全日本女子学生優勝大会2連覇を目指す福岡大。前回の優勝メンバーが多く残り、実力は健在だ=福岡県の粕屋町総合体育館で2025年9月6日午後3時23分、曽根田和久撮影 学生剣道の団体日本一を決める大会が今秋も愛知、大阪の両府県で開催される(いずれも毎日新聞社、全日本学生剣道連盟主催)。「第44回全日本女子学生剣道優勝大会」は11月8、9両日に愛知・春日井市総合体育館を舞台に行われる。9月の関東大会で男子と同時優勝だった筑波大を筆頭に、昨年悲願の日本一を果たした福岡大や、九州大会で福岡大に勝利した鹿屋体育大などが頂点を目指す。11月16日にAsueアリーナ大阪(大阪市)で開かれる「第73回全日本学生剣道優勝大会」は、関東大会で6連覇を果たした筑波大、前回大会で12年ぶりの日本一を達成したメンバーが残る国士舘大などが優勝争いの軸になりそうだ。有力選手ばかりじゃないからこそ 昨年の全日本女子学生剣道優勝大会で、旋風を巻き起こした福岡大。九州大会3位から、一気に日本一へと駆け上った。Advertisement 快進撃から1年。下級生で優勝を経験したメンバーが5人残り、喜びも重圧も感じながらひと回り大きくなって、大舞台に戻ってきた。狙うは「連覇」だ。 「もしかしたら、優勝できるんじゃない」 大会中に仲間たちとそんな会話が生まれるほど、昨年の全日本は試合を重ねるたびに手応えが深まった。 40年近く遠ざかっていた「4強」という大会前の目標を超え、迎えた筑波大との決勝は5人で決着がつかず、代表戦の末に初の栄冠をつかんだ。 その代表戦で勝利し、今年は主将を務める河野百響(ももね)選手(4年)は「どんどん強い相手と試合をする中で楽しさが生まれた」。女子の監督を務める江島良介師範(69)は「挑戦者として思い切って臨んだ結果、勝利の神様がほほ笑んでくれた」と振り返る。 大学初の快挙に対する反響は、想像以上に大きかった。卒業生だけでなく、地域からも数え切れない表彰と祝福を受けた。 当然、うれしさがある一方で、戸惑いも生まれた。 河野主将は「次の試合に向けた期待の言葉はうれしいけど、『勝って当たり前』と感じる時はちょっと苦しかった」と打ち明ける。昨年の全日本女子学生優勝大会決勝で代表戦を制した福岡大の河野百響選手(左)=愛知県の春日井市総合体育館で2024年11月10日、牧野大輔撮影 九州は、名門道場や全国有数の強豪高校がひしめく。剣道が盛んな土地柄から「剣道王国」と呼ばれるが、高校を卒業後は関東の大学や、同じ九州でも鹿屋体育大(鹿児島)へと進学する有力選手が多い。 副主将の大嶋妃奈選手(4年)は中村学園女子高時代に個人として全国大会に出場した経験がなく、「決して実力がある高校生ではなかった」と振り返る。 そんな境遇を持つ福岡大の選手だからこそ備えていた「挑戦者」の精神が、少し揺らいだ。 「『挑戦者』という気持ちを確認しても、一人ずつ(優勝した選手として)見られている意識が出ていた」(大嶋副主将)。思うような結果が出ない大会が続いた。 「優勝の実績が重圧に変わっている」と感じた江島師範は選手に向けて「まだまだ弱い」と何度も諭してきた。 一見すると厳しい言葉の裏には「もっともっと強くなれる。どう考えて工夫すればよいか。ベクトルを自分に向け、課題を持ってほしい」との思いがあった。 選手たちは、自分たちを見つめ直した。卒業生の外部指導者が音頭を取って、全体ミーティングで選手にアンケートを行って本音を引き出したことで「自分の不安な気持ちを遠慮せず、試合前に仲間に打ち明けて気が楽になれた」(河野主将)。部の雰囲気が変わっていった。 今年のチームについて河野主将も大嶋副主将も「みんな明るく、学年の壁がない」と口をそろえる。チームスローガンは「明るく、楽しく、個性豊かな日本一のチームを作ろう」。苦しい時期も、明るさは絶やさなかった。 大学の長期休みに合わせて2部練習や強化合宿を行い、基本に重点を置いた練習に打ち込んできた。 「今年の選手は苦しんだ分、成長してくれた」と江島師範は語る。 競技の側面だけではない。剣道を通じて目指してきた「ささいな気遣いや心がけを行動に移せる社会人」にもつながっていると感じる。目標は優勝旗の「返還」 全日本に向けて設定した最初の目標は「優勝旗を自分たちの手で『返還』する」。九州に与えられた6枠に入り、まずはもう一度、全日本の舞台に戻ることを目指した。 九州大会は、決勝で鹿屋体育大に敗れた。「一本の重み、決定力の差を感じた」(河野主将)が、準優勝でまずは第1段階を突破した。江島師範は「宅配便で優勝旗を返したらかっこ悪い。良かった」と冗談交じりに喜びを語る。 全日本に向けて「まずは目の前の相手に集中する。一つでも多く、このチームで勝ちたい」と河野主将が語れば、大嶋副主将は「集大成として感謝の気持ちを伝える剣道がしたい」と力を込める。「学生剣道ライブ」(https://mainichi.jp/kendolive/)はこちらから! 江島師範が「大事なところで勝ってくれる」と信頼を置く2人の目標が達成できれば、連覇が見えてくる。【川村咲平】 学生剣道の団体日本一を決める両大会は、毎日新聞デジタルの学生剣道ポータルサイト「学生剣道ライブ」で全試合無料でライブ配信されます。各校の剣士たちが誇りを胸に競い合う学生剣道界最高峰の真剣勝負をスマートフォンやタブレット端末、パソコンでお楽しみください。 特設サイトでは、出場各校の選手名鑑やトーナメント表、第1回から前回までの歴代優勝・準優勝校一覧などさまざまなコンテンツを展開。大会当日にはライブ配信とともに試合結果も随時速報します。終了後はアーカイブ映像を無料配信。若き剣士たちの闘志あふれる試合を丸ごと振り返ることができます。