店内でコーヒー豆の焙煎作業をする土生佳祐さん=北海道長沼町で2026年3月10日、高山純二撮影 海外を旅していると、意外と日本のことを知らないことに気付く人も多い。長沼町でコーヒー豆の焙煎(ばいせん)店を営む土生佳祐さん(43)もそんな一人だった。ヒッチハイクで日本一周 ミュージシャンとして海外の音楽フェスなどに参加していた20代後半の時、外国人に日本のことを聞かれてもうまく答えられず、モヤモヤとした「もどかしさ」が募る自分がいた。Advertisement 日本を知るため、いつか日本も旅したい--。そんな気持ちは思いのほか、すぐに実現した。 ライブハウスで共演したミュージシャンが日本各地を回り、ライブを開いて生計を立てていることを聞いた。そのミュージシャンに刺激を受け、自分も同じように日本を回ってみようと考えたのだ。 ギターと寝袋、そして、商業販売されたCDアルバム「ハーモニー」を持って、ヒッチハイクで日本一周を目指した。 バーなど人が集まる場所で演奏し、演奏場所が見つからなければ、路上に立った。チップやCD販売の収入で生活し、野宿をしたり、インターネットカフェに泊まったりしながら、約3カ月間で47都道府県を回った。 ふるさと・室蘭の繁華街でも演奏。そのとき、中学時代の同級生と再会し、後に地元で「凱旋(がいせん)ライブ」を企画してくれた。 「すごく温かいライブで、それまでの『自分一人で頑張るぞ』という気持ちから、『誰かに支えられている』という感謝の気持ちを持つようになった」 そんな音楽中心の生活が転機を迎えたのは2016年、その後、妻となる知夏さん(42)と知り合った時だった。 当時、音楽だけで生活はできていたが、結婚するとなると話が違う。「音楽だけでは養っていく自信がなく、親御さんに説明する時にも不安がられると思った」 日本各地を回っていた際、コーヒー焙煎店や喫茶店に立ち寄ることが好きだった。趣味として自宅の鍋で豆を焙煎することもあり、音楽と並行してコーヒー屋でアルバイトを始めることにした。北海道長沼町 手で回す焙煎機も購入し、コーヒー豆をライブ会場などで販売。しかし、新型コロナウイルス禍で音楽活動の回数は大幅に減ってしまう。 「先々のことを考えた時、まずはコーヒーに向き合おうと思った」と本格的にコーヒー焙煎の仕事を始める。 巣ごもり生活に嫌気も差し、東京から地方に移住することも決意。日本一周をした時、北海道の良さを再認識していたこともあり、妻や長男とともに富良野や美瑛など候補の街を見て回った。 そして、東京に戻る直前に立ち寄ったハイジ牧場(長沼町)の夕日に魅せられ、長沼に移住することを決めた。音楽と旅、そしてコーヒー 築50年を超える元畳店の住居兼店舗を改装し、向かって左側が「ばいせん屋habu」、右側は妻の「みつあみ美容店」となっている。焙煎店は秘密基地をイメージし、シックな店内は少し薄暗く、カウンター越しに3キロ釜の焙煎機が目に入る。 自身の分岐点となったタイに豆を仕入れに行くなど、どういう農園で、どういう人が作ったのかが分かる豆を使い、定番豆のブレンド「ひと息ノ調合豆」やシングル「朝」などを販売する。 ミュージシャンらしく、「四季ノ調合豆」は春夏秋冬でテーマを決めて味わいを決めつつ、長沼の季節ごとのイメージの曲をつくって、動画サイトにつながるQRコードを袋に記載する。その曲を聴きながら、コーヒーが楽しめるという趣向だ。 長沼に移住後、地元の人たちとバンドも結成し、地元のイベントなどでオリジナル曲を披露することもある。 「僕の中では音楽と旅が生涯のテーマにあり、コーヒー豆を売るなどしながら日本各地や世界各地を旅してみたい。音楽で人とつながれるのと同じように、コーヒーで誰かとつながり、自分のイメージしたものを共有できればうれしい」 音楽と旅、そして、コーヒーを軸に据え、新たな挑戦への思いも胸に秘めている。【高山純二】土生佳祐(はぶ・けいすけ)さん 1982年生まれ、室蘭市出身。北星学園新札幌高(現北星学園大付属高)卒。東京を拠点にミュージシャンとして活躍。2022年冬に長沼町に移住し、「ばいせん屋habu」をオープンした。