「こんな高い靴売れるのか」 奈良の革靴「KOTOKA」の挑戦

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「KOTOKA」の靴 奈良県で「ことか」と言えば、県内で育成された大人気のイチゴ「古都華」を思い付く人が多いと思うが、2020年に誕生した「KOTOKA」はご存じだろうか。大和郡山市の製靴会社7社による共通ブランドの名称だ。複数社による同一ブランド名による靴づくりは全国的にも極めて珍しい。市の「ふるさと納税」の返礼品としても人気が高まりつつあり、発売から5年が経過して順調に歩みを進めている。【熊谷仁志】 同市小泉町にある「小泉工業団地」(12区画約5ヘクタール)。20年8月までは「県靴工場団地」の名称だった。あまり知られていないが、大和郡山はビジネス向けの紳士革靴製造では国内有数の産地。1984(昭和59)年に全国でも珍しい専用の工業団地が完成し、12区画が埋まって年200万足の生産を誇った。しかし、海外との競争激化などで生産数は徐々に減り、使われる区画は半減。靴産業以外の立地が可能になったタイミングに合わせ、名称を変更した。Advertisement 同じ時期、団地外の2社を含む7社が先細りに危機感を深め、新たな挑戦として取り組んだのが「KOTOKA」だった。発売は2020年。新型コロナウイルス禍のまっただ中の船出だった。 7社はオリエンタルシューズ、北嶋製靴工業所、シャミー、セランド、出原製靴(エンパイヤシューズ)、トローベルシューズ、東浦秀次商店。コンセプトとデザインや素材選びなど靴づくりを主導したのは鈴木理也さん(63)。アメリカの有名ブーツメーカー「レッドウイング」の日本法人の代表を長く務めた専門家だ。販売促進も担っている。オリエンタルシューズの工場で製造される「KOTOKA」の靴=大和郡山市で2025年7月18日午後2時35分、熊谷仁志撮影 世界発信のため、大和郡山ではなく、「古都・奈良」を全面に出し、古都らしい靴(古都靴(ことか))、履き心地の良い靴を目指した。特徴の一つがライニング(裏張り)を極力なくしたことで、「一枚の革がやさしく足を包む」軽快な革靴になった。 素材となる牛革にはこだわった。兵庫県たつの市の有名な皮革製造業者の革や世界的に評価されている「栃木レザー」を使った。天然素材ならではのしわや模様は個性として生かし、年月を重ねることによる革の表情の変化(エージング)も楽しめる靴になった。 靴は男性用、女性用など計約20種類。チャッカブーツやスリッポンなど多彩で、価格は2万円台のサンダルを除くと、3万円台の後半。各社がこれまで主に手がけた靴に比べると、かなり高額だ。 販売はネット通販が中心で、東京、大阪、名古屋、福岡の靴店など4カ所に展示体験コーナーを常設。イオンモール大和郡山やあべのハルカスで販売会を開くこともある。東北のジーンズショップや女性向けの比較的高級な全国展開のファッション店に靴が置かれ始めているという。 「KOTOKA」は大和郡山市の「ふるさと納税」にも大きく貢献している。市が靴を返礼品に加えたのは17年。国の公表データによると、17年度、件数(797件)は前年度から10倍増え、金額は1338万円に。24年度は1万1357件4億2545万円と、17年度比で件数で14倍、金額で32倍になった。「KOTOKA」が加わった20年度は8898件2億6539万円で、19年度から件数・金額とも2倍以上になり、その後も着実に増えている。「KOTOKA」を紹介する案内板=大和郡山市で2025年7月18日午後2時25分、熊谷仁志撮影 市によると、「ふるさと納税」に占める靴の割合は件数で7割、金額で8割。靴は全てが「KOTOKA」ではないが、市の担当者は「リピーターが多く、1件当たりの額が増える傾向にある」と話しており、「KOTOKA」の貢献をうかがわせている。 鈴木さんによると、「ふるさと納税で買った」とユーチューブで報告する人も多く、ふるさと納税でお得に「KOTOKA」を入手する人が増える傾向にあるという。 7社が加盟する「奈良靴産業協同組合」の寺岡章吾理事長(59)は「最初、『こんな高い靴が売れるのか』とみんな戸惑いがあったが、順調に育ってきた」と振り返る。これまで安さを競う消耗戦から抜け出せなかったが、独自に高い製品を作る会社も出始めたという。「安さではなく、しっかりしたコンセプトを持ち、商品の魅力をどう消費者に訴えていくか。そこに目線が移ってきた」と意識の変化を語る。 取り組みにも呼応する形で、7社のうちオリエンタルシューズが23年12月、工場に併設するファクトリーショップをオープンさせた。「KOTOKA」は購入できないが、同社製造の「KOTOKA」があれば、試着はできる。 これまでの取り組みについて鈴木さんは「個体差が出る革を使うことに、思っていた以上に積極的だった」と各社の前向きな姿勢を評価する。 寺岡さんは「私たちは革の傷やしわ、血管の跡などは避けるように教わってきたが、『KOTOKA』は天然素材の美しさを表現した今までにない靴。鈴木さんに新しいコンセプトを開拓していただいたのが何より大きい」と感謝の言葉を口にし、「知名度も『古都華』に負けないぐらいに上がってくれれば」と笑顔を見せる。