経営者イノベーション委員会:日本再興のラストパス--「BANI」の荒野に打ち込む、産官学のくさび フューチャー・イノベーション・ラウンドテーブル

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「フューチャー・イノベーション・ラウンドテーブル」のパネルディスカッションに登壇した左から、ファシリテーターを務めたSUNDRED代表取締役の留目真伸氏、エデルマン・ジャパンのパブリックガバメントアフェアーズマネージングディレクター兼日本代表を務める群裕一氏、脱炭素成長型経済構造移行推進機構(GX推進機構)理事の梶川文博氏、東急総合研究所代表取締役社長の東浦亮典氏、毎日新聞論説委員の竹川正記氏、EYJapanパートナーの小林暢子氏、Japan Innovation Network Chairperson理事の紺野登氏=東京都港区で2026年2月、AA creative works撮影 産官学のリーダーが集まり、日本のイノベーションの現状と未来を「フラットに」議論する場として、経営者イノベーション・ラウンドテーブル2「フューチャー・イノベーション・ラウンドテーブル」が2月3日、東京・内幸町の日比谷国際ビルコンファレンススクエアで開催された。一般社団法人Japan Innovation Network(ジャパン・イノベーション・ネットワーク、以下JIN)Chairperson(チェアパーソン)理事の紺野登氏、東急総合研究所代表取締役社長の東浦亮典氏、毎日新聞社論説委員の竹川正記氏のキーメンバーは、かつて世界を記述した「VUCA(ブーカ)」(「変動性」「不確実性」「複雑性」「曖昧性」を意味する英語の頭文字を取った造語)という言葉は、今や過去の遺物になりつつあり、我々が今立っているのは、さらに過酷な「BANI(バニ)」の時代だと語った。BANIはBrittle(もろさ)、Anxious(不安)、Non-linear(非線形)、Incomprehensible(不可解)の頭文字を取った言葉だ。 イノベーションは「たまに起こる特別なこと」ではなく「日々継続して行われるシステマティックな活動」へと変貌していると紺野氏は強調。日本には個別の要素技術はそろっているものの、業界を超えた「エコシステム」の形成が諸外国に比べて遅れているという課題を東浦氏は提起。デジタル時代の総力戦において、官民が連携して国家のレジリエンスを高める場の重要性を竹川氏が説いた。Advertisement 昨日までの成功法則が、ある日突然、音を立てて崩れ去る。この予測不能な荒野において、日本という国はどう舵(かじ)を切るべきか。「経営者イノベーション・ラウンドテーブル」で交わされた対話は、単なる技術論を超え、国家の生存戦略としての重みを帯びていた。イノベーションは単なる「本業以外のこと」ではなく、日常的かつシステマティックに取り組むべき課題であり、エコシステムを通じた破壊的変革が必要であると定義された。 経済産業省の菊川人吾氏は、2024年、翌25年のノーベル経済学賞がイノベーションと制度の関係に焦点を当てていることに触れ、政府が「新技術立国」を目指し、①社会実装の加速、②政府調達による市場創造、③国際標準・企画の活用の3点を明確に指示していることを報告した。また、アジアのスタートアップの出口が東京市場(東証)に向いている現状を受け、日本の役割への期待が再認識された。プラチナ社会への転換 三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏は、2050年を見据えた「プラチナ社会」の実現を提唱した。・資源自給:化石資源から再生可能エネルギーへ。都市鉱山やバイオマスを活用し、地下資源に頼らない「資源自給国」への転換。・ソーラーシェアリング:耕作放棄地等を活用し、発電と農業を両立。初期投資の回収が5年程度で可能であり、地域のエネルギー自給と経済活性化の核となる。・生涯成長と産業:人材、健康、観光(未来が見えるプラチナ社会のショーケース化)を新産業として育成。  特に、個人マネーを「社会的共通資本」への投資(国内投資)へと向ける受け皿作りの重要性が強調された。安全保障と経済の融合 国際問題戦略研究所(IISS)ジャパンチェアのロバート・ウォード氏は、ビデオメッセージを通じて、地政学リスクの増大により「経済と安全保障が不可分」になったと指摘した。中国の台頭やウクライナ情勢を受け、イノベーションは企業利益のためだけでなく「国家の生存(National Survival)」の問題となった。日本の22年国家安全保障戦略において「総合的な国力」という言葉が使われ、その中でイノベーションが不可欠な要素として位置付けられたことを評価した。五つのテーマ別ラウンドテーブルの提言「フューチャー・イノベーション・ラウンドテーブル」では、テーマごとに五つの会場に分かれ意見を交わした。「創造産業のイノベーション」をテーマにした会場の様子=東京都港区で2026年2月、AA creative works撮影 分科会では、日本のイノベーションを阻む「オーバーガバナンス(過剰管理)」や「縦割り(省庁、企業内、学術)」の打破が共通の課題として挙がった。・創造産業:「スーパー・ガラパコス」として日本独自の文脈を徹底的に深掘りし、デジタルで世界と接続する。無形資産の評価軸の確立が必要。・環境:環境価値を単なるコストではなく「もったいない」精神等の日本的価値観にひも付け、生活者発信のイノベーションを起こす。・地域(イノベーション地区):都市は単なるハコモノではなく、多様性と雑駁(ざっぱく)さ、そして「コネクター(つなぎ手)」が評価される場であるべきだ。・安全保障:デュアルユース(民生・軍事両用)の推進。軍事アレルギーを克服し、国家観を持った経営が求められる。・AI(人工知能):人間がドライバーシートに座る「人間主導」のAI活用。日本の「匠(たくみ)の技(暗黙知)」をデータ化し継承する手段としての活用。共通の課題と今後の展望「フューチャー・イノベーション・ラウンドテーブル」の会場で、熱心に耳を傾ける参加者たち=東京都港区で2026年2月、AA creative works撮影 本会議は単なる情報の共有にとどまらず、日本の未来に向けた「知的コンバット」の場として、多くの示唆に富む提言を生み出した。会議の締めくくりとして、以下の共通課題が浮き彫りとなった。・人材のコネクティビティー:異なる分野をつなぎ、共鳴を起こす人材こそが、BANI時代を突破する鍵となる。・構想力と意思決定の欠如:資金不足ではなく、社会の全体像を描く「構想力」と、リスクを取る「意思決定」が不足している。・縦割り(サイロ)の打破:産・官・学それぞれの内部に存在する縦割りが、エコシステム形成の最大の足かせとなっている。 「茹(ゆ)でガエル」という厳しい指摘もあった。しかし本会議の熱量は、決して絶望から生まれたものではない。むしろ「今、水温の変化に気づき、飛び出す準備ができている」という、前向きなエネルギーに満ちていた。日本再興のラストパスは、今、私たちの手元にある。