映画の推し事:音で分かった不ぞろいのジャガイモ 音声ガイドが見た「90メートル」

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映画の推し事毎日新聞 2026/4/17 06:30(最終更新 4/17 06:30) 2671文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷「90メートル」Ⓒ2026 映画『90メートル』製作委員会 ここでは、音声ガイド制作を通じて見えた映画作品の魅力をお伝えしています。音声ガイドとは主に視覚障害のある人が映画を見る時に使う映像を説明したナレーションのことで、私はナレーターに読んでもらうための原稿を書いています。 今回の制作において、私は客観的に原稿の中身をチェックするサブ制作者の立場で関わりました。少しだけ経験値が多い分、メインの書き手の原稿に、いろいろと口出しをしたりもしました。Advertisement母子の性格示した冒頭場面 映画の冒頭シークエンスはとても大事です。でも多くの人は映画を一度しか鑑賞しないので、忘れてしまうかもしれませんが、「90メートル」は冒頭の映像から素晴らしいものでしたので、音声ガイドの側面から紹介してみます。 黒い画面があけると、主人公の佑ら子どもたちのバスケットボールの試合が、スローモーションで映し出されます。躍動感に見入ってしまいました。コートの横では、母親の美咲が懸命に応援しています。 以下、音声ガイド。<>の中は、本編の内容です。****(佑が)一回り背の高い相手ディフェンスをかわす。<美咲「行け行け行け! 佑」>髪を一つに結んだ美咲。小柄な17番、佑がシュートするが外れる。相手にボールを取られ、佑が必死で追う。****「90メートル」Ⓒ2026 映画『90メートル』製作委員会 その後、18歳、高校生になった佑の生活は大きく変わっています。美咲が筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、佑が1人で介護をすることになるのです。展開にどんどん引き込まれていくのですが、思い返すと、冒頭に佑と美咲の普遍的な性質が映し出されていることに気づくのです。何が映っているか さて、音声ガイド原稿を作る際に、私が重視するのは「画面に何が映っているか?」です。 例えば、教室で担任の先生が皆に模試の結果を配布しているシーン。当初、ガイド原稿は「(教室で)模試の結果が配られている」と一文で伝えてありました。もちろん間違いではありません。 しかし私がサブ制作についたのが運のつき? もう少し映像を説明してみようよ、と書き手をあおり、結果、以下のようになりました。****教卓の前の佐藤の手元。進み出た生徒に模試の結果を渡す。<教師が「村上」と呼び、「はい」と答える音声>受け取る男子生徒の手元。戻る足取りが遅くなる。生徒たちが笑顔で見せ合っている。****「90メートル」Ⓒ2026 映画『90メートル』製作委員会 そうなのです。映像内では、最後の1行の「生徒たちが笑顔で見せ合っている」部分までは誰の「顔」も見せておらず、でも結果の良しあしが分かる表現がおもしろいと感じたので、視覚を使わない鑑賞者とも共有できるといいなと思いました。包丁さばきの違いが聞こえた 映画は音で伝える部分も多いものです。「90メートル」では、まな板の上でジャガイモを切る音から、視覚障害のあるモニターにも伝わったことがありました。 映画の序盤にあった佑の野菜を切る様子は、素早い手さばきという類いではないですが、形がそろっていて、丁寧でスムーズでした。 しかし、回想場面では包丁さばきもおぼつかず、視覚障害のあるモニターたちも、音を聞いただけで、きっと不ぞろいだろうなとイメージしていました。 この後、美咲が食卓で「ジャガイモが生煮えだよ」と言います。その時は、息子も頑張ってるのだから許してあげて、と思っていたのですが、見終わった時に、あの時も文句を言ったのではなく、今後の息子のために教えようとしていたのか、と分かって泣けます。「90メートル」Ⓒ2026 映画『90メートル』製作委員会菅野美穂の発声に驚き このチャーミングな母・美咲を演じている菅野美穂さんのお芝居における声の出し方が素晴らしくて、驚きました。 以前、ALS患者の支援をされている方と出会い、いくつか患者の動画などを見たことがありました。その中の患者と同じような発声だと感じました。音声ガイドナレーションをしてくれた雨谷和砂さんは開口一番、中川駿監督へ「菅野さんは口の中に何かを挟んで演技をされているんですか?」と聞いたほどでした。 音声ガイドの書き手はとにかく分かってもらえるようにと、心を砕いて原稿を書いています。私のように映像になるべく添うことを優先する人も、そこは同じです。 ただ、音声ガイドの言葉で実際の映像からくる印象と違うものをイメージさせそうな時は、こだわってしまいます。 たとえば、廊下をバスケ部の翔太たちとマネジャーの杏花が歩いてくるシークエンスに、前のカットで暗転したまま、声だけで始まるところがありました。 音声ガイドの書き手は、今どこで、を伝えなければいけないけれど、会話が続いていて入れるスキマがない、と考えたため、黒い画面のうちから「廊下」と入れました。その時点で、視覚障害者の脳内スクリーンには、廊下の映像が出てしまいます。 でも、視覚を使っている私は、翔太たちがたわいない話をしている声だな、と思っていて「ここどこよ?」とは全く思っていません。製作者の意図に近づきたい なぜならまだ黒い画面だからです。廊下が映った時点で、声の主である翔太が廊下を進んでるよ、と伝えるだけでいけそうだったので、そのように修正してもらいました。 後日改めて、中川監督に、黒みの映像から声が入る意図はどういうことでしょうか?と尋ねたところ、翔太にではなく、後ろから歩いてきている杏花に着目してもらいたい狙いから、映像を少し遅らせています、という回答でした。 その回答を聞いて、やはり黒みのうちから「廊下」と出すのはよくないね、と原稿の書き方も決まりました。 そんな細かいところまで気づく人いないよ、とおっしゃる方もいるかもしれませんが、作品の製作者の意図にはできる限り近付きたいのです。音声ガイドは100点満点のない世界だからこそ、そこをおざなりにすると軸のないぐずぐずのガイドになってしまうと思うからです。「90メートル」Ⓒ2026 映画『90メートル』製作委員会ヤングケアラーに思いはせ 2人きりの家族で、お母さんが1人では生活できない状態になった時に、佑のように、世話をする息子や娘は「ヤングケアラー」と呼ばれ、昨今では社会の中の問題として取り上げられることも増えました。 この作品を見て、健康な家族が面倒を見ればいい、ということではない、という点だけでなく、自分が動けなくなったらどうすればいいだろう?と考えるきっかけをもらいました。 そして私は、この映画の中であまりにもレシピノートがステキだったので、まねをして、誰に見せるでもなく、レシピノートを作って楽しむようにもなりました。レシピノートもまた、重要なキーアイテムです。未見の方はお楽しみに。(松田高加子)【時系列で見る】【前の記事】キース・ジャレット名盤の裏 アプレ女子高生と敗戦国のトラウマ関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載1時間24時間SNSスポニチのアクセスランキング1時間24時間1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>