名馬ディープインパクトが余生を過ごした種馬場、「社台SS」とは

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レース引退後、種牡馬となったイクイノックスが暮らす社台SSの厩舎(きゅうしゃ)=安平町で2025年10月23日午後2時4分、伊藤遥撮影写真一覧 戦績、ルックス、血統――。 この三拍子がそろった超一流馬は、競走生活を引退すると、繁殖のための種牡馬として「第二の人生」を歩むことになる。 そんな彼らが暮らす種馬場の中でも、日本トップクラスの結果を残しているのが「社台スタリオンステーション(SS)」(北海道安平町)だ。Advertisement 圧倒的強さで日本中を沸かせた名馬ディープインパクトが、数多くの活躍馬を残した牧場としても知られる。 新千歳空港から車で30分。 緑豊かな道道を走ると、社台SSの看板が見えてくる。 約30ヘクタールの敷地内には牧草地が広がり、事務棟と複数の厩舎(きゅうしゃ)、種付け場が点在する。社台SSの敷地内に設置されたディープインパクト像=安平町で2025年10月23日午後2時8分、伊藤遥撮影写真一覧 1頭ごとに割り当てられた馬房内には黄金色のワラがたっぷり敷かれ、馬たちは小窓から顔をのぞかせたり、のんびり休息したりしていた。 「種牡馬になれる優秀な競走馬は1000分の1程度」 社台SS場長の徳武英介さん(63)が教えてくれた。 厩舎内を歩くと、用具置き場のタオルなど道具類が全てきれいに整頓され、秩序と清潔が保たれているのが分かる。 「芸能人だから」 いわく、種牡馬は名馬ばかりで、億単位で取引されるスター。 誰がいつ見ても完璧な状態で、万が一にもけがや病気があってはいけないのだという。 現在、社台SSには種牡馬32頭が暮らす。 主な一日の過ごし方はこうだ。 繁殖期(2~6月)は朝昼晩の1日3回、社台SSへやって来る牝馬に種付けをする。 空いた時間は馬房や牧草地で休んだり、ブラッシングなどの手入れを受けたりする。ディープインパクトが生み出した最高傑作とも呼ばれる名馬コントレイル=安平町で2025年10月23日午後1時59分、伊藤遥撮影写真一覧 シーズンオフ(7月~翌年1月)は基本的に放牧となり、円馬場で運動したり、敷地内で手綱を引かれて散歩したりもする。 スタッフの数は、獣医師と厩務(きゅうむ)員を含む約30人。年間を通じて馬の体重・血液検査を行い、食事や運動量を調整する。 相性の良い牝馬をデータと経験に基づいて割り出し、発情したタイミングで安全に迎えることにも注意を払う。 「社員はみんな勉強していますよ。休日も一日中、競馬のビデオを見て研究している」 2006年の引退から死ぬまでの12年半をここで過ごしたディープインパクトは「頭のいい馬で、何をするのか分かっているような馬だった」。 無敗3冠を含めGⅠを7勝し、日本馬として初めて世界ランキング1位になったディープ。 種付けのために組まれたシンジケート(株主共同所有)は史上最高の51億円で、その熱い期待に応えるかのように、11年連続のリーディングサイアー(1年間に子が獲得した賞金合計額1位)という大記録を残した。 現在、社台SSで種牡馬として活躍する息子コントレイルも、親子2代の無敗3冠を達成した名馬中の名馬。 同じ種牡馬として一緒に暮らす息子キズナも、24年のリーディングサイアーに輝く活躍ぶりを見せている。厩舎(きゅうしゃ)に出入りし、馬の友達になったり、漏電を招くネズミを退治したりするのに一役買っているネコの「トメ」(メス、推定2、3歳)=安平町で2025年10月23日午後3時47分、伊藤遥撮影写真一覧 そんな優秀な子孫を多数輩出したディープだが、馬房に戻れば、厩舎に出入りしていたネコ(愛称・母さん)とリラックスした様子で過ごすひとときもあったという。 徳武さんによると、ネコの存在は案外重要で、種馬場にとって一番怖い火事も防いでくれる。 電線をかじるネズミやアライグマを退治してくれるためだ。 ディープ家系に限らず、種付け料2000万円級の種牡馬を保有する社台SS。 成功の秘訣(ひけつ)を聞くと、「経営を担う創業者一族の、先行投資で勝負する情熱と才覚がすさまじい」という。 一方、現場で最良の種付けをサポートするための経験量と知恵も欠かせない。 「産駒がレースで結果を出すまでには時間がかかるが、じわじわ過去の努力が報われるとうれしい」 そんな誇りを胸に、馬と向き合い続けている。【伊藤遥】