埼玉育ちのファミレス「とんでん」 嚥下障害にやさしいメニュー開発

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摂食機能が低下した人向けのメニュー「やわらかさざんか」。価格は税込み2409円。利用4日前の午前中までの予約が必要=とんでん提供 1号店を埼玉県の旧浦和市(現さいたま市南区)に出店し、現在も県内で多くの店を展開するファミリーレストラン「和食処 とんでん」。創業は北海道ながら「埼玉育ち」と親しまれている。最近注目を集めているのが、6月に摂食障害のある顧客向けに提供を始めたメニュー「やわらかさざんか」。チェーン店では全国でも珍しい取り組みだ。商品化までの苦労やこだわりを、運営会社「とんでん」(北海道恵庭市)のメニュー開発課長、川口信頼さん(44)に聞いた。【増田博樹】 --食べたり飲み込んだりする動作に問題のある「摂食嚥下(えんげ)障害」の現状は? ◆国内の患者数(65歳以上)は約120万人です。高齢者数は過去最高水準にあり、今後も患者が増えると思われます。子供や若年層にも障害を抱える方がいます。「やわらかさざんか」は、外食をしたくてもできないという皆さんに食事を楽しんでもらおうと開発しました。Advertisement --一般のメニュー開発との違いは? ◆「日本摂食嚥下リハビリテーション学会」が食材の形態などを分類しており、まずそこからの勉強でした。「やわらかさざんか」は、柔らかさなどが一般の食事に最も近い「コード4」に相当します。従来にないメニューでしたので、専門家の助言を受けながら開発を進めました。 --どんな点に苦労しましたか。 ◆単に細かく、柔らかくすればよいわけではなかったことです。ある程度大きさを残した方が歯ぐきでつぶしやすいため、簡単な歯の上下運動で食材に当たるよう工夫しました。また、液体を飲んでから固形物を飲み込もうとするとむせやすいため、まとまりやすく飲み込みやすくなるよう設計しています。 --食材には具体的にどんな調理を? ◆例えばすしのエビは、すりつぶすと食感が楽しめませんので、包丁で刻みつつプリッとした食感を残しています。うどんは、だしにとろみを付けて麺とまとまりやすくし、かみやすく飲み込みやすくしました。また、天ぷらは具材を変えたほか、衣がのどに刺さるような感触を避けるため、とろみをつけた天つゆに一度通して提供しています。 --全店での提供で現場のスタッフは大変ではないですか。 ◆開発と並んで苦労したのがその点です。まず、なぜ提供するか知ってもらうことから始めました。手間が必要なメニューなので、意義を理解しないと単なる負担増になってしまうためです。また、事故がないよう、教育担当者が一つ一つ確認しながらスタッフに作り方を伝えました。時間をかけています。 --多様なメニューがある中で、なぜ「さざんか」を? ◆すし、そば(うどん)、天ぷら、茶わん蒸しを一度に楽しめる「さざんか」は看板商品で、過去に食べた方も多いと考えました。外食をあきらめていた方にも「ああ、あの時食べたな」と思い出してもらいやすいと期待しています。 --反響は? ◆試食会の時には「わあ」と歓声が上がりました。こんな食事ができるんだと。店での提供開始後は、介護する家族から一緒に外食を楽しめたと喜びの声が届きました。また、介護・医療関係者からも注目してもらっています。発売から4カ月間での提供数は160食。多くのお客様に利用いただいています。とんでんの川口信頼さん=さいたま市南区で2025年10月16日、増田博樹撮影 --今後について教えてください。 ◆より多くの嚥下機能に不安がある方に外食を楽しんでもらいたいですね。レストランチェーンでのこうしたメニューの提供は、将来障害を抱えた時に近所に外食できる場があることを思い出し、安心してもらえるという点でも意義があると考えています。今後は、コード4のメニューを広げるか、もっと症状の重い方向けの商品を開発するか、お客様の声を聞きながら検討していきたいと思っています。川口信頼(かわぐち・あきより)さん 北海道出身。2004年、「人事担当者の人柄のよさ」を感じてとんでんに入社。複数の店舗で店長を勤め、19年から現職。趣味はランニング。写真のキャラクターは、「名物ジャンボ茶わんむし」をモチーフとした「ジャンボくん」。