24色のペン:五輪盛り上げた中国系選手と米国系選手=畠山哲郎

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ミラノ・コルティナ冬季オリンピックのフィギュアスケート女子フリーで演技する米国のアリサ・リュウ選手=ミラノ・アイススケートアリーナで2026年2月19日、猪飼健史撮影 きらびやかな金色の衣装が氷上を舞う。回転ジャンプのたびに歓声が巻き起こる。アップテンポになるディスコミュージックとともに躍動感も増し、演技の最後、左手を高く突き上げ、笑顔を見せると、会場は興奮の渦に包まれた。 ミラノ・コルティナ冬季オリンピックのフィギュアスケート女子で2月19日、金メダルを獲得した米国代表のアリサ・リュウ選手(20)。特徴的な黒と金のしま模様の髪や明るい性格もあいまって、たちまち世界的なスターになった。Advertisement 「金メダリストはみんな素晴らしいアスリート。その一員になれて本当に光栄」 中国出身の父を持ち、中国系アスリートとしても知られる。競技は中国国営中央テレビでも放送され、春節(旧正月)休暇中のお茶の間をにぎわせた。ミラノ・コルティナ冬季オリンピックのフィギュアスケート女子フリーで演技を終える米国のアリサ・リュウ選手=ミラノ・アイススケートアリーナで2026年2月19日、猪飼健史撮影 ただ、その父のアーサー・リュウさんが、民主化を求める学生らを中国当局が武力弾圧した1989年の天安門事件を巡り、米国に亡命したことは、中国ではほぼ報じられていない。 米メディアによると、アーサーさんは64年、内陸部の四川省生まれ。中国の大学を卒業したが、天安門事件を巡り中国共産党・政府に抗議したため、「政治亡命者」として25歳で米西部カリフォルニア州に移った。 弁護士資格を取得して米国で弁護士として働き、匿名の卵子提供と代理母により5人の子供を授かった。そのうちの一人、2005年に米国で生まれたのがリュウ選手だ。 中国では天安門事件はタブー視されている。中国のネット百科事典「百度百科」ではリュウ選手の父としてアーサーさんも紹介されているが、渡米については「留学した」とだけ記されている。 不穏な話もあった。AP通信によると、アーサーさんは前回大会の北京冬季五輪直前の21年10月、自身とリュウ選手が中国によるスパイ活動の標的になっていると米連邦捜査局(FBI)から告げられた。同11月には、2人のパスポート番号を尋ねる不審な電話もあった。 北京大会の期間中、リュウ選手には付き添いがついたが、食堂では見知らぬ男性に声をかけられ、つきまとわれたという。北京では6位にとどまり、24年に復帰を表明するまで一時競技から退いた。 今大会の金は米国勢の女子シングルとしては24年ぶりの快挙だったが、こうした背景もあり、中国メディアでは控えめな報道が目立った。国営新華社通信は、リュウ選手の演技の様子を写した写真とともに、「最終的に彼女がチャンピオンとなった」と短く報じた。ミラノ・コルティナ冬季オリンピックのフリースタイルスキー女子ハーフパイプで金メダルに輝いた中国代表の谷愛凌選手=イタリア北部リビーニョで2026年2月22日、AP 一方、五輪の「顔」として中国メディアが多く取り上げたのが、同じ米国生まれで、フリースタイルスキー女子ハーフパイプの金を含め今大会計三つのメダルを獲得した中国代表の谷愛凌(こくあいりょう)選手(22)だ。 北京出身の母と米国人の父を持つ谷選手は、03年に米国で生まれた。15歳で出場した19年1月のワールドカップのスロープスタイルで初優勝し、その後中国代表として北京五輪を目指すことを選択。米国系の中国代表アスリートとして、北京では金2個と銀1個のメダルを獲得した。 モデルとしても活躍する彼女は、中国内外のさまざまな企業とスポンサー契約を結んでおり、中国では人気の広告塔となっている。ただ、もともと米国生まれだっただけに、米国では反感も買ったようだ。ミラノ・コルティナ冬季オリンピックのフリースタイルスキー女子ハーフパイプで金メダルに輝いた中国代表の谷愛凌選手=イタリア北部リビーニョで2026年2月22日、AP バンス米副大統領は大会期間中、FOXニュースの取材に「米国で育ち、教育システムや自由、権利の恩恵を受けて育った人は、米国と共に戦いたいと考えるよう望んでいる」と発言し、谷選手に苦言を呈した。米国では「裏切り者」とみなす声もあった。 今大会では当初、優勝が期待されたスロープスタイルとビッグエアでいずれも2位にとどまった。米メディアによると、ある記者からは「2個の銀メダルを獲得したと考えるか、2個の金メダルを失ったと考えるか」と問われたという。 こうした経緯もあってか、2月22日のハーフパイプで優勝した後、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」に、「金を得たのか、銀を失ったのか???」との字幕付きで、金メダルを見せびらかして挑発するような動画を投稿した。 保守派の論客で知られる中国紙「環球時報」元編集長の胡錫進氏は同日、交流サイト(SNS)で、リュウ選手の父の亡命を巡る米メディア報道や、谷選手に対するバンス氏の発言に触れ、「スポーツにこれほど激しい政治的な内容を加えるのは本当に低レベルだ」と批判した。 「五輪は世界を映す鏡」ともいわれ、さまざまなルーツを持った選手が活躍することは今日では当たり前になっている。米中が世界を主導する2極体制「G2」が叫ばれる中で台頭した中国系と米国系の2選手は、今後も冬の五輪をけん引する存在となるのだろうか。【中国総局・畠山哲郎】