関西福祉大の谷口泰司教授=本人提供 大阪市にある福祉関連会社「絆ホールディングス(HD)」傘下の4事業所が、障害者の就労支援加算金を不正受給した問題が明らかになった。 4事業所は「就労継続支援A型事業所」として利用者が働く機会を提供したり、一般企業などへの就職に必要な訓練をしたりしていた。Advertisement 不正受給が確認されたのは「就労移行支援体制加算」で、事業所の利用者が就職して半年以上働いた場合に事業者に支払われる。4事業所は大阪市の監査で3月、76自治体から少なくとも約150億円を不正に受け取っていたことが判明した。 大阪市によると、4事業所は市が求めた約110億円の返還に期限を過ぎた24日時点で応じておらず、処分を不服としているという。 今回の問題で浮き彫りになった課題や対策について、関西福祉大の谷口泰司教授(障害福祉論)に聞いた。【井手千夏】 記者 加算金の不正受給が起きる背景には、どのような要因があると思いますか。 谷口泰司教授 行政側の人手不足により、事業所や加算金を申請する書類のチェック体制が追いついていないことが考えられます。 障害者の働きたいというニーズは非常に高く、国も障害者雇用を促進しています。働きたい利用者がいる中で、事業所の数が増えること自体は問題ないと考えています。絆ホールディングスが入るビル=大阪市中央区で2026年1月8日午前10時21分、高良駿輔撮影 しかし、行政は圧倒的に人手が足りていません。適切な運営になっているかを調べる実地指導が数年に1度になってしまったり、監査と言いながら書面中心の調査で実態が不明だったり、不正を摘発できるような体制が整っていないのが現状です。 障害者雇用の成長スピードに、周辺整備が追いついていません。性善説に基づく申請主義 Q 他に考えられる要因はありますか。 A 申請すれば支援を受けられる「申請主義」の問題もあります。特に障害者福祉は性善説に基づいています。 事業所から書類が申請された場合、記載内容に不備がなければ行政は積極的にはねつけることができません。法の隙間(すきま)をついて、「どうすれば金もうけができるか」しか考えていない悪質な事業所も存在するのです。 また、利用者やその家族の中には、勤務内容などについておかしいと気が付いても、「働かせてもらっているだけでありがたい」「余計なことを言ったら働かせてもらえないかもしれない」と感じ、不審な点を指摘できず問題が表面化しづらいという面もあります。これは施設での虐待などが表面化しにくい点と似ています。 Q 加算金の不正受給を防ぐため、国も対策を進めています。厚生労働省は加算金の算定根拠となる人数について上限を設け、過大な請求を防ぐ方向で調整しています。 A 今回のような問題を抑制するためには一定の効果があると言えます。 一方で、上限を定めることに反対意見もあるでしょう。現時点では、利用者から一般就労に移行できる人は決して多くなく、設けられる上限に達するほどの人数はいないのではないかと思います。 制度を進めてみて、上限の数が課題になってきた時にしっかりと見直しや改善をしたらいいでしょう。絆ホールディングス傘下の事業所での不正受給について、記者会見で説明する大阪市職員=大阪市北区で2026年3月27日午後0時1分、鈴木拓也撮影「行政の本気示せ」 Q 行政側の人手不足もある中、再発防止のためにどのような制度や見直しが必要ですか。 A まずは監査機能の強化です。今年はA型事業所、来年はB型事業所などと狙いを定めて、重点的に実地指導に入ることが効果的です。 期間ごとに対象を絞り込むことで、人手不足が解消する可能性もあります。その過程で、利用者の成果は出ているか、成果が出ていない場合はどう改善しているかなど、事業所における質の面も徹底的にチェックするべきです。 また、新規参入の事業所に対する「総量規制」も有効的です。事業所に対して行政側の本気の姿勢を示すことが重要になります。