鉄道車両紀行:かんなと、やすりを一度に? 京王電鉄ミリング式レール削正車

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ミリングユニット(右手前)をレールに下ろすROMILL600DT=東京都八王子市で2026年1月、渡部直樹撮影写真一覧 京王相模原線京王堀之内―南大沢駅間の下り線。終電後の暗闇の中を、2両で計約25メートル、総重量約79トンの重厚な編成が静かに進みます。その後ろには新品のようなレールが顔を出しました。 京王電鉄がこのほど、私鉄として初めて保有したドイツ製のミリング式レール削正車「ROMILL600DT」です。今年1月、その作業に同行しました。Advertisement削正現場に向かうROMILL600DT=2026年1月、渡部直樹撮影写真一覧 若葉台の車両基地を出たのは午前1時前。時速40キロほどで作業現場に向かいます。目的の位置でいったん停車し準備を整えると、最初に仕上げを行う砥石(といし)式の装置が、次に超硬合金の刃を多数持つ直径60センチの円盤「ミリングホイール」がレールの上に下ろされました。午前2時ごろ、編成が時速600メートルほどで動き出しました。 「列車が多数往来するとレールには人の目には見えない『疲労層』(こまかい変状)が蓄積します。これを除去することで傷の発生を抑えレールを安全に保ちます」。同社工務部の保線担当・赤坂恭央(やすお)課長補佐(53)が解説します。ミリングユニットと仕上げ砥石ユニットにより表面が整えられたレール=東京都八王子市で2026年1月、渡部直樹撮影写真一覧 この日はレール表面を0・7ミリほど削りとり、新品同様に整えました。ホイールの少し後方に、別途砥石が斜めに取り付けられていて、レールの上面、車輪のよくあたる部分を特になめらかに磨き上げます。 京王電鉄ではこれまでも、外部の専門業者に委託してレール研磨をしていました。その際使われていたのは複数の砥石を使って削るタイプの車両です。複数回往復してレールを削る、いわば「やすりがけ」でした。 一方、今回導入した車両は、一度に「かんながけ」と「やすりがけ」を行うイメージです。既存車両では一晩に200メートルほど削っていたところを、600メートル程度削ることができます。ROMILL600DTのミリングユニット=京王電鉄の若葉台車両基地で2026年1月、渡部直樹撮影写真一覧 削正後のレールを見ると、レール左右にはミリングユニットが削った跡のうろこ状の模様が、中央には砥石に磨かれた直線状の模様が浮かびあがりました。微細な凹凸が除去され、乗り心地や騒音が低減されます。レールの削りかすは車内に回収され、リサイクルできます。 削正車両を自社で所有し、グループ会社の京王建設が運用することで、これまでより高頻度で削正作業を行えます。レールの寿命が延び、交換など保線の負担も減る見込みです。 京王建設に新たにできた部署「削正車チーム」の大宅修一係長(48)はこの日、細かい部分の試行錯誤を繰り返しました。 内容は、「構造上、レールが他より低くなっている継ぎ目の部分をどう削るべきか」「分岐器など、既設の支障物によって削れない部分がある場合、何メートル手前でミリングホイールを持ち上げるべきか」などです。レール表面を整える仕上げ砥石ユニット=東京都八王子市で2026年1月、渡部直樹撮影写真一覧 「いままで使ってきた(線路下の砕石を突き固める)マルチプルタイタンパーや、モーターカーとは全く違い、京王に誰もエキスパートがいない状態で、手探りでやっています。これから上達してもっといい削正ができれば」と決意を示します。 車両側面には、ミリングホイールを回すリスのキャラクターがあしらわれています。これは保線を担当する工務部と、広報部が一緒に考えたものです。夜間工事で音を立ててしまうこともあり、沿線に住む人などに理解を求める意味もあって親しみやすいキャラクターを目指しました。 当初は「ビーバー」を考えていたといいます。しかし、相談を受けた広報部の松本洋征(ひろゆき)企画宣伝担当課長(50)は、ストーリーを持たせるため沿線に野生で暮らす動物にすべきだと考えました。ROMILL600DTに貼られたキャラクター「ロミーくん」。高尾山にすむニホンリスをモチーフとしている=京王電鉄の若葉台車両基地で2026年1月、渡部直樹撮影写真一覧 沿線の「高尾山」ではモモンガが人気者として知られますが、空を飛んでしまうので線路を削れません。そこで高尾山のもう一つの人気動物「二ホンリス」に白羽の矢を立てました。「小学生のころにシマリスを飼っていて、可愛さはよく知っていたので、ぴんときました」 来年春ごろまでに、線路幅の異なる井の頭線を除く京王線の線路を一度は削る予定です。赤坂課長補佐は「大多数のお客様は多分気づかれないのでは」としながらも「走行音が下がったり、乗り心地がよくなったりすると思う」と自信をみせます。 私たちが眠る間に安全を支える、リスのマークの保守用車。その効果にぜひ期待したいです。【渡部直樹】車両基地を出るROMILL600DT=東京都稲城市と川崎市の境で2026年1月、渡部直樹撮影写真一覧【前の記事】箱根登山電車「モニ1形」の意外すぎるルーツ