、イメージは深まった=愛媛県西予市で2026年4月4日、松倉展人撮影 「現代詩の日」である4月4日、「『南予』を言葉で紡ぐ」と題した催しが愛媛県西予市の愛媛大地域協働センター南予であった。南予(愛媛県南部)の魅力を受け継ぐだけでなく、みんなで発信していこうという試み。県内各地から集まった9人が詩の創作ワークショップで南予の自然、風景、文化、暮らしを言葉に紡いだ。 講師は南予の八幡浜市出身で同センター南予副センター長の大本敬久(たかひさ)・特定准教授(民俗学、日本文化論)。この地域ゆかりの詩人らの足跡をたどるうち、「南予には既存の秩序を壊し、再構築するクリエート性がある」という考えにいたったという。Advertisement この日のワークショップは「難しい技法は不要。南予の感性を言葉で未来に残し、伝えてみませんか」と参加者らに促し、各自が持ち時間10分間で詩をつくった。 「石を積む/芋 桑 ミカン イワシ漁/命を繋(つな)ぐ時の流れ」と、古くからのなりわいに思いをはせた作品や、「古い自動車/バスのにおい/冷たい雪が入ってくる長ぐつ/大きな牛の大きな眼(め)/思い出のふるさと」と、懐かしい記憶をしみじみとたどった詩など、それぞれが記憶と想像の世界に遊んだ。いさり火、みかん、暴風……。南予の風物に自らの思いをからめて詩作を楽しむ参加者ら=愛媛県西予市で2026年4月4日、松倉展人撮影 西予市の看護師、三好くにこさん(73)の「南予に想(おも)う」は「自分を奮い立たせる詩」を目指した。 「死んで残るものをつくりたい/枕草子の 春はあけぼのも/方丈記の川も/春望の 花も小鳥も/初恋の君も/雨ニモマケズの こわがらなくてもいいといい も/奥の細道の 行きかう年も/徒然草の すずりに向かうことも/幸若舞(こうわかまい)の 夢も幻も/なんでもある/南予のあいうえおがある/かきくけこがある/死んで残るものをつくろう」 東京から同市に移り住んで5月で1年になるコンサルティング業、津田一樹さん(34)は驚きと喜びの毎日を「私の想う南予」と題してつづった。 「南予には多くの命が生まれる/そして生まれる過程で人の手や想いが添えられている/原木にドリルで穴をあけ、一つ一つ『よく育ちますように』と願いを込めてシイタケ苗を植えていく/『みなさんの手に届きやすい大きさになりますように』と/一つ一つのブドウの房を花切りしていく/果物 作物 魚 いのちの一つ一つに感謝できるありがたさ」 これらの詩は大きな用紙に並べられ、一つの作品に。南予の生命力に触れ、温められる一日となった。【松倉展人】 ワークショップに先立って南予の詩人講座があり、大本さんは「南予の風土と詩人たち」と題してゆかりの詩人らを紹介した。坂村真民(1909~2006年) 熊本県生まれ。戦後に朝鮮から引き揚げて愛媛に移住し、現在の西予市三瓶町などで高校教員として国語を教えた。 「四国へゆかんとする/われをとどめて/里びとら言えり/四国は貧しきなり/米なきなり/薯(いも)ばかりなり/されどわれは渡りきたれり/告げんかな里びとへ/今のこころを/四国にはよき海あり/よき人あり/米とぼしくも/魚新しく/薯の旨(うま)きを」(六魚庵より里人へ)高橋新吉(1901~87年) 現在の愛媛県伊方町出身。ダダイスムの詩、小説を発表。晩年は禅の世界に傾倒する。 「留守と言へ/ここには誰も居らぬと言へ/五億年経つたら帰つて来る」(るす)中原中也(1907~37年) 山口県生まれ。高橋新吉の「ダダイスト新吉の詩」を読み感激。ダダイストを自認し、周囲から「ダダさん」と呼ばれる。野田真吉(1913~93年) 愛媛県八幡浜市生まれ。日本の映像民俗学の先駆者。詩人としても活躍。著書に「中原中也:わが青春の漂泊」など。塔和子(1929~2013年) 現在の愛媛県西予市明浜(あけはま)町生まれ。国民学校(現在の小学校)在学中にハンセン病を発病。戦後に特効薬で完治するも社会のすさまじい偏見により、高松市の国立ハンセン病療養所「大島青松園」で70年にわたる隔離生活を送る。半世紀あまりの詩作で生を肯定的に描き続ける。 「私は60年ほど前に、この古里、明浜から去らなければならなくなってしまった者です。古里は海も山も小道の草花さえ輝くようです。そして父母の眠る土地、包容力に満ちた古里の野山に、幼なじみの顔、顔、顔を添えていただいて、私の心はありがたさに泣けそうでした。古里の皆さんに温かく迎えていただいて、どう表現していいか分からないくらいうれしいです」(詩碑除幕式あいさつ)